「ハーツ・アンド・ボーンズ」プロローグ
このアルバムにまつわるエピソードと私の個人的雑感

変わったデザインのジャケット

このアルバムのジャケット。よく見ると、奇妙な感想を抱くだろう。

下手なデジタル処理された映像。ポール・サイモンが、赤いシャツ、襟は青に 見える。黒っぽいスーツを着て、電気街っぽい背景。何か手にしているけど、 よくわからない。そういう変なショットの上に、でかくPAULSIMONという文字。 ＬとＳの間に赤い縦線があるのが、意味がわからない。Helveticaのboldかblack をめいっぱい大きくしたデザインは大胆だ。色合いが青と赤、そして黒にまとめられている。これも戦略だろう。肝心のHEARTS AND BONESの文字は控えめに、 というより「こんな小さくていいの？」というくらい扱いが小さい。

全く変だ。これまでのアルバムにあった「ホッとする」印象はない。ポール・ サイモンというアーチストの「謎」のイメージが強まる。何考えているの？と いうような疑問ともいえるだろう。

アルバム成立までのあれこれ

このアルバムの成立にあたり、色々な話題があった。セントラル・パークコンサートの後、Ｓ＆Ｇは世界をコンサートツアーで回る。 久しぶりのユニットをきっかけに、実に十数年ぶりのサイモン＆ガーファンク ルのアルバム誕生を願うファンと、当人たちのその期待に応えようという思い が一致し、次のポールのアルバムがＳ＆Ｇのアルバムとなる、というプランだった。

プランは、単なる空言ではなく、当人たちも相当乗り気だったものと想像できる。ポール所属のワーナーパイオニアも大いに期待していた。なにせあの サイモン＆ガーファンクルのアルバムである。相当なメガヒットを見込めるから。

ポールはアートとのデュエットを想定した楽曲作りをし、アートの声がいくつか録音されたらしい。もっとも、「明日に架ける橋」の時と同じように、 スタジオに二人が揃うことはなく、別々の録音だったという。

S&Gではなく、ポール・サイモンのソロアルバムに軌道修正

キャリー・フィッシャーと結婚したポール。同じ時期にポールは、自作アルバ ムのトラックからアートのトラックを消した、とコメントした、というニュースが流れる。「Ｓ＆Ｇ再び決裂！」とファンの誰もがショックだったろう。けれど、ポールのコメントはきわめて肩すかし。このアルバムの歌がすべて自分の個人的な思いだから、アートと共作アルバム、つまりサイモンとガーファンクルのアルバムとして発表することに疑問を感じた、という。

アートの録音はあくまでハーモニーの役割。実際の録音数も多くない。 ポールの一方的なコメントだから、真意はわからない。世界ツアーを続ければ続けるほど、二人の確執は強まった。まるで「明日に架ける橋」の時と同じように。

一度はＳ＆Ｇ復活アルバムとしてのリリースを受け入れてもいい、と思ってい たポールの心は変わった。収録曲は全部、きわめてポールの個人色が強い。それに、かつてのデュオとしての音楽作りとはほど遠い。

かつてのデュオとしての音楽作りとは、 「フランク・ロイド・ライトに捧げる歌」の歌詞のように、「朝まで歌いハー モニーを続けた」二人だ。その頃に戻れない、いや戻らないと決意したのだろう。

ならば、ビジネスとしてのアルバムではなく（サイモン＆ガーファンクルのニ ューアルバムとしてリリースされれば、それ相応の収益をレコード会社にも、 また二人にももたらしただろう）、アーチストとしてアルバムを出そう、と。

S&Gの楽曲紹介のメールマガジン発行決意のきっかけ

このアルバムが出た頃（1983年）、私はポール・サイモンの歌を聞いていなかった。というより、仕事と私的環境が音楽どころではなくなっていた。だから、サイモン＆ガーファ ンクルのニューアルバムが出る噂があったこともさえ知らない。

アルバムとの出会いは2000年頃。ポールのアルバムのアナログレコードをいつも通っているお気に入りの中古ＣＤ店で見つ けた。リリースが1983年という年にも驚いたけど、冒頭に書いた通り、怪しげ なジャケットに妙に惹かれた。

結局一度聞いたきり、そのままになった。

でも、なぜか、ちょうどその頃だった。メールマ ガジンで「サイモン＆ガーファンクル」の歌について語ろうと決意したのが。
（メールマガジン「all simon and garfunkel」発行：2001年〜2002年）

アルバム「ハーツ・アンド・ボーンズ」は、忘れかけていたサイモン＆ガーフ ァンクルの音楽に対する思いを復活させた。その後、一年間、サイモン＆ガーファンクルの楽曲について語るメルマガを発行した。一年間書き続けるうち、 ポールの歌についても書きたくなった。このメルマガの誕生だ。
（メールマガジン「ソング、ポール・サイモン／song, Paul Simon」　発行2002年〜）

メールマガジン「ソング、ポール・サイモン／song, Paul Simon」
途中長い中断もありましたが、メールマガジンは現在も発行中です。ただいま、「グレイスランド」の終盤にさしかかっています。