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5.命をかけた攻防⁈飴バトル

ばあちゃんは、飴が大好きでした。
娘時代に挺身隊に入って、東京で仕事をしていたそうなんですが、東京から戻る時は家族へのお土産には必ず『バターボール』という飴を買ってきて、みんなに喜ばれたと嬉しそうに語ってくれたこともありました。

しかし、この飴好き。
身内には結構頭を抱える案件でありました。
というのも、1人でまだ起き上がれた頃は、よく横になってテレビを観ていたのですが、そんな時はたいてい飴を口に放り込んでいたから。
喉につかえたら大変と何度注意しても「大丈夫だよ」の一点張り。

飴を喉に詰まらせている姿は、運良く見なかったけれど、ベッドの上でも寝ながら舐めているので、こちらは気が気じゃありません。

できる限り、飴から遠のけようとみんなで作戦を考えていましたが、なぜか飴を持っているんです。
激動の昭和を生き抜いてきた方々は、やはり生きる力がちがうのでしょうか。
施設で禁止されていても、上手いことスタッフの目を盗んで、みんなで飴の分けっこしていた様子。

「みんなからもらってばかりで恥ずかしくてみっともないから、施設に持っていく飴を買ってきてくれ!」

そんな風に怒られることもありましたが、かわいそうだけど私たちは徹底して渡しませんでした。

見守り介護中も、寝転がりながら欲しいと言われたら、心を鬼にします。

「喉につかえたらどうすんだいね!私がみんなに怒られちゃうじゃん!ダメだよ!」

「大丈夫だよ!つっかえたことなんかねぇんだから!」

こんな飴バトルは本当〜によくやってました。

こんなこともありました。
施設から自宅に戻ったので、いるうちに…と、ばあちゃんのバッグを一緒に整理していたら飴が入っていました。
いつのものかわからないから処分しようと、ちょこっとテーブルの上に置いたら、いつのまにか消え、「あれ?」とテレビを観るばあちゃんの顔を見ると、口をもごもご。
もう何も言えません。

そんな飴バトルの最後はこんなでした。
就寝前、パジャマに着替える手伝いをして、脱いだ洗濯物を片付けて戻ると、ふと何か思いついた顔をして、「あのさぁ…」と言います。

「なに?どしたん?」と聞き返すと

「さっき脱いだズボンのポッケに飴が入ってなかったかい?持ってきてくれる?」

「どうすんの?」と私。

「(ここで寝ながら)舐めるんだよ」

実はポケットからコロンと飴が2個落ちたのを見つけて、すでに拾って隠していました。

「え?そう?あとで見とくから、明日でいいでしょ?」

とぼけると残念そうでしたが、この頃は食事中もよく咽せていたので、「見てきてくれ」と言わず、すんなり諦めてくれました。
普段は喧嘩になるけど、すんなり了承されたらされたで、ちょっとかわいそうかなと思い、その飴は翌朝、少しのお湯で煮溶かして、飴湯もどきを作ってあげました。

「美味しい」と言ってくれたけど、本当は飴で舐めたかったろうな。
施設でお友達にもらってこっそり舐めてたのかな…

葬儀後、ばあちゃんの家を片付けていたら、戸棚から賞味期限が5年前の未開封の甘露飴を2袋発見し、そんなこと思いました。

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