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吉田修一の「パークライフ」について

 今回紹介するのは吉田修一の「パークライフ」である。表題作と「flower」の2編の中編が収録されている。表題作は芥川賞を受賞していると知り読んだ次第である。ちなみに今回が初読ではなく2度目である。
 吉田修一という作家にはあまり縁がない。高校3年の頃に「横道世之介」を読んだくらいだ。めちゃくちゃ面白かったと記憶している。そのせいで、芥川賞よりも直木賞を取ってそうなイメージが私の中にあったので、図書館の文庫本のコーナーで本書を手に取って芥川賞受賞作と知ったときは不思議な気がしたものだ。
 表題作のパークライフは日比谷公園を舞台にした話だ。主人公は入浴剤を販売する会社で働く男で、電車内で上司と間違えて全く知らない女に話し掛けてしまう。後日、日比谷公園で女と再会してそれからコーヒーを飲みながら話すようになる。
 物語の最後で、2人は女の故郷が撮られた写真展に行く。展示された写真を全て見終えると女は突然「私、決めた」というようなことを言い放つ。何を決めたのかは明かされない。私が読んだ限りでは、推測するには情報が少なく、作者も読み手に考察させる気がないように思える。その後、2人は別れ、1人になった主人公は自分まで何かを決心したような心地になって小説は終わる。
 不思議な読後感のある小説だ。面白いか面白くはないかと問われると面白くはない。だけど、図書館で見かけるとふと手に取ってしまうような魅力があるとは思う。好きな嫌いかで言われたら、嫌いではないが力強く断言できるほど好きでもない。例えるなら、1年に1回くらいの頻度で会う友人程度には好んでいるかもしれない。

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