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時事無斎雑話(16) プチ電力自給生活事始め(前編:つくる・ためる編)

 以前防災関係の記事を書いた時に少し触れましたが、私が暮らす北海道では、厳寒期に災害などで電気が止まると暖房もストップしてしまい、結果として生活に深刻な影響が出る危険があります。そうした事態への備え、さらにアウトドアでの使用や日常生活の中での電力自給・CO2排出削減も考えて、このたびソーラーパネルでの充電が可能な家庭用蓄電装置を導入しました。それを使ったプチ電力自給生活の実践レポートを今回・次回とお送りします(注1)。
 購入したのは米国・ジャクリ社製、容量1000ワット時(以下Whと表記)の蓄電装置と出力200ワットのソーラーパネルのセットです。前編では「つくる・ためる編」としてソーラーパネルでの発電とバッテリーへの充電について報告します。蓄電装置にはバッテリーの残量(%)のほかその瞬間の充電・放電のワット数が表示されるディスプレイがあり、文中の値はその表示に基づいたものです。また、電気工学的には必ずしも正確ではないかもしれませんが、本記事では前後編を通して、充電・放電ともに「1Wh=バッテリー容量の0.1%」として計算します。

注1:電力以外の自給生活についても実はあれこれ試しているのですが、そちらは将来的に一つの連載にまとめたいと思います。また、今回のレポートは特定の商品についてのレビューではなくソーラーパネルと蓄電装置の使用についての一般的な話が中心となります。

1.発電(ソーラーパネル)

 ソーラーパネルの出力は前出の通り200ワット、商品ラインナップの中で最大のものを選びました(写真1)。運搬・収納時は縦方向に4つ折りに畳むことができ、広げると幅240cm、高さ60cm程度の大きさとなります。可搬性を重視した軽量化のためか(とはいえけっこう重い)、思っていたより華奢な作りです。なるべく日当たりを良くするため「両側にある持ち手部分にロープを通してベランダの外に吊す」という方法を考えていたものの、それをやると真ん中あたりで割れてしまいそうで断念しました。結局、集合住宅のベランダ(南向き3階、南西にやや高い建物)の手すりの内側に置いての使用となります。

写真1 ソーラーパネル。展開してベランダに置いたところ

 カタログスペックは200ワットですが、ベランダに置くとどうしても手すりの陰がかかるため、実際にはそこまで出力が上がることはありません。快晴の日の南中時刻前後に真正面からパネルに日が当たる、という最も条件の良い状態で120ワット程度というのがこれまでの最大値です。
 最大出力の持続時間は比較的短く、せいぜい1日のうち1~2時間といったところです。さらに、日の射す方向が少し斜めになって手すりの陰も多くかかるようになると60~70ワット、夕方になって日差しが弱くなれば20~30ワット、日没が近づき南西にある建物の陰に太陽が隠れると、ヘッドライトを点けずに車を運転できるような明るさであっても数ワットというように急速に出力は低下します。条件が悪くなるごとに何ワットずつ減っていくという等差級数的な減少ではなく、半分、さらにその半分、そのまた半分という等比級数的に減少していく感じです(図1)。

図1 発電量の経時変化のイメージ

 雲の影響も想像以上に出ます。ほんの薄曇り(雲を通して太陽がはっきり見える状態)でも出力は快晴時の5~6割ほどに低下し、太陽が見えないような厚い雲だと2割前後にまで落ち込みます。その状態で太陽が少し傾けば、出力はあっという間にゼロ近くまで下がってしまいます。
 こうしてみると、効率的な発電のためには条件の良い時間帯にいかに直射日光を逃さず捕らえるかが重要になりそうです。そういう意味では、日当たりの良い場所を選んで設置でき、太陽の動きに合わせてこまめにパネルの向きや傾きを変えられる野外での使用には向いているかもしれません。いずれにせよ、太陽光をメインに充電を行うつもりならソーラーパネルは可能な限り出力が大きなものを選ぶべきでしょう。

2.充電(蓄電装置)

 蓄電装置には最上位機種として容量1500Whのタイプもあり本当はそちらが欲しかったのですが、結局セールで割引率の高かった1000Whタイプを購入しました。とはいえ、これだけ容量があればかなりいろいろな用途での使用が可能です。
 装置の重量は10kg少々、米袋くらいの重さです。頑丈な持ち手が付いているので米袋よりは持ちやすいとはいえ、人力で長距離を持ち運ぶのは少し大変かもしれません。可搬性よりも汎用性と耐久性に重点を置いた設計なのでしょう。
 充電はソーラーパネルに加え「一般家庭用の100ボルト交流電源」「自動車などの直流シガーソケット(12~30ボルト)」の3方式に対応しています。業務用の200ボルト交流電源には対応していません。一方の出力方式は「100ボルト用コンセント」「12ボルト直流シガーソケット」「充電用USB」の3通りです。
 いちおう電気を使いながら充電を行うことも可能ですが、それをやるとバッテリーへの負担が大きく寿命が短くなるので(これは携帯電話などのバッテリーも同様)、同時使用は避け、基本的に日中は太陽光での充電、電気の使用は夜間など充電をしていない時に、と分けることにしました。日中も電化製品を使いたいのであれば2台持ちして充電と電気の使用を交互に行うなど良いかもしれません。
 また、装置に使われているリチウムイオン電池は過放電状態に置くと急激に劣化します。残量ゼロ近くの状態で放置したり、バッテリーが空になるまで使ったりするのは避けるべきです。逆に満充電の状態でさらに充電を続ける過充電も良くありません。使う家電の種類にもよりますが、いろいろと試した結果(詳細は後編)、容量の60~80%、600~800Wh程度の残量をキープしていればある程度余裕を持って電気を使えるという結論に行き着いたため、必ずしも満充電になるまで充電を続ける必要はないでしょう。
 ソーラーパネルを日の出から日没までベランダに出しておいた時の蓄電量は条件の良い日で450Wh、最も条件の悪い日で100Wh程度でした。これは日の短い冬季の数字で、日の長い夏季ならもう少し発電量は増えるであろうことを考えると、月平均で10kWh近くの発電量は見込めそうです。自宅の電力使用量を調べたところ月に100kWhほどでしたので(注2)、毎日布団を干す程度の手間で使用電力の1割ほどが自給できる計算になります。アウトドア用の電源や災害時の備えとしても役立つことを考えれば悪くない数字ではないでしょうか。やはり太陽の力は偉大です。
 ソーラーパネル以外に車のシガーソケットからの充電も試してみました。こちらは運転速度やエンジンのふかし具合にかかわらず、コンスタントに80ワット前後の値が続きます。バッテリーが空の状態から満充電まで12時間ほどかかる計算で、日常的に車で充電を行うメリットはなさそうですが、ソーラーパネルを持っていない人がキャンプなどで遠出をした際、バッテリー残量が心許ない時に車から充電していくらか補充しておく、という使い方はありかもしれません。このほか災害時など車を発電機(あるいは蓄電池)代わりに使わねばならないケースで、電力の持ち運びに蓄電装置を使う、という利用法も考えられます。
 そうやって貯めた電力をどう使うか。後編「つかう編」に続きます。

注2:単身かつ平日日中は不在の時間が長く、普段から節電も心がけているためか、平均よりはかなり少ない値のようです。

※後編はこちら
時事無斎雑話(17) プチ電力自給生活事始め(後編:つかう編)|MURA Tadasi (村 正)|note

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