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夜長の恋路に明けぬ朝

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大学生活を謳歌したい(恋愛的に)と励む男と サークルの先輩から頼まれた本を探す乙女の 世界が交差しては離れる恋愛的な小説です。 『いや、断じて逃がしてなるものか。』
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記事一覧

夜長の恋路に明けぬ朝 11話

夜長の恋路に明けぬ朝 11話

いったいなにが起きたと言うのだろうか。
私はいつもより少し早い電車に乗り、悲しくも田崎という酔狂で変人の男がニコニコと隣におり、そしてその隣にはうら若き乙女が座っているではないか。

ゆゆしき事態である。
かくも危機的な状況こそ打開するのが日本男子だとすればなにができようか。

“今日は天気がいいですね。”とか?
いやいや、なんだか白々しい。
“昨日は1人であの居酒屋にいたのかい?気付かなかったな

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夜長の恋路に明けぬ朝 10話

夜長の恋路に明けぬ朝 10話

昨日はお酒も飲んだせいか、すぐに寝てしまいました。
思いのほか目覚めもよく、なんだか今日は良いことが起きそうな気がします。
朝食を食べたあと、簡単な化粧をして少し早いのですが大学へ向かうことにしました。
少し早くアパートを出たせいか、時間にも余裕があってなんだか得をした気持ちです。

この街の朝は学生やサラリーマンがそれなりに多く、8時台の電車は混みます。
もし電車で座りたいなら7時台に駅へ行けば

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夜長の恋路に明けぬ朝 9話

夜長の恋路に明けぬ朝 9話

田崎はいつも甚平姿であり、一体彼が何年生なのか、なにを選考しているのかも謎なのである。
だが事あるごとに私の前に現れては振り回して何処かに消えてしまう迷惑な先輩であった。

「こんな朝から大学に行くなんて久しぶりだ。そもそも駅から電車に乗ることすら久しい。」
「一体どんな生活をしているんだ貴方は。」

ハハハと田崎は笑い、私にパンやオニギリが大量に入ったビニール袋を見せ、

「収穫が入ったんだ。こ

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寄り道にて考える

寄り道にて考える

はじめまして都市農村です。なんでこんな名前にしたのかすら今は覚えていません笑

今、マガジンで投稿している小説「夜長の恋路に明けぬ朝」をお読み頂き、ありがとうございます。

人生初の小説、いわゆる処女作でして、小説の体裁すら為し得ていないと思います。それでも毎話スキボタンを押してくださる方々へ御礼を申し上げます。ある程度書いていけたので振り返りがてら思ったことを投稿します。

なんで小説を大人にな

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夜長の恋路に明けぬ朝 8話

夜長の恋路に明けぬ朝 8話

平日の朝とはなんとも無機質であり、無感情の始まりである。

特に早朝から汗を流しながら新聞を配達している私に感情などとは無縁の長物なのだ。
いつもの配達ルートを自転車で周り、息を切らせながら早朝を駆けていくのである。

「新聞配達ではない、これはあくまでスポーツだ。」

そう自分をアスリートがごとく鼓舞するのが日課ともいえた。
ようやく配達ルートおおよそ廻る頃には段々とサラリーマンや学生もチラホラ

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夜長の恋路に明けぬ朝 7話

夜長の恋路に明けぬ朝 7話

すっかり時間も遅くなってしまいました。
老婦の恋物語を聞きながらお酒を楽しむ時間もお開きです。

「ご馳走様でした。とても素敵な話が聞けて私も幸せな気持ちになりました。」
「それはよかったわ。またいつでも来なさい。貴女も大学生よねえ。さっきまで隣にいた男も大学生なのよ。」
「そうなんですか、大学生もこのご時世珍しくないものです。常連さんなのですか?」
「そうねえ、常連といえば常連ね。本が好きすぎて

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夜長の恋路に明けぬ朝 6話

夜長の恋路に明けぬ朝 6話

酔えなかった酒ほど残念なものはない。
私にとって酒とは普段理性的で知性溢れる己の解放なのだ。
本来であればあの黒髪の乙女と今頃熱い青春を過ごしていたであろう。
無感情に並ぶ住宅街を歩き、太尾神社を過ぎ去ると木造アパートが我が城である。
明日は早朝から新聞配達なので、今から寝ても数時間だろう。
こんなことならばひたすら寝ておけばよかった。
やれやれとため息をもらしながら燃えるゴミを今のうちからまとめ

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夜長の恋路に明けぬ朝 5話

夜長の恋路に明けぬ朝 5話

静かな住宅街にひっそりとあるこの居酒屋は私の憩いの場になりました。

古書店では目的の本がみつけられませんでしたが、まだ時間はあります。
今日は老夫婦の馴れそめを再び聞いて癒されることにしました。

店に入るとまだ人は疎らです。
私はお一人様なのでカウンター席に座ります。

「いらっしゃい、なににしますか?」
「こんばんは、ビールと厚焼きたまご、あと冷や奴を下さい。」
「はいよ、おや先週も来てくれ

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夜長の恋路に明けぬ朝 4話

夜長の恋路に明けぬ朝 4話

この街のことはおおよそご存知いただけたと思うが、うだつの上がらぬ大学生がせめて恋人の一人でも作りたいと願うのは罪だろうか。
恥ずかしながら私はこれまで恋人の一人もできたことがない。とはいえ勉学に勤しんでいたとか、スポーツに明け暮れた日々ではないので実に救いようがないのである。
決して私の容姿もそこまで悪いはずはないのだ。そう、あの高校時代に毎朝「おはよう」と言ってくれた三つ編みの少女はきっと私に好

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夜長の恋路に明けぬ朝 3話

夜長の恋路に明けぬ朝 3話

すっかり夕日も落ちてしまって、歩くのも疲れてきました。
自炊とは無縁の生き方をしているので、私には今日の夕食のあてがありません。
こんなとき、王子様がやってきて私を素敵なディナーに誘ってくれたらと願うのは罪でしょうか。
そっと手を差し伸べてくれる殿方がいてもいいではないですか。
フンッと鼻息たてて、道を1人歩きます。
太尾神社を過ぎ、駅前通りをスンと向かいます。季節は夏間近となっていて、街灯から街

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夜長の恋路に明けぬ朝 2話

夜長の恋路に明けぬ朝 2話

人間とは突然夜道を歩きたくなるものでしょうか。
この春とも夏ともいえない季節です。夜長の今こそ物思いにふけたいと私は浮き足立っています。
この街は繁華街と無縁です。私の憩いは夜遅くまでやっている古本屋と先週立ち寄った居酒屋「田楽」でした。
古本屋は私のアパートから太尾神社を横切り、雑木林を抜けると見えてくる木造家屋のお店です。
お店が見えれば少し勇み足にもなり、店前につく瞬間、どことない緊張感に酔

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夜長の恋路に明けぬ朝 1話

夜長の恋路に明けぬ朝 1話

都内から電車で約30分、コンクリートジャングルなビル群とは一転して閑静な郊外の住宅街である。
夜の郊外とはなんとも無機質であり、田園地帯のような自然の香りがするわけでもなく。せせこましく早歩きで進むサラリーマンが我先にとひしめき合うわけでもなく。

特筆すべきといえば、駅から少し離れた小道に一体誰の金で潰れずにいるのかわからぬ定食屋や居酒屋が、地元の経済を支えていると言っても過言ではない。なかでも

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