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腸内フローラで骨を強くしよう‼️〜腸内細菌叢と骨粗鬆症の関連〜

今号は2021年に当院が発表した腸内フローラ(腸内細菌叢)と骨折のリスクに関する論文を分かり易く紹介したいと思います.

10周年のご挨拶


地域の皆様や関連施設の皆様に支えられて、お陰様で2023年5月1日で開院10周年を迎えることとなりました。感謝申し上げます。今後も診療やリハビリを通じて、より一層地域に貢献できますよう、スタッフ一同努力して参ります。よろしくお願い致します。

研究を始めたきっかけ


ヒトは腸の中に1000種類100兆個の腸内細菌と共生しています。ヒトの体細胞数が30-50兆個ですから、宿主(ヒト)よりも多くの腸内細菌と共生しているという事は大変興味深いです。腸内細菌は色々な働きをする異なる菌が集団で腸に生息しており、一つの生命体のようなため、『腸内細菌叢』と言われております。また、菌種ごとの塊となって腸の壁に隙間なくびっしりと張り付いており、品種ごとに並んで咲くお花畑(flora)のようにみえることから『腸内フローラ』と呼ばれています。腸内フローラは一つの臓器のように機能しており、色々な役割などが科学的に解明されてきています。腸脳相関といって、腸と脳は血液を介して、やり取りをしており、アルツハイマー病やうつ病などと腸内フローラとの関連が分かってきています。
整形外科の分野では関節リウマチの研究は散見されておりましたが、骨粗鬆症や骨折との関連の研究はあまりありませんでしたし、きっと関連があるだろうと考え研究を始めました。

骨粗鬆症


近年、日本の人口は急速に高齢化しており、全国の骨粗鬆症患者の推定数は1,300万人を超え、特に女性で増加しています。
骨の強さ(強度)は、骨の量(骨密度)7割、骨の質(骨質)3割と言われており、最近では骨質が注目されています。骨質にはビタミンK、D,葉酸が関連する事が分かっています。大学で勤務していた頃に、骨粗鬆症の採血検査(骨代謝マーカー)にucOCという項目が保険適応となりました。「ucOC」とは骨の中のビタミンKが足りているかを測定する検査項目です。当時から、著者はビタミンKに注目して、よく検査で調べていました。

ビタミンK


アクティブシニア「食と栄養」研究会HPより抜粋


主に植物によって作られる『ビタミンK1』と、微生物によって作られる『ビタミンK2』があります。そして、世界中で最も多くのビタミンK2が含まれている食品は「納豆」です。
ビタミンKの主な作用
①    出血時に血液凝固を助ける働き。「止血のビタミン」
②    骨にカルシウムが沈着するの(骨の石灰化)を促して骨を強くする作用。骨の健康維持に不可欠なビタミン。
納豆の摂取量と骨折の発生率
納豆とビタミンK、骨折発生率を調べた面白い研究がありましたので、ご紹介します。ご存じのように、「納豆」は東日本(東京)では頻繁に食べられていますが、西日本(広島)ではほとんど食べられていません。この研究によると納豆の摂取量が多い地域は、血中のビタミンKが高く、股関節骨折が少なかったようです。納豆摂取によるビタミンKが骨折を抑制している可能性が示唆された訳です。

研究方法



Osteoporosis International 2021年掲載


「Osteoporosis International 」という骨粗鬆症に関する国際科学雑誌に2021年に掲載された我々の論文の内容をご紹介します。当院を受診された38名の閉経後の日本人女性を対象とし、骨密度、および血液検査にて骨代謝マーカー(TRACP-5b、ucOC)をはじめ骨の代謝に関わる因子(ビタミンKなど)を測定しました。同時に食習慣、運動習慣などをアンケートで調査し、腸内細菌叢の分析は、日本の株式会社サイキンソーに委託しました。検査値、及びアンケート結果をそれぞれ高値と低値の2グループに分け、グループ間の腸内細菌の割合を比較検討しました。骨折リスクは、腸内細菌叢の2つのグループと骨折歴から骨折の発生率(罹患率)を計算しました。

結果と考察


患者さんの平均年齢は62.9歳(50〜82歳))でした。門レベル※での腸内フローラ組成の平均値は、ファーミキューテス門で52.6%、バクテロイデテス門で32.8%でした(図)。平均43歳の日本人の割合と比べると、ファーミキューテス門が多く、バクテロイデテス門が少ない結果でした。年令により、ファーミキューテス門は増えて、バクテロイデテス門は減る傾向にあるようなので、年齢構成の差と思われます。

図:門レベルでの腸内細菌の割合



※細菌の分類
細菌(生物)は門、…、科、属、種と細分化され、分類されます。ちなみに、ヒトは脊索動物門、…、ヒト科、ホモ属、サピエンス種となります。それぞれの日本国埼玉県…と住所みたいなものをイメージして下さい。

バクテロイデス属


血中のビタミンK2濃度を高い群と低い群でバクテロイデス属の割合を比較したところ、ビタミンK2が高いグループでバクテロイデスの割合が多いことが分かりました。ちなみに、ビタミン K2 濃度の2群に納豆摂取量の差はありませんでした。文献を調べてもバクテロイデスがビタミンKを産生している報告がありましたので、この結果も矛盾していなかったと言えます。さらに、バクテロイデスの割合が多いグループと低いグループで骨折の発生率を調べたところ、それぞれ52.9%、9.5%でした。言い換えれば、バクテロイデスが少ない群で骨折リスクが5.6倍高い結果でした。つまり、バクテロイデスが骨折の発生に対して、マイナスに影響している事が示唆されました。難消化性デンプン、高レベルの水溶性繊維を含む食事を摂取すると、バクテロイデス属が増えることが報告されていますので、上記の食事を摂取すると、骨折のリスクが軽減される可能性があります。

バクテロイデスとリケネラシーの結果


リケネラシー科


骨密度が高い群と低い群でリケネラシーの割合を調べたところ、骨密度が高い群ではリケネラシーの割合が0.82%、低い群ではその割合が2.15%でした。骨密度が低い群でリケネラシーの割合が多かった事から、このファミリーが骨の強さに悪影響を与える可能性があることが示唆されました。
高脂肪食を与えられたマウスはリケネラシー科の割合が増加することが報告されているため、これは動物実験ですが、高脂肪食を控えることは骨の強さにプラスの影響を与える可能性があるのではないかと考えました。

研究のまとめ


 バクテロイデス属が多いことが骨の質や骨折の予防にプラスの役割を果たす可能性があることを示唆されました。また、リケネラシー科は骨代謝や骨折のリスクに悪影響を与える可能性が考えられました。今回知見が得られた腸内細菌の役割に関するさらなる研究は、骨粗鬆症の治療や骨折リスクの低減に役立つ可能性があります。

補足


現在分かっている腸内フローラが作り出すビタミン9種です。
①ビタミンB群(B1,2,6,9,12、ナイアシン、パントテン酸)
②ビタミンK

腸内フローラ(と骨)に良い食べ物、食べ方


バクテロイデスを増やしたり、リケネラシーを減らすことに役立つ栄養素、食事法のおさらいです。

水溶性食物線維


みんなのきょうの料理 NHKエデュケーターより抜粋

バクテロイデスを増やす水溶性食物線維を豊富に含む食べ物
海藻類(寒天、ひじき、わかめ、もずく、昆布)、野菜類(ごぼう、アボカド、オクラ、モロヘイヤ、)、果物類(キュウイ、バナナ、りんご)、豆類(納豆、きなこ)
その他の効果:便通改善、善玉菌(ビフィズス菌)を増やす、血糖・コレステロール値を下げる、有害物質の除去

難消化性デンプン(レジスタントスターチ)


Resistant Starch Lab.より抜粋

バクテロイデスを増やす難消化性デンプンを多く含む食べ物
野菜(かぼちゃ、いんげん豆、さやえんどう、そら豆、イモ類では、じゃがいも、さつまいも、長芋など)、パン(全粒粉、ライ麦、米粉)、
パスタ(スパゲティ)やコーンフレーク
その他の効果:血糖値の上昇抑制、排便状態の改善、脂質代謝の改善、満腹感が高まる

高脂肪食の制限


リケネラシーを増やしてしまう下記の食べ物の摂り過ぎに気をつけましょう
高脂肪な食べ物:脂身の多い肉類やその内臓類(レバーやモツ)、魚卵やうなぎなど
高脂肪食制限の効果:体重減少、体脂肪抑制、LDL(悪玉)コレステロール値低下、糖尿病や心筋梗塞のリスク軽減、胃の負担軽減

最後に


 最後まで読んで頂き、ありがとうございました。腸内フローラは我々人間が健やかに生きていくために、大切な相棒です。これからも腸活に関する投稿を定期的にあげていく予定です。また、本研究、論文において、尽力してくれた久保田さん、前野さん、ミド先生、研究に協力して頂いた患者様に改めて感謝致します。ありがとうございました。右下の♡(スキ)やフォロー、シェアで応援頂けますと、励みになります。よろしくお願いします。

#腸内フローラ #骨折リスク  #骨粗鬆症 #ビタミンK #武蔵浦和整形外科内科クリニック #腸内細菌叢

発表雑誌
本研究は下記の海外英文科学誌に2021年に掲載されました。そして、お陰様で2023年4月23日現在、約4000の閲覧と約40件の引用をして頂けました。
雑誌名:Osteoporosis International
論文タイトル:Association Between Gut Microbiota, Bone Metabolism, and Fracture Risk in Japanese Postmenopausal Women
著者:Daiya Ozaki, Ryohei Kubota, Takuya Maeno, Mido Abdelhakim, Naoko Hitosugi
DOI:10.1007/s00198-020-05728-y

日本語訳:閉経後の日本人女性における腸内細菌叢、骨代謝、および骨折リスクの間の関連

参考にしたホームページ、書籍、文献
腸のすごい世界:國澤純著、日経BP
アクティブシニア「食と栄養」研究会
いいほね(hone.jp)
みんなのきょうの料理 NHKエデュケーター
Resistant Starch Lab.
Kaneki M et al.: Japanese fermented soybean food as the major determinant of the large geographic difference in circulating levels of vitamin K2: possible implications for hip-fracture risk. Nutrition 17, 315-321, 2001.

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