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多くの作品を短期間弾くか、少ない作品を長期間弾くか

楽器演奏をする時、練習する時、上達を目指す時、レパートリーを維持する時、習い事であれ、独学であれ、趣味であれ、プロフェッショナルであれ、必ず一度は考えると思われる点について書いてみる。

時間は有限である。ひとつの作品を演奏するには必ずその分の時間が必要だ。難易度が高ければ、練習時間もそれなりに必要だ。そのため、数多くの作品を弾こうと思えば、必然的に一曲にかける時間は短くなる。逆にひとつひとつに時間をかければ、少ない作品しか弾くことは出来ない。

楽器演奏は、一度練習して完成すればOKというものではなく、そのレベルを維持するにはそれなりの努力が必要となるので、少ない曲数を完成されたレパートリーとしてずっと持つか、取っ替え引っ替え新曲に挑戦していくかは、悩ましい問題となる。

どちらを好むかは、その人の性格や性質によるところが大きく、どちらをより楽しいと感じるかも人それぞれだ。プロでも、どちらのタイプもいる。長年のレパートリーを持ちつつ、新曲も取り入れるという人も多い。今回は、ピアノにおいて、両者がどのような側面を引き出すのか、またそれを活かした活躍法などを考察する。(ジャズなどは即興要素が多く、同様に語るのは無理があるため、クラシックに限定しての話)

〈より多くの作品をより短い時間で弾く場合〉
これを繰り返すことで最も身につくのは、読譜力、初見力、臨機応変さなどである。たくさんの違った作品に触れることは、間違いなく音楽的幅を広げる。次々と譜読みをするので、読譜力が高くなり、相当なレベルまで初見で対応出来るようになる。一般に、器用になる傾向があり、苦手なものは少なく、古典から現代まで、何でも弾きこなしてしまう人もいる。

反面、どんどん譜読みをし、弾きこなしても、短期間しか触れないため、結局何も残らなかったという気分になるかもしれない。暗譜で弾ける曲もあまりないかもしれない。いざというときに自信を持って演奏出来るレパートリーがないかもしれない。

こういったタイプの人は、ソリストになるより、アンサンブル、伴奏などで重宝される。特に期日が迫っている伴奏を頼みたいような場合、頼りにされる。多くの曲を同時進行出来るので、収入にも繋がりやすい。伴奏やアンサンブルは必然的に他の音楽家と会う時間が増えるので、刺激が多い音楽生活を好む人は、こちらが向いている。

〈より少ない作品をより長い期間弾く場合〉
一曲ずつの完成度が高く、暗譜までしていることが多いので、深く理解し、ひとつの作品から学ぶことが多い。自信を持って自分のレパートリーを披露出来るし、どんな場面でも咄嗟に弾けるという楽しみがある。好きな作曲家を生涯をかけて研究し、専門家になることが出来る。選りすぐった音楽と、一生を共にする喜びを感じられる。

反面、手を出さずにいる作品も多いので、音楽的幅は限られて、苦手なものも多くなるかもしれない。新しいものを弾かないと、読譜力はあまり向上せず、初見で弾くことは難しいかもしれない。限られた曲しか弾けないと、余程のファンを獲得しないと、収入には結びつきにくい。

少ないものを大切に持ちたいピアノ奏者は、ソリストとして力を発揮するように思う。若い頃から育ててきたレパートリーは、歳を重ねて一層、感動をもたらすことがある。アンサンブルなどであれば、ずっと同じ場所に属するなど、変化の激しくない音楽生活がおすすめだ。じっくり取り組むことによって、その人の良さが出る。

こんな感じで、おそらく人生そのものに影響を与える。


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