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組織で本音を話すことへの一考察

昨日見た、立教大学・中原先生の一連の「本音」に関するツイート。
最近、組織で対話の場を持つことが増えたのですが、中原先生に激しく同意。

触発されて、組織や学校などでの対話について、私が思う「大切なこと」について書いてみたくなりました。



組織で感じた違和感

組織で2時間の対話の場をファシリテートしたあと、まさに中原先生のツイートのような「もっと本音が出たら良かった」という感想を企画者からいただいたことがあります。

私個人としては、この対話の場はあくまでもその組織のメンバーの一プロセスと捉えていました。
ここで何かの結果を出そうと思っておらず、このプロセスを経て組織が、メンバーの関係性が、小さくても変化していく兆しが見えたことが良かったと思っていました。

また、そこで話されたことが「本音ではない」とも思いませんでした。
少なくともメンバーが前向きに場に集まり、それぞれが「今話せること」「チームのために自分にできること」に意識を集中した良い時間だったと感じていました。


対話について提案すると、この組織だけでなくあらゆる組織で「どこまで本音が出るか」という懸念が話されます。

つまり多くの組織は、組織開発にも早急な成果を求めているのでしょう。
しかし、それができていればどの組織も苦労はしないわけで。
時間をかけて取り組めていないから組織開発の成果が出ていないのではないでしょうか、と思わずにいられません。

小学校での対話の授業

過去に2年ほど、複式学級の小さな小学校(私の母校)で、キャリアの授業を持たせてもらっていました。
キャリアといっても、やっていることは対話です。
学期に2回ほど小学校を訪れ、1年生から6年生まで、発達段階や学校行事に合わせてテーマを決めて対話の時間を取っていました。
またその際は、Points of You®︎という、もともとはコーチングのために作られた写真カードを使っていました。

Points of You®︎のツールにはいくつか種類があります。
こちらはコーチング・ゲームというツール。

授業の目的はシンプルで、「話す」「聞く」をじっくりやること。
ただそれだけ。

キャリアの基本は「自分で決めること」

授業はいつも順風満帆、とはいきませんでした。
その日の朝の家庭の状態や、前の授業での先生とのやりとりなど、さまざまな原因で「ご機嫌斜め」な児童が教室にやってくることがあります。
誰のご機嫌が斜めかは日によるので、私も準備した授業を完璧にやることよりも、児童たちの状態を見ながら臨機応変に進める度胸がつきました。笑

ただし、私の中で決めていることがありました。
一応これはキャリアの授業なので、何があっても、どの児童にも、「自分で決めること」を促していました。

  • 授業に参加する/しない(教室にいる/いない)

  • 教室にいるとしたら、ワークに参加する/しない

  • ワークに参加するとしたら、写真カードを選ぶ/選ばない

  • 写真カードを選んだら、それを使って話す/話さない

「授業に参加しない」なんて、先生だったら許してはいけないのかもしれません。
しかし私は先生ではないので、すべての選択を本人に任せました。
最初に上記4つの選択肢をすべて伝え、一つずつ選んでもらいます。
その際、「どちらを選んでもあなたの選択を尊重する」という気持ちも最大限伝えるようにしていました。

あとで気が変わることもOK。
参加したいと感じたときに「参加したい」と言えることのほうが大事。

真剣に写真カードを選ぶ児童たち。
「自分で選ぶ」という行為が
キャリアの基本「自分で決めること」に
つながると考えています。

ただ、「授業に参加しない」選択肢を選ぶ児童は一人もいませんでした。
また、この方法に児童たちが慣れてくると、児童同士で勝手にこれが始まるので楽でした。
例えば、まだこの授業に慣れていない転校生にもとからいた児童が「もし話したくなかったら、書くだけでもいいんだよ」とか言っています。

写真カードを通じて自分の気持ちを観察したら
いったん、書いてみることを促していました。
大人の場合は、先に話す方が良い場合が多そうな気がします。

ちなみに、誰かのご機嫌が斜めなことで場にも影響が及ぶような場合には、それ以外の児童にも「今ここの気持ち」にアクセスしてもらうようにしていました。
この状況において、今、自分は何を感じているのか。
状況に飲み込まれるのではなく、自分を大切にしてもらうためです。

「話さない」という選択肢

Points of You®︎を使う利点は、「写真カードは選ぶが、話さない」という選択肢を取れることでした。
誰かが「話さない」という選択肢を取った場合、ツールがなければ本人の意思が見えにくく、不安になる人や自分のことを話しにくくなる人もいると思います。

しかし、写真カードを選ぶという行為を挟むことで、テーマについて本人が何か感じていることは伝わります。
それが何かはわからなくても。
周りも、その人の小さな意思表示があるだけで安心できます。

自分の感情と向き合う力

ただただこれを、2年間繰り返しました。
だんだんと「ご機嫌斜めな児童」は減っていきました。
むしろ、自分の機嫌を理解し、自分で取り扱おうとする児童が増えたように思います。

たとえば、カッとなるとすぐに手や口が出てしまっていた児童。
先生との喧嘩もしょっちゅうでした。
あるとき、私の授業の前の休み時間に、派手に先生と揉めていました。
その児童はいつものように、明らかに興奮している様子でした。
しかしそんな状態でも、先生の言い分を聞く姿勢を取っているのがわかりました。
そしてその後の私の授業にも、自分で自分を落ち着けて参加したのです。

あとで話を聞くと、運動会の準備で、子どもたちだけで進めたいことがあり、それを先生に反対されて口論になったのだとか。
自分としてはやりたいことがあったけど、先生の言い分もわかったからもう大丈夫、とのことでした。

自分の感情と向き合う力がつくと、相手の感情にも配慮できるようになるのではないかと感じた瞬間でした。

「組織ではうまくいかない」の言い訳

1回45分、1学期に2回の対話の授業、それを2年間。
もちろんそれだけで子どもたちに変化が起きたとは思いません。
むしろ、先生方の日々の努力の賜物だろうと思います。

でも例示した以外にも、対話の時間が影響しているのではないかと思わされる出来事がいろいろありました。

これは、対象が子どもだから生まれた変化なのでしょうか。

大人になるともう少し性格にねじれが出てしまって、複雑性は増すかもしれません。
子どもよりは時間がかかるでしょうし、やり方も大人向けにする必要はあるでしょう。

でも、基本的には同じことなんじゃないかと思います。
「小学生の事例ですよね、組織ではうまくいかないと思います」
こんなのはやらない言い訳にしか聞こえません。
子どもにできるんだから、大人だってできるでしょう。

大切なのは、何度も繰り返すこと。
この時間はプロセスの一部だと捉え、結果を焦らないこと。
むしろ、結果なんて一生出ないと割り切ること。

心理的安全性のためのルール

組織における対話をファシリテートしたあと、アンケートにこんな回答がありました。

「言いたくないことは言わなくて良い」という冒頭のガイドが、心理的安全性という観点で大事なメッセージだと感じました。今後の対話の中で、相手に対して自分も意識していきたいです。

カウンセラーの勉強をしているとき、「言うのが正義」だと思い込んでいる時期がありました。
話しながら自分の心が痛むようなことまで、つまびらかに話していたことがありました。
私以外にもよくある現象らしく、カウンセラーの仲間内ではこれを「ストリッパー」と呼んでいます。笑

自分について話すとき、自分の気持ちにも十分に意識を傾けてほしいと思います。
言いたいか、言いたくないか、自分の気持ちは知っています。
場のために一肌脱いでストリッパーになる必要はありません。

同様に、相手の気持ちにも配慮が必要です。
言いたくないことは言わなくてもいい、という寛容さです。

豊かな対話から生まれること

とはいえ、心を開いて対話をすれば、それが響き合って良好な関係性に発展しやすくなるのは事実。

例えばPoints of You®︎を使う際に「起こしたいこと」として、以下の3つがあります。

・心を開く
・パターンを壊す
・つながりの感覚を生む

ここ2〜3年ほど私は、最後の「つながりの感覚」について、グループの場に身を置いて探究し続けています。
まずは私が、自分らしくリラックスして場に心を開き話ができたときに、つながりの感覚を持てることが多いと感じています。

それは決して、自分がストリッパーではないとき。
ストリッパーの自分は、自分の感覚につながりきれていない(本当は話すことに躊躇があるのに話してしまうアンビバレントな状況)ので、周りにも違和感を与えてしまうのでしょう。

特に組織においては、まず「心を開きやすい場」を目指すところからかもしれません。
組織が「心を開きやすい場」になれば、それはひとつ、組織のパターンが変わったということ。
芋づる式にいろんなことが変わっていく合図です。

私は、組織の悪しきパターンを変えることが組織開発だと思っています。
例えば会議で自分の意見を言いにくい、というのは悪しきパターンの一つです。
心を開きやすい場にするためには、人間関係を変化させるしかありません。
しかしそれは、すぐには変わりません。
腰を据えて心を開きやすい場づくりに取り組み続けることが大事なんだろうと思うのです。

開くスキル、閉じるスキル

「もっと本音を話してほしい」という組織の企画側からのリクエストに対する私の違和感について、グループ・プロセスを探求する仲間に、勉強会の際に話をしてみました。

仲間の反応は「組織で本音なんて、そんな危険なこと絶対に無理〜!笑」。
そう、組織で本音は危険すぎるのです。

その話題の中で、ゲシュタルト療法に明るい仲間の一人が大切なことを教えてくれました。

セッションの際、人の心を開いたままで終えてはいけない。
閉じるスキルがなければ、誰かの心を開いてはいけない。

そしてその場にいたみんなで、「閉じる方法」についての実例を話し合いました。
Points of You®︎の場合は4つのステップのうち、「拡散」が開くスキル、「収束」や「行動計画」が閉じるスキルに相当すると感じました。

開いたら、閉じる。
この感覚は覚えておきたいものです。

続ける醍醐味

私は1on1でコーチングをしてくれる上司のもとで育ちました。
その上司になってから、働く世界が、ものの見え方が、一変しました。
自分の話を聞いてもらえるだけで気持ちは救われ、前向きで具体的なネクスト・ステップを踏み出すことができました。

本音なんかなくても、ただ、話せる場が継続的にあればいいと思います。
そこにPoints of You®︎のようなツールがワンクッションあれば、何もないよりも話しやすくなります。

人と人はゆっくりと、心を開ける関係性になっていくのだろうと思います。
そのために、小さく場を持ち続けること。
これが、今の組織に求められていることなんじゃないかと思うのです。


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