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現代詩「エンベロープ」

私の数々が空気中を漂って
見つけたのはあなた
あなたの吸気とともに
私は口腔から喉奥に侵入したのです

慕情は私を分裂せしめて
あなたの中で
自我の
増殖を繰り返します

抑制がきかず
私は私を見失い
あなたの隅々に侵蝕して
物狂い
あなたと私は不可分に
なって
慈しみ合い
活かし合い
ころし合います

無数の生死の果てに
一個の私は
潤って柔らかな
あなたの細胞膜に
安息を見つけました

何も考えずゆっくりと
長夜を眠るのです

深く寝て
気が付くと
いつの間にか
布団は空っぽで
私は一人になっておりました
あなたは消えて
残されたものは
潤いをなくして
干からびた
あなたの細胞膜

私は細胞膜を外套にして
再び漂う生活です

私のノマドは
レイジーで
かつ
リリカル
そしてペーソス

メランコリックで
センチメンタルな夜が明けて
ノスタルジーは
ロマンチックでアンニュイな
一つのアイロニー

街角のカフェで
コーヒーを飲みながら
私は空を見上げました

空は灰色です
大気は乾燥しています
身を切るような
寒さです

私はあなたを探して
外套の襟を立てて
ふわりと飛んで行くのです