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【聴く小説】sad number by Laura day romance


Sad number by Laura day romance

(※1145文字 読了目安3分)指定の楽曲を聴きながらお読みください。

この夜行バスはどこへ向かうのだろう。
分からないけれど、答えを突き止める気も起きなかった。
だって、君と行けるならどこでも良い。
悔しいけれど、これが本音なんだ。

いつだったかな。何を話すにもドキドキしたよね。
恋って不思議だ。最初の数年でどんどん形を変えてさ。
いつの間にかふわっと大きな目に見えない空気になって
あの日君にどんな気持ちを抱いていたのかも
やがて忘れてしまうなんて。

「さっきから何を見てるん?」
「いやぁ、この辺、こんなに真っ暗なんだと思って」
「何言うてるねん。そらそうやろ。夜やもん」
「だよね。先に寝てていいよ。おやすみ」
「おう、そうするわ。おやすみ。」
通路側の君はブランケットに身を包んで眠りについた。
私は相変わらず、窓の外を見つめている。

私たちは、さよならへ向かってバスに揺られている。
悲しくないよ。二人で決めたことだもん。

この冬を越えれば、君がいない春が訪れる。
私は、君のいない春の過ごし方を忘れてしまった。
センチな気持ちはすぐに通り過ぎて
案外、数ヶ月後にはケロッとしているのかも
しれないけれど。
やっぱり胸の奥がずっと握力5キロくらいで
そっと握られているような。
上手く言えないけど、そんな変な感じだよ。

あの日なんて言おうとしたの?
私の配慮が足りなかった?
ううん。分かってる。
私は夢を追う君の時間をドロボウしすぎたよね。
それは本意じゃない。だからバスに乗っている。

もしも、君がその夢を追いかけていなかったらさ。
言いかけて飲み込んだ夜がある。
その仮説はどうしようもなく破綻していたから。
私がついてきたのは、他でもないあの日の君だから。

ワイヤレスイヤホンで片耳ずつ同じ音楽を聴いている。
ロマンチックさには少し欠けるけど
ちょっとだけ、あの日みたいじゃない?
あぁ。眠りたくない。
瞳を閉じて、また開いたら、
君は知らない誰かに連れ去られてしまう。

変えられないよね。元気でね。

春が来た。
セミダブルの寝具は、私ひとりには広すぎて
逆に落ち着かない。
私は案外ケロッとしている、なんてことは到底なく。
メディアが運ぶ些細な音から
君のカケラが聞こえてこないか耳を澄ませている。
お昼過ぎには起きたはずなのに、もう日が暮れそうだ。

窓を開けたら、カーテンがひっくり返った。

この風穴は誰にも埋められないし、
他の誰かで埋めようとも、今は思わない。
これくらいしかない。
どうしようもなく、君が居た証。
抜き打ちで吹く生ぬるい風、私の背骨を支えて。
越えてゆけ。大丈夫。越えてゆく。

また春になった。
私の心を震わせたあの音楽は、
望まなくても街中に溢れている。

傷は、無理に蓋をすると膿んでしまうから。
うまく付き合っていけば良い。

大きく息を吸い込んだ。
呼吸を忘れてはいけない。君と生きた街を生きる。
あ。
今、吐息と春風が交わって
あの日の音楽みたいに聞こえなかった?

君は聞こえているかな。
好きだったよ。

この文章は、個人が勝手にイマジネーションを張り巡らせて楽しみながら書いた小説です。アーティスト様のご意向とは関係ありません。

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