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Scorpions Virgin Killer / スコーピオンズ 狂熱の蠍団 1976

ドイツのハード・ロック・バンド、スコーピオンズの4枚目の1976年スタジオ・アルバム。
※アマゾン・ミュージックで「2023年リマスター・バージョン」視聴可能。

ウリの急速的なギタリストの表現力が作品の推進力になっている一方で、既存メンバーとの間に乖離が出始める。

左チャンネルのウリ・ジョン・ロートのギターのフィンガリング(運指力)の音圧が大きい。音もさることながら彼の弾くフレーズやソロ、サウンドのセッティングなど独創性が増していく。

ウリの単独クレジットの「ヴァージン・キラー」がアルバムのタイトルに採用される。そして彼の影響力は他のメンバーも引っ張られて化学反応も呼び起こす。

メンバー

クラウス・マイネ   ボーカル
ウリ・ジョン・ロート リード・ギター
ルドルフ・シェンカー リズム・ギター
フランシス・ブッフホルツ ベース
ルディ・レナーズ       ドラム

曲目

1.Pictured Life
2.Catch Your Train
3. In Your Park
4.Backstage Queen
5.Virgin Killer
6.Hell-Cat
7.Crying Days
8.Polar Nights
9.Yellow Raven

曲目感想

1.Pictured Life

冒頭より左チャンネルのウリのギターの音がくっきりしている。フィンガリング(運指)が格段に向上し、クラウス・マイネの歌よりも存在感が有りすぎる。ギター・ソロに至っては歌の存在がそちらに引っ張られていく現象が起きている。

2.Catch Your Train

引き続いてウリのギターの存在感は放たれ、曲中に挟むオブリガードの高速フレーズ、フィードバックも狂気を帯びる。
ボーカルのクラウスもギターに照準対応せざるを得ず、サビの部分の声帯、酷使を心配したくなる絶叫状態に突入して行く。

3. In Your Park

曲調はこれまでより抑え気味。少し緩めのテンポになりクラウスのボーカルに小休止的な安心感がある。
しかしその状況であっても、ウリのギター・ソロに入ると意図してか知らずか容赦がない狂気のプレイ。。怨念をまとい悲壮で怪しいチョーキングが耳に残る。

4.Backstage Queen

ウリのハーモニクスも絡めたバッキングのギター。機械的にザクザク刻むリズムですら存在感がありすぎる。耳がギター引っ張られていく。
ギター・ソロも尺は短いが、その分凝縮した高速フレーズを詰め込んで独自の存在感を発揮するので恐ろしい。

5.Virgin Killer

ウリの単独クレジットでアルバムのタイトル曲にもなっている。
とうとう遂に、歌はサビ箇所でメーターを振り切った超絶叫、ルドルフ・シェンカーのリズム・ギター、ベース&ドラムのリズム隊も彼の強力なテンションに磁場が吸い寄せれていく。
しかしリズム隊はこの磁場に全部付き合ってしまうと演奏の土台が崩壊しかねない。そんな破綻寸前のスリリングな状況に入ろうとしている。

6.Hell-Cat

2曲続くウリのオリジナル曲。文字通り地獄のギター・ワールドはここでもとどまらない。
ジミヘンドリックスの「フリーダム」と「クロスタウン・トラフィック」を同居させたような曲の構成とサイケデリック感溢れる曲。ギターにフランジャーなのかユニ・ヴァイブなのか判別できないが、激しい空間系のエフェクターで音を揺らし終始攻撃している。
ここまで来たらもうこの際どうなってもいいので、とことん引っ掻き回して欲しい。

7.Crying Days


マイナー・ペンタトニックのギター・ソロにワウ・ペダルとフィードバックを絡ませ狂気のギターを展開し過ぎてなんかボーカルが入りずらくなっている。。
中盤のギター・ソロは奥に引っ込んでリバーブがかなりかかっていて、クラウスのボーカルも頑張って存在感を出しているのは分かるが、左チャンネルでウリが凶暴でそちらにどうしても引っ張れてしまう。

8.Polar Nights

同時期ギタリストのロビン・トロワー、いやどちらかと言えばフランク・マリノのマホガニー・ラッシュの様な空間系エフェクターを多用したスペイシー、宇宙的ジミヘン・サウンドをウリ・ジョン・ロート的解釈で突き進んでいく。
この曲の邦題が「暗黒の極限」となっているが合っている。スコーピオンズのダーク・サイドな曲が聴ける。

9.Yellow Raven

ラストは左右のチャンネルから2本のチョーキングを溜めこんだマイナー・ペンタトニックのギター・ソロ。
スローテンポの曲が最後にようやく登場する。クラウス・マイネがゆったりと情感を噛みしめて歌っていて少し安心する。

総論

ウリ・ジョン・ロートが急速的な成長を遂げる。
ミュージシャン、ギタリストの表現力が作品の推進力になっている。
一方で、磁力に引っ張れ他のオリジナルのメンバーとの方向性に乖離が出始めている。※ウリは1978年で脱退する。

太いギターの音の謎が分からない

ギブソンのハムバッカー系の音だと思っていたが違っていた。
メイプルネック、ラージヘッドの黒のフェンダー・ロゴのストラトでリッチー・ブラックモアに匹敵する極太の音であった。
力んで弾いてる様にも見えないし、ピッキングの方の手首はむしろ柔らかくてマイルドなストローク(それこそジミヘンみたいな腕の動作)なのでどうして太い音が出るのか謎が解けない。

アンプの音量ではなくしっかりとした運指とピッキングで太い鳴らしているが、これが耳に残って曲が頭に入って来ない箇所が多い。

ハードロックからヘヴィメタルに一歩踏み入れた。

(大げさを承知で)ウリの狂気のギターと、それに引っ張られるクラウス・マイネの声帯破壊寸前の絶叫シャウト。さらに発売当初の少女をモデルにした不道徳なジャケットも相まって『狂気的、退廃的=ヘヴィメタル』という化学反応が起こってしまった作品かもしれない。


既存メンバーの世界進出指向とウリの精神的音楽探究指向が混沌し、新しい段階に突入し始める過渡期の作品。


終わり



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