ムサシ

短篇小説を書いてます。 よければ読んでみて下さい。

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最近の記事

【短編小説】影の薄い男

この学校に転校した初日、僕はクラスに馴染めるか不安だった。 何人かの生徒が僕に話しかけてきたが会話はすぐに止まった。 人見知りの僕は初対面の人が苦手なのだ。 この学校でちゃんと友達ができるだろかと思った。 昼休みに校舎の屋上に僕は一人になりたくて行った。        そこにあいつがいた。僕の席の後ろの生徒だ。 目が合うとあいつが言った。「僕が君の友達になろうか」 いきなり何だと思ったが僕は言った。「よろしく」 教室に戻ってからも僕はあいつのことが気になった。 教室ではク

    • 【短編小説】涙はアルカリ

      桃花はほんとによく泣く女だった。     二人で映画を見ると隣で泣くので どうしていいか分からずに困った。 「涙はアルカリなのよ」と桃花が言った。 「ほんとかよ」と俺は返した。 「涙もろい私はアルカリかも」と笑う。 「それは言えてるかもな」 桃花と俺は似た者どうしなのかもしれない。 つきあっているけど二人とも好きなのを ストレートに言葉にするのが苦手なのだ。 「健太は私のどこが好きなの」と桃花が聞いた。 「顔がタイプ」と俺は即答した。 「顔のほかにはないの」とさらに聞い

      • 【短編小説】回転遊歩道の都市伝説

        見知らぬこの街に来て3か月ほどだが、俺がよく行くスーパーの横には 川沿いの小さな遊歩道がある。この場所を回転遊歩道と俺は勝手に名つけた。というのも、この遊歩道では、回転するものを、やたらと目にするか らである。 遊歩道は大通りに面しているが、大通り沿いの電線にハトの大群が止まっ てる。ヒッチコックの「鳥」という映画を思わせるようなハトの数なのだ。 10メートルくらいの間隔に、多い時には百羽近くは止まってる。 遊歩道の真上の空をブルーインパルスのように、数十羽のハトが群れを

        • 【短編小説】銭湯

          これは、私が本気で死のうとした時に、起きた不思議な出来事の話だ。 あれは、いったい何だっのだろうと、今でも思うことがある。 人が自殺をする本当の理由というのは、他人には簡単に分からないという。 しかし、私が死にたいと思ったのは、ありきたりの理由からである。 それは世にいう生活苦というものだ。 若い時の貧乏話には、笑えるものがある。未来に希望があるからだ。 しかし、中年男の貧乏話は、悲惨なだけで、笑えない。 青春が終わりを告げて、中年の入口に立ったころに 私は、奇妙な病気

        【短編小説】影の薄い男

          【短編小説】猫のふわ

          猫のふわが死んだ         直前まで、あんなに元気だったのに 俺は本当にバカだ。やらかしてしまった。 冷たくなったふわを裏庭の土に埋めて 「ごめん、ふわ」と、俺は何度もあやまった。   ふわはいい年をして独身の俺に            1人暮らしは淋しいだろうと、姉がくれた猫である。    まっしろでふわふわした猫なので           名前をつける前に、ふわと自然に呼ぶようになった。 ふわはほんとに静かな猫だった。           足音を全く立てないので、

          【短編小説】猫のふわ

          【短編小説】鏡

          私は自分の顔に不満がある。 鏡を見るたびに、地味だと思う。 田舎娘って感じで、あか抜けない。 もう高校生なのに、青春だというのに。 友達の恋バナばかり、聞いてつまんない。 もう少し、可愛く、生まれたかったなー。 男子って、ほんと、女子の顔で態度が変わるんだから。 のんちゃんは、女子から見ても、可愛かった。 男子は、のんちゃんの前では、明らかに態度が変わった。 鏡を見てると、のんちゃんをよく思い出す。 学校では、いつも一緒、トイレにも一緒。 学校から、よく二人一緒で帰った。

          【短編小説】鏡

          【短編小説】兄が嫌い

           私は兄が大嫌いだ。顔を見るのも、声を聞くのも嫌いだ。 どこかで会いそうになると避けるようにしてる。 兄への異常な嫌悪感。なぜそこまで嫌なのか。 どんなに説明しても、誰にも、この気持ちは分からないだろう。 大人になり家を出てから10年、連絡も取ってないし、一度も会ってない。  しかし、この前、なぜか知らないが、兄の夢を見た。  夢の中で、私は兄を殺していた。リアルで妙に生々しい夢だった。 山奥の空き家でイスに縛り付け、口には猿ぐつわをして、頭に銃を当てたまま、10秒数えな

          【短編小説】兄が嫌い

          【短篇小説】狂女の思い出

           自分がいつか狂うのではという恐れを心の内に秘めながら、私はこれまで生きてきた。私はいま大学生であるが、中学時代や高校時代、その思いは心の底流にあるだけで表面上では特に問題がなかった。日常生活においては狂気に関する事柄、例えば狂人が主人公の映画や精神病に関する本などをなんとなく自分から遠ざけるだけだった。  しかし、1つだけ例外がある。それは暗闇を過度に恐れることである。 中学2年のある夜、自分が狂ったのに驚き目が覚めるという夢を見て以来、私は暗闇で眠ることができなくなった。

          【短篇小説】狂女の思い出