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「ナンセンスコール」について

われわれ遺伝専門医の重要な仕事のひとつに、妊娠と気づかず薬を飲んだ、レントゲンを撮った、感染症にかかった(ワクチンをうった)といった妊婦からの相談があります。これらは純粋な意味での「遺伝」ではありません。だから「ナンセンスコール」と呼ぶことがありますが、それが遺伝学からみて「ナンセンス」だったとしても,妊婦さんたちの不安にはかわりありません.

薬やワクチン、被爆の妊娠への影響は環境要因であり、厳密には遺伝カウンセリングの対象ではありません。しかし実際には不安をもつ妊婦は遺伝カウンセラーを訪れることが多く、遺伝学的にはナンセンスでも妊婦にとってナンセンスなテーマはないということにつきます。

こういった相談のための方法論は遺伝学的にはすでに確立していて、エビデンスにもとづいたカウンセリングの手法で対応します。これまで蓄積されたデータをもとに適切な情報を提供し、リーズナブルな自己決定を促します。

たとえば新型コロナパンデミックのときに,反ワクチン派がいくら煽っていても、妊婦さんにとってワクチンのメリットが高いのはあきらかでした。反ワクチンが根拠のないデマを煽り、不安をもった多くの妊婦さんから相談をうけてましたが、ワクチン推奨の姿勢で一貫して対応いたしました。

東日本大震災の原発事故後の時期には、低線量被曝への不安を覚えた多くの妊婦さんに遺伝カウンセリングをおこないました。当時福島周辺で得られたデータや広島長崎の調査研究などから考えて,妊産婦さんと生まれてくる赤ちゃんにはほぼ影響ないだろうと推測されたので,そのように説明とカウンセリングをおこないました.当時,奇形とか流産と騒いだ放射能デマはいまは嘘のように静かです。

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