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サム・ライミ監督の映画「ダークマン」レビュー「ダークマンは痛快なヒーローじゃないよ。」

人工皮膚の研究に没頭する若き天才科学者ペイトン(リーアム・ニーソン)。
彼が研究中の人工皮膚は光に弱く光を99分間照射され続けると
溶解してしまう難点があり,
その難点を克服すべく日夜研究に勤しんでいるのだ。

そんな研究三昧の日々の唯一の「憩いのひととき」を
もたらしてくれるのは
恋人ジュリー(フランセス・マクドーマンド)の存在だ。
彼女は若くして弁護士となり,その敏腕ぶりを如何なく発揮しているのだ。
彼女にとってもペイトンと一緒に過ごす「憩いのひととき」は
何ものにも変え難い大切な時間なのだ。
ふたりの進む道は違えども
お互いに支え合って生きていることに変わりはないのだ。

そんなある日,ジュリーが土地の再開発に絡む
収賄事件の証拠書類を入手したことを知った
不動産屋の元締ルイス(コリン・フリールズ)は
懐刀であるデュラン(ラリー・ドレイク)に「事の始末」を一任した。
デュランは配下を従えペイトンの研究所に押し入り
彼をを拷問した挙句,証拠書類もろとも研究所に火を放った。

だが全身に大火傷を負いながら病院に担ぎ込まれた
ペイトンは辛うじて生きていた。
しかし痛覚を司る神経は機能不全を起こし
殴られようが撃たれようが全く痛みを感じなくなった。
さらに通常の人間ならば無意識に抑制する
怒りの「加減」ができなくなってしまったのだ。

今やペイトンは,ひとたび激昂すると抑制が機能せず
怒りの対象に向かって全力で攻撃する
全く痛みを感じない「超人」となったのだ。
彼は研究所の残骸から燃え残った機材を廃屋に移し
彼が開発した人工皮膚により次々と人相を変えながら
彼を斯かる仕儀に追い込んだデュラン一味,及び,
その背後で糸を引く元締ルイスに復讐すべく
自らを「ダークマン」と名乗り活動を開始したのであった…!

サム・ライミ監督が渾身の力を込めて生んだ
顔のない男「ダークマン」(91年)。
紛れもなくティム・バートン監督の「バットマン」(89年)の影響を
多分に感じとれる意欲作であるが,
「バットマン」の興行収益は「ダークマン」の約8.4倍であり
「バットマン」は知ってても「ダークマン」は知らん人が多い。
「ダークマン」を生んだサム・ライミ監督が
「スパイダーマン」(02年)で広く一般大衆の知る所となるには
更にに11年の歳月を要するのであった。

今では「ダークマン」の廉価版BDも出ているが
パッケージ裏面には
「「スパイダーマン」のサム・ライミが放つ痛快アクション巨編!!」
と書かれている。

彼女と遊園地に行って輪投げをして思う様に景品が取れず
「イカサマすんな!」
と激昂して輪投げ屋の親父の腕を粉砕する男の映画が「痛快」かね。

このペイトンの「どうしょうもないところ」が
顔に大火傷を負って,かつての恋人にすら素顔を明かせない所と併せて,
正体を隠さざるを得ないヒーローの悲哀を描いているのだから
ダークマンは普通に生きられない孤独に生きざるを得ない
「哀しいヒーロー」なんだ。

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