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現代詩「マクドナルド」

現代詩 マクドナルド
村崎懐炉

マクドナルドのドライブスルーで買う夕飯は
手抜きであるかもしれないが
僕にとっては遠き日の懐かしい味

昔は外食なんて機会がなくて
持ち帰りのマクドナルドはご馳走だった

食卓の上は煮物ばかりの毎日で
洋風の献立が並ぶことは稀だった

僕は煮物に嫌気がさしていたし
アメリカ映画が流行っていたし
そんな頃に
商店街にできたマクドナルドは憧れだった
貧相な商店街に光る赤と黄色が眩しかった

いつの間にか時間が経って
僕はご飯を食べるだけの人から
たまには作る人になった

日曜日の夕飯は
お魚にしようかお肉にしようか
お野菜は何が安いか
スーパーを歩いて考える

だけれど今日は一人でご飯を食べるものだから
台所には立たずに
ちょっと手抜きで済ませるんだ

考えてみれば
かつてアメリカ風のご馳走は
今では手抜きと言われるように
なったんだな

それくらい世の中は変わったし
僕も変わった

それでも紙袋の温もりは
遠き日の温もり
かつて僕の周りにいた人たちの
変わらぬ温もり

運転しながらポテトを食べる
信号待ちでコカコーラ
郊外の駐車場に車を停めて
紙包みを半分開き
ハンバーガーを一口食べる

夕焼けに街が沈んでいく
ハンバーガーを食べる夕暮れは
またたく間に日が落ちて
僕は夜と夕焼けに挟まれた