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隠者の食卓 野草でプデチゲを作る 【週末隠者】

 私がいおりを構えるD市は大きな街ではありません。生活に必要な施設は一通り揃っているものの、コンビニや深夜営業のラーメン店を除けば夜遅くまで営業しているお店はほぼ皆無です。当然、例えば夜遅くに車でやって来たような場合、買い物も食事もままなりません。しかも家自体が街の中心部からだいぶ離れた、急の買い物には不便な場所にあります。
 いちおう夜中に身一つで到着しても食べる物だけはあるように、レトルト・インスタント食品や缶詰類はある程度ストックしています。ただ、それをそのまま食べるだけでは工夫がない気もするため、自宅で少し手間をかけたアウトドア料理ができないかと考え、あれこれ試しています。「自宅でアウトドア」というのも何やら変ですが、時には手近の自然の中から必要なものを調達したり、最低限の手間と器具で身の回りの用を足したりする必要がある隠者の暮らしは毎日がアウトドアのようなものですので、あながち間違ってもいないのです。
 今回紹介するのはそうした「自宅で作るアウトドア料理」の一つ「プデチゲ」です。もともとは食料が乏しかった時代の韓国で、米軍の余った軍用食を利用して作ったのが起源だそうですが、肉(ソーセージやランチョンミートのような加工肉)と汁の素だけ準備し、後は適当に材料をぶち込んで煮込めば良いだけなので、キャンプなどのアウトドアにも非常に適した料理ではないかと思います。
 というわけで、北海道では春まだ浅いゴールデンウィーク中のある朝、外に出てプデチゲ用の野草を摘んできました。所要時間15分ほどで【写真1】のような材料が集まります。

【写真1】使った材料。野草は上段左からシロツメクサ、ヒメジョオン、タンポポ、中央がアカザ、下段左からミツバ、ギョウジャニンニク

シロツメクサ:要するにクローバーです。多少筋っぽいものの味にクセがなく食べやすい野草です。紫色の花が咲くアカツメクサ(レッドクローバー)も同様に食用になります。
ヒメジョオン:よく道端に生えている草です。同属のハルジオンとまとめて「貧乏草」(注1)とも呼ばれます。春の若葉は柔らかく、ちょっと春菊に似た味がします。
タンポポの葉:タンポポの仲間は葉のほか花も根も全草が食用になります。キク科の野菜によくある独特の苦み(例えばレタスの芯のあの苦み)が感じられるものの、いろいろな料理に合います。
アカザ:こちらも道端によく生えている草で「あかざあつもの」といえば質素な食事の比喩として使われる言葉です。ただ、家の周囲にはあまり生えておらず、少ししか採れませんでした。同じアカザ亜科のホウレンソウのアクを少し強くしたような味がします。
ミツバ:家の周囲に大量に生えています。野生のものは栽培ものより繊維が固い一方で香りは強く、汁の実や麺類の薬味として重宝します。
ギョウジャニンニク:北海道の代表的な山菜の一つ。ニラを柔らかくしたような食感にニンニクのような強い香りがあります。これだけは自生ではなくあらかじめ家の近くに苗を植えておいたものです。

注1:なお、「貧乏草」の呼び名は同じく食べられる野草で春の七草の一つでもあるナズナに使われることもあります。

 このほか家の周囲にはセリも生えていますが、混生する猛毒のドクゼリとの判別に自信がなかったため、この時は摘みませんでした。
 肉はランチョンミートを使いました。1缶(340g)の三分の二ほどを薄切りにして入れたものの、1食分には多かったようです。たまたまこの時は「スパム」を使いましたが、普段私が使っているのは発色剤無添加の国産ランチョンミートで、量的にもそちらの方が1回分にちょうど良さそうですので、参考までにリンクを張っておきます。

 汁の味付けにはキムチの素を使いました。私が使っている桃屋のキムチの素は保存料が入っていない代わりに塩味が強めで、煮込むうちにランチョンミートからも塩気が出るため、味付けは薄めにします。【写真2】の量では少し濃かったので、もう少し薄味にした方が良かったかもしれません。

【写真2】材料を全て鍋に入れたところ

 作り方は単に材料と水を鍋に入れて煮込むだけ【写真3】。このあたりの手軽さもキャンプ料理向きでしょう。

【写真3】調理中

 完成【写真4】。実際に作ってみると、野草の量はこの倍量以上あっても良かったと思います。味付けが濃いため個々の野草の味が今ひとつ不明瞭になるのが少し残念ですが、それでもなかなかの美味でした。

【写真4】完成

 余った具と汁には、これまたストックしていたラーメンの麺だけ入れて煮込みラーメンを作りました。この時使ったラーメンはインスタントラーメンではなく登山家の皆さんが愛用する乾麺タイプの棒状ラーメンです。お味は正直、普通のインスタントラーメンの方が上かなと思うものの、コンパクトで場所を取らず、インスタントラーメンのように長期の保存で油が酸化して品質が大きく劣化することもないため(注2)、荷物をなるべく小さくまとめねばならないキャンプや登山、防災用を兼ねた長期の備蓄などにはこちらの方が向いていそうです。

 ともあれ十分に満足の行く味に仕上がったので、首尾としては上々でしょう。皆さんもキャンプなどでお試し下さい。ただ、野草を採集する時は(図鑑などを持参して確認するか詳しい人に同行してもらって)間違って毒草を摘まないよう十分に注意し、汚れていないきれいなものを選んで採った上で寄生虫の感染や食中毒を防ぐためしっかり洗って十分に火を通してください。以上、野草で作ったプデチゲのレポートです。

※参考図書として

注2:昔、しまい忘れていた7年ものくらいのインスタントラーメンを無理に食べたことがありましたが、機械油で揚げたような恐ろしい味と臭いで、そのあと猛烈な下痢に見舞われました。食べ物を惜しむのにも限度があるようです。

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