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9.高齢者の一人暮らし、敵は後退りにあり⁈

脳梗塞だからか、高齢だからか、あるいは他の理由だったか忘れましたが、いきなり振り向かせないように特に注意することを促されました。
ところが、人間って「振り向く」という動作をかなりやっているんだということを、私はばあちゃんの見守り介護で知りました。

振り向く動作は、必ず頭を動かします。
そうすると、ばあちゃんはふらふらと後ろによろけて、転びそうになります。

例えば、真っ直ぐ歩いていたら、背後から誰かに声をかけられたとします。
元気で健康な人ならすぐにくるっと振り向いたところで、転ぶことはまずないでしょう。
なんてことのない動きです。
でも、ばあちゃんがそれをやると危険極まりない行動なんです。
プラス、ばあちゃんは後退りをよくやりました。
こちらは転べばそのまんま腰を打ちます。
下手すれば頭だって打ちかねません。

「振り向かないで!」

「足を上げて動かして!」

「後退りしないで!」

ばあちゃんにくっついて歩く人間は、どうしても強い口調で、これらの言葉を口酸っぱく言いまくりました。
私は本当に最後になった見守り介護の時も言っていました。

「大丈夫だよ、そんな転ばねぇから!」

ばあちゃんはそう反論しながらも、よろけて「おっとっと!」なんてことも日常茶飯事。

それでも最初に倒れた頃は、ばあちゃんが家に帰りたい一心で施設でのリハビリを努力して、私達が毎晩泊まらなくても大丈夫な程、回復しました。
とにかく口うるさい私達を帰らせて、一人で好き勝手に暮らしたいから元気になったんだと思います。

まあ、これが後退りや振り向くことに用心深くなってくれたのなら「めでたしめでたし」でよかったのですが、そうもいかず。
しょっちゅうぶつけたり転んでは、痣をあちこちに作っていたようです。
大好きな編み物ができなくなる手の骨折も、毎年年が明けると転んで入院とリハビリを繰り返した足腰の骨折も、ほとんど一人で過ごしてる時にやらかしてくれました。

「一人暮らしさせるんですか?」

病院でも施設でも、周りの人からもたくさん言われました。
もしかしたら、酷いことしてると思われていたかもしれません。
だけど、介護施設に入ることも、娘との同居もすべて、ばあちゃんが頑なに拒みました。

「一人暮らししたい。みんなは手伝いに来てくれるだけでいい」

そんなだから母と叔母は、病院や施設滞在中以外は、ほぼ毎日、交代でばあちゃんちへ通っていました。
それでもみんなの隙をついて転んで怪我をするんです。

どれだけ振り向いて、どれだけ後退りしてたんでしょう。
聞いても本人はバツが悪いのか、きちんと転んだ訳を報告しなかったようなので、実際のところ、理由はわかりません。
常に常に【元気に動けてた自分】をベースにして、できない自分を認めず、周りから何度口うるさく言われても、決して用心深くならなかったばあちゃんから学んだ「後退りの危険性」は、しっかり心に刻んでおこうと思います。

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