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Air America Original Soundtrack / エア・アメリカ オリジナル・サウンドトラック 1990

1990年発表の超大物俳優メル・ギブソン&ロバート・ダウニー・ジュニアのダブル主演映画のサウンドトラック

ベトナム戦争中の1971年、舞台はラオス。
メル・ギブソンとロバート・ダウニーJrのベテラン&意気揚々な若手のバディ・ムービー。

タイトルのエア・アメリカという航空会社に就職した2人が米政府直轄の軍事物資とそれ以外に秘密裡に運ばれるラオス産の薬物らしきモノ。。
「この仕事ってちょっとヤバくね?」との疑念から数々の物騒な場面に遭遇するコメディ寄りのアクション映画。

クラシック・ロック、ブルース、モータウン、R&Bナンバーを新旧ミュージシャンが新規録音も交えて収録。

新規録音トラックは各アーティスト1曲入魂で完成度と充実度が高く、この作品でしか聴けないレアなトラックも収録されている。


収録曲

1 Love Me Two Times / Aerosmith
2 Right Place Wrong Time / B.B. King And Bonnie Raitt
3 Long Cool Woman In Black Dress / Charlie Sexton
4 Do It Again / Steely Dan
5 Free Ride / Edgar Winter And Rick Derringer
6 California Dreamin' / The Mamas & The Papas
7 Baby, I Need Your Lovin' / Four Tops
8 Get Ready / The Temptations
9 Rescue Me / Fontella Bass
10 Pushin' Too Hard / The Seeds


曲目感想

1 Love Me Two Times / Aerosmith

ベテランで大物バンドのエアロスミス。当時の時系列を書くと、1985年にジョー・ペリー復帰により再ブレイク。1989年復活2作目の「Pump」で不動の地位を確立した頃で、超繁忙期にレコーディングされたことになる。

ドアーズの「Love Me Two Times」をカバー。ドアーズの中でも直球ブルース・ロックのナンバーを取り上げている

テンポはオリジナルのままで、演奏形態はキーボード無しのギター2本、ブルース・ハープの純正エアロスミス仕様だ。ギターが左右のチャンネルからより濃い目にブルージー。重低音でラウドなドラム・サウンドで、メンバー全員がまだまだ若いパワフルなプレイが今では貴重だ。

ドアーズのボーカリストのジム・モリスンは劇場型、妖気かつ呪術的なボーカルが絶望的。つまりダウナー色が強いが、ボーカルのスティーブン・タイラーは自分流に歌っている。

エアロスミスがドアーズを真剣にカバーするというサプライズはとても嬉しい遭遇だ。普段のオリジナル楽曲の勝負から解放されて、フレッシュに取り組んでいるのが伝わる好感が持てるカバー。


2 Right Place Wrong Time / B.B. King and Bonnie Raitt

ブルース界の総帥、B.B. キングとボニー・レイットのデュエット。
サウンド・トラックに「ブルースの巨人」がスポットで新規録音に臨んでいる。この作品でしか聴けない組み合わせ、ドクター・ジョン(&バッキングがミーターズとアラン・トゥーサン!)の選曲などレア度が高い。

もう一人のパートナーのボニー・レイットは1989年にアルバム「Nick of Time」で原点回帰したサウンドで再ブレイクした頃で、グラミー賞を受賞し、名実共に不動の地位を獲得している。

そうした大御所とベテランの両名、この作品では「歌」に重点を置いている。割合も均等でストレートに展開して行く。
最初にB.B.キングが歌って、程なくボニー・レイットが続いて歌っていく。
そしてテンポだが普段のB.B. キングより割と速めだ。何というかコンフォートゾーン、得意な作風から敢えて離れてチャレンジしている様子が受け取れる点が聴きどころ。

ギター・ソロはB.B. キングがメイン、あの指でこねて出すクリーンなトーンが前面に聴こえる。
そして終盤からボニー・レイットの従来から聴ける音数の少ないビブラート重視のスライド・ギターが奥のポジションで入ってくる。
2人のギターが相殺されないように、ボニーのギターはメロディ楽器という立ち位置でなくB.B. キングのギター・ソロをサポートする形で両者のギターが交差する。ここの加減も歌同様聴きどころだ。

ホーン・セクション、ベース&ドラムのリズム隊、キーボードのクラビネットと各パートが控え目に抑制されている。その各パートの抑制の交差が掛け算式に合わさると、言い知れない濃厚さが増していく。どのパートに耳を集中しないといけないのか分からくなる「脳内渋滞」がたまらない。
いわゆるひとつの極上のファンキー・サウンドを後半になればなるほど堪能出来る。


3 Long Cool Woman In Black Dress / Charlie Sexton

ホリーズの邦題「喪服の女」をカバー。
1968年生まれのチャーリー・セクストンは録音当時22歳。17歳でデビューしてソロ・アルバムも既に2作品発表している。
オースティン出身のテキサス・トナー・ギタリストは、何故かLAのレコード会社の契約の経緯からして作品もギタリストも一流なのに紆余曲折したキャリアを辿っていた。

肝心の演奏はようやく等身大のテキサス・ギタリスト、ボーカリストとして本来の姿がこの曲で陽の目を見たと言える。

とにかく理屈抜きにギターも歌もソウルフルかつ骨太でカッコいい。
オリジナルを凌駕する勢いで自分のモノにしている。本来はもっと弾きまくれるギター・ソロもここではトーン(音色)を重視し、タイム感抜群のチョーキング&ビブラートでギターが歌っている。

本サウンド・トラックの中でもこの曲がハイライトでベスト・テイクだ。


5 Free Ride / Edgar Winter and Rick Derringer

エドガー・ウィンター(グループ)&リックデリンジャーのセルフ・カバー。リリース当時の楽曲を忠実に再現している。作曲はダン・ハートマン。

映画のオープニングの飛行シーンに採用されているが、そのままタイトル通りの爽快な飛行シーンと合致したナンバーだ。
(ただ曲が終わると緊急着陸シーンに展開が変わってしまうが。。)

エドガー・ウィンター・グループの特筆点は1970年代前半の時点でモダンでポップなファンキー・ロックをいとも簡単に成し遂げている点だ。

歌が口ずさめて、キャッチーで爽快なナンバーだ。このグループはコーラス・ワークも秀逸だ。それがこの曲は良く生かされている。

リック・デリンジャーのファンキーなカッティング・プレイとギター・ソロはメロディアスで構成も完成されていて素晴らしい。

ベテラン・グループによる手堅く完成された新規録音。セルフカバーではこのグループも再び飛躍するきっかけを得た。

新旧両方聞き分けると本来持っていたカッコ良さを再認識できる。


オリジナル楽曲群
4 Do It Again / Steely Dan
6 California Dreamin' / The Mamas & The Papas
7 Baby, I Need Your Lovin' / Four Tops
8 Get Ready / The Temptations
9 Rescue Me / Fontella Bass
10 Pushin' Too Hard / The Seeds

スティーリー・ダンの「Do It Again」は彼らのデビュー・アルバムからの選曲。後年の焦点が絞り込まれた温室ビニール栽培のような創作の方向性はまだ確立していない。
ラテン・テイストでソフト・ロックな作風が何となくグループ過渡期とベトナム戦争の混沌さと融合している。

行き場の無い若者の憂鬱の象徴とも言えるママス&パパス「California Dreamin' 」フラワー・ヒッピー・ムーブメントの幻想は目の前の現実という壁に突き当たる。当たり前だがこの作品は米国の視点から制作された戦争映画なのだと認識できる。


フォートップス、テンプ・テーションズのモータウン、フォンテラ・バスのブラック・ミュージックはナイト・クラブが良く似合う。
非戦争地帯が舞台だが、誤爆に巻き込まれるかも知れない危険と隣り合わせのパイロットという無慈悲な職業。
明日生きている確証が無い環境で聴くブラック・ミュージックはここでは刹那的だが、「生」への渇望も見い出せる。


「Pushin' Too Hard 」は1965年の作品でガレージ・ロックの古典だ。
曲のタイトルを繰り返し、繰り返し歌い、加えて独特なボーカルがヤバい感じに脳内でリピートされる。

バンド名のシーズ=種とプッシン=プッシャー(密売人)→映画もヤバいブツを運搬(させられる)ことから色々な連想を引き起こさせる。
ある意味タチの悪いブラック・ジョークとも言える。

しかし、ここまで連なったAクラスのクラシック・ポップスが続くところに
締めにB級カルト・バンドのナンバーを紛れ込ます当たり、制作サイドの隠れた愛情が垣間見れる。


総論
収録された楽曲、実は作品の時系列と合致していない。
新規録音はエアロススミスの1曲目以外は1971年以降の作品だ。

推測だが、アーティスト側に自由にセレクトさせてあげて、気持ちよくレコーディングして欲しいという創作面を尊重した結果なのだと思う。

そのせいか、予想外にレアなトラックやスポット作品にも関わらずクオリティの高いナンバーが連発していて通して聴いても心地良い。

一度は触れてみる価値のある本格的サウンド・トラック。
楽曲はYOU TUBEで視聴可能。


終わり


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