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時事無斎雑話(17) プチ電力自給生活事始め(後編:つかう編)

※前編はこちら

時事無斎雑話(16) プチ電力自給生活事始め(前編:つくる・ためる編)|MURA Tadasi (村 正)|note

 前編「つくる・ためる編」では、主にソーラーパネルを使って蓄電装置に充電するところまでを解説しました。後編では、そうやって貯めた電気でいろいろな家電を動かし、蓄電装置での使用の向き不向きを考えてみます。

1.携帯電話

 これはもう必要なだけ充電できます。蓄電装置の充電用USBコネクタを利用すれば他の電化製品をつなぐ邪魔にもなりません。手持ちのスマートフォンでは充電時の消費電力は7ワット、バッテリー残量20%未満から90%以上にまで充電しても、蓄電装置のバッテリー残量は1%ほどしか減少しませんでした。せっかくですので災害時などには周囲の人たちにもケチらず気前よく使わせてあげましょう。

2.PC

 こちらも余裕を持って使用できます。PCの消費電力はノートPCであれば20ワット、一体型デスクトップでも40ワット前後。晴れた日にソーラーパネルでの充電を1日行えば400Wh程度の蓄電ができるので、それだけで1日5時間の使用が2日可能になります。実際、現在私が自宅で使うPCの電力はほぼ自家発電でまかなっている状態です。
 PCを蓄電装置で使うメリットは他にもあります。普通のコンセントと違って電源が外部とつながっていないため、雷の時にもサージ電流を気にする必要がなく、また急な停電が起きてもPCが落ちる心配がありません。ちょうどUPS(無停電電源装置)の上位互換のような役割を果たしてくれます。

3.オーブントースター

 PCのような小出力・長時間での使用とは逆に、短時間に大出力で使用するような家電はどうでしょう。オーブントースターを蓄電装置につないでトンカツと唐揚げをトレイに並べ、タイマーを少し長めにセットして動かします。
 消費電力は800ワット強、焼き上がった時にはバッテリー容量は10%(100Wh)ほど減っていました。晴天時の1日の蓄電量の4分の1に匹敵する電力です。例えば1日に1回、朝食時にトーストを焼く程度の使用なら何とかなりそうですが、「トーストを焼いて、電子レンジでスープを温めて、コーヒーメーカーでコーヒーを淹れて」のような使い方を毎日するのは、蓄電装置では無理そうです。

4.強制吸排気(FF)式灯油ストーブ

写真1 FFストーブ。背面に室外につながる吸排気口があります

 前に書いたことですが、点火や吸排気に電力を必要とする強制吸排気式ストーブ(以下、FFストーブ。写真1)のような暖房器具は、燃料自体はガスや灯油でも、停電が起きると他の電化製品と同様に止まってしまいます。厳寒期の北海道ではこれは死活問題になりかねません。
 実は防災面から蓄電装置購入を考えた時に最も重視したのがこちらで、テストも他の家電の時より念入りに行いました。十分に充電した蓄電装置にFFストーブをつなぎ、状態を慎重にチェックしてからおもむろにスイッチを入れます。使用電力はいきなり600ワットを示し、そのあとも点火まで600ワット強から400ワットの間で変動し続けます。当然、電源の出力がこの値を下回ればストーブは点きません。蓄電装置でFFストーブを動かす場合、最低でも700ワット以上の出力を持つ機種を選ぶ必要がありそうです。
 燃焼が安定して吸排気のみの状態になると、消費電力は40ワット前後にまで下がりました。結局1時間ほど使ってバッテリーの減りは10%(100Wh)程度。点火に必要な最大出力さえ確保できればその後の電力消費は決して多くないため、頻繁に点けたり消したりするのではなくある程度長い時間焚き続けて部屋に熱を溜め込んでおく方が電力の消費は抑えられるでしょう。

5.灯油ファンヒーター

写真2 灯油ファンヒーター

 やはり電気で点火と吸排気を行うタイプの灯油ストーブですが、煙突あるいは外部への吸排気口を持つ固定式のFFストーブと違って、持ち運びが可能で置く場所を選びません(写真2)。暖地や、北海道でもワンルームマンションや貸間であればファンヒーターを使っている人の方が多いでしょう。こちらの方が早く部屋が温まるため(ただし定期的な換気が必要)、私自身も補助的な暖房器具としてFFストーブと併用しています。
 蓄電装置につないで動かしてみると、点火時の消費電力はやはり600ワット前後を示しました。FFストーブとの違いは、吸排気を兼ねた送風が電気を食うためか、燃焼が安定してからも120~140ワット程度の電力消費が続くことです。当然、バッテリーの減りもFFストーブより早くなります。
 こちらも点火時の出力さえ確保できれば使用に支障はないものの、蓄電装置との相性はFFストーブの方が良さそうです。両方お持ちの方はFFストーブを使うことをお奨めします。

6.布団乾燥機

 持続的に大きな電力を消費する家電の代表としてテストしてみました。おそらく電気ストーブやこたつなども似た結果になるはずです。
 蓄電装置につないでスイッチを入れた直後から520~550ワットの電力消費がずっと続きます。そのあと大急ぎで風呂に入っている間にバッテリー容量は15%(150Wh)ほど減っていました。満充電の状態から2時間と持たずにバッテリーが空っぽになる計算ですので、景気良く使うのは無理そうです。
 しかも、そうやって20分ほど乾燥させた布団に入ってみたところ、冷たかった布団がいくらか生暖かくなった程度で「乾燥」には程遠い状態でした。部屋の空気もひんやりした状態のままです。結局500ワット・20分程度の電力消費で発生する熱では布団や部屋全体の空気を暖めるにはとても足りないのでしょう。
 結論として、電力で部屋全体を暖めるような暖房家電は蓄電装置での使用には向いていないと思われます。暖を取ったり温かく寝たりしたいなら、電気毛布などで直接体を暖めた方が効率が良さそうです。そして布団は晴れた日に外でお日さまの光に当てて乾かしましょう。やはり太陽の力は偉大です。

7.電気毛布

 というわけで、次に電気毛布を使ってみることにしました。
 動いている時の消費電力は90ワット程度。温度設定を低めにしたため、ずっと動き続けるのではなく、しばらく点いてはしばらく消える、という動きの繰り返しです。すぐに温かくなる、というわけではありませんが、時間が経つうちに体も布団もじんわりと暖まってきます。消費する電力も1時間に50~60Whといったところ(ただし製品や設定温度によって変わるはず)なので、他の家電と同時に長時間使用することも可能でしょう。アウトドアや車中泊の時に体を温めるのにも向いていそうです。

 こうしていろいろ試した結果、現在私自身は日常的に蓄電装置を①PC、②電気毛布、③スマートフォン充電、の3つに使い、余裕がある時はFFストーブも蓄電装置で動かす、ということをしています。もちろん充電は全てソーラーパネルで行っています。逆に、大出力の家電の使用は全般的に蓄電装置には向いていないようです。
 その他の家電についても、今回の結果をもとにいろいろと応用が考えられます。例えば夏に蓄電装置を使って涼を取るなら、部屋全体を冷やすエアコン(消費電力は布団乾燥機と同等の600ワット程度)ではなく小出力のUSB扇風機で体だけを冷やすようにする、などです。
 一方で防災という視点からは、全ての家電を蓄電装置で動かそうとするのではなく他の手段を考えることも重要になります。例えば停電時にご飯を炊くなら、蓄電装置で炊飯器を使おうとするより、飯盒や土鍋(むろん普通の鍋でも可)を使ってガスやカセットコンロで炊く方がはるかに合理的です。
 エコ生活にせよ防災にせよ(実はこの二つはけっこう共通する部分が多い)、大切なのはまず「考える」ことです。逆に言えば、「考えること」を放棄して、真摯に問題に取り組もうとする人間をただ冷笑してみせるような社会(まさに今の日本のような)には、結局のところ環境問題や災害や社会の矛盾に対処できずに凋落していく以外の未来はありません。これは個人でも同じで、普段からこの問題について考えている人とそうでない人とでは、いざ問題に直面した時、それを解決できるかどうかに大きな差が出るはずです。場合によってはそれが生死を分けることすらあるでしょう。
 別に全てのご家庭がソーラーパネルや蓄電装置を準備しておく必要はないかもしれません。ただ、普段からそれについて考えておくことは大事なのではないか、気が付けば今年も3月11日が近づく中で、私はそう思うのです。

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