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11.山盛りカートで暴走されても、親孝行はするようです

最初の脳梗塞後の数年は、ばあちゃんもそれなりに自由に動けたので、買い物やランチなどのお出かけを一緒にしていました。
ばあちゃんは、おとなしそうな見た目からは想像もつかないせっかちな人なので、車の乗り降りがまず難問です。
たいていの場合は、車の助手席に座ってもらい、シートベルトは自分で伸ばせないため、私がしてあげるので、さほど問題にはなりません。
問題は車から降りる時。
駐車場へ入った途端、隣でカチッと音がします。
「え?」と横を見ると、降りる気満々でシートベルトを外しているのです。
母から「ばあちゃんは、停まると同時にドア開けるから気をつけな!」と言われるが早いか、もうドアに手をかけています。

「待って〜ぇ〜!私が開けるから動かないで〜ぇ〜!」

そうやって、ばあちゃんを制し、慌てて車から降りて、助手席ドアへ回ります。
空っ風吹き荒ぶ冬の群馬では、ドアが風に取られることもあるので、隣の車を凹ませたら大変ですからね。

「大丈夫だよ、出ないよ」

ばあちゃんはそうは言うけれど、この件では隣の車にぶつけるスレスレ前科持ちなので、本当に大変でした。

無事に降りて、スーパーで買い物をすると、カートを押してズンズン進んでいきます。
子供並みに目が離せません。
そして、一人暮らしとは思えない野菜の大袋をカートに入れます。

「ばあちゃん、あっちにバラ売りがあるけど、そんなおっきいの買うん?」

そう聞いてみると、ちょっと嫌そうな顔をします。

「少ないとさ、みっともないがな。またいつ買い物来れるかわかんないし」

昔の人の考えなのか、ばあちゃんだけのプライドなのかわかりませんが、どうも買う量が少ないことを恥と思っているようでした。
そのため、どっさりと買う訳です。
我が家の分も母が買う(ばあちゃんのもたいてい母が購入)ので、カートはいつもいっぱいでした。

ある時、そんないっぱいになったカートを押したばあちゃんが、レジの方へ向かわず、いきなりスピードを上げて、玄関の方へ向かい出したことがありました。

「ばあちゃん!どこ行くん!そっち行っちゃったら万引きになっちゃうじゃん!」

お店の人も「えっ?」という顔でこちらを見ています。
私と母はびっくりして、慌てて追いかけてすぐばあちゃんを止めました。
すると一言。

「あたしゃ、トイレに行きてぇんだよ!」

どうやら生鮮食品などの比較的涼しい場所を通過していたら尿意に襲われたようで、遠くに見えたトイレの標識に向かっていたのです。

「そういう時は頼むから『トイレ行きたい』って言ってよ〜」

ダッシュしたい理由はわかります。
でもこちらは、ばあちゃんがおかしくなったのかと慌てたのでへなへな。

「私がカート見てるから」と母に言われて、私がばあちゃんをトイレへ連れて行きました。
本人はスッキリして、何事もなかったかのような顔していました。
もちろん「ごめん」のひとこともありません。
毎回そんな風でした。

「もう二度と連れて行かない!勝手に一人で行けばいい!クソババァ!」

毎回毎回、母はこのように文句言っていました。
まあ、その割にはあちこち連れて行く計画を立てたり、一緒に買い物に行けば、母本人は買わないようなちょっとお高めの洋服でも、ばあちゃんに財布を出させず、買ってあげてました。
なんやかや文句言ってもちゃんと親孝行する人です。
本人は認めないかもしれないけど、母親であるばあちゃんのことを大好きなんでしょう。
そんなばあちゃんの見守り介護を手伝うことが、母への親孝行になっていたなら嬉しいですが、どうだったんでしょうね?

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