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弱い紐帯とフローがもたらす幸せ

今、(株)ファインド・シー様からのご依頼を受け、「キャリア自律ワークショップ」を開発・実施しています。

90分×6回の仕立てで、すでに3回が終わりました。

このお仕事、まさに「弱い紐帯の強み」と「フロー理論」が引き寄せてくれたものだと感じています。
お仕事をさせていただきながらあまりにも幸せなので、背景にどのようなことがあったのかを記します。

1.私の「弱い紐帯」

「弱い紐帯(ちゅうたい)の強み」は、1970年代に社会学者・グラノヴェッターが提唱しました。

人のネットワークには家族や親友、同僚といった「強い紐帯」と、ちょっとした知り合い程度の「弱い紐帯」があります。

新規性の高い価値ある情報は「弱い紐帯」からもたらされる可能性が高い、というお話です。


例えば転職したいな〜という時、仲良しの同僚よりも、ちょっとした知り合いの方が有益な転職情報を持ってきてくれます。
仲良しの同僚は自分と同じような情報を持っている可能性が高く、ちょっとした知り合いは自分では知り得ない情報を持っている可能性が高い、ということです。
自分にとってあっと驚く情報を持っているのはちょっとした知り合いだというのも納得です。


昨年12月に(株)ファインド・シーの代表に就任された江口さんとは、「ちょっとした知り合い」でした。

2013年から数年間、さまざまな企業の人事や研修会社に勤めている「社員教育に関わる人たち」が集まる「リフレクション・ナイト」という場があり、私たちはそこで出会いました。
実際のところ、リフレクション・ナイトで江口さんとお会いしたのは1〜2回程度、コミュニケーションも挨拶程度で、Facebookでつながり続けているだけの「弱い紐帯」でした。
つまり、出会ってから現在に至るまで、Facebookの投稿からなんとな〜くお互いの状況を知っているだけ、という繋がりです。


2.私の「フロー状態」

フロー理論は、心理学者・チクセントミハイが提唱しました。
こちらも1970年代の理論です。スゴイ理論は長く生き続けるのですね。

フローとは、ものごとに集中して没頭することで技術を習得・成長させていくことを指します。
そして、没頭していることを「フロー状態」と呼んだりします。


チクセントミハイは学問・芸術・スポーツなど、あらゆる分野の「飛び抜けた実績をあげた人」へのインタビューからこの理論を導き出しました。

その多くが没頭状態を回顧して「流れているような感じだった」「私は流れに運ばれた」という具合に、「flow」という単語を使ったのでこの名前がついています。
没頭しているときは、「本当にこんなことやっていていいのか」というような、流れを邪魔するような心の声など生じず、心理的エネルギーがやっていることに向かって順当に流れていくような感じなのでしょう。

そして、フロー状態を伴う活動が終わって自意識が戻ると、フロー体験前の自分より成長していて、新しい能力が身につき、自分自身が高められている状態になっている、とチクセントミハイは言います。


私は、大学院生かつフリーランスです。
自分の研究活動だけでなく、お仕事として研究・分析などをすることもあります。

研究というフィールドにおいて私はまだまだ未熟者。
面白そうな研究プロジェクトには報酬額そっちのけで参加し、分析に没頭してきました。

……そう書くと低額で働いたように見えますが、どの企業様からもそれ相応の、時にはそれ以上の報酬をいただいておりますのでご安心ください。笑
報酬額を聞く前に「やります!」と言ってしまう感じです。
そしてそのために、やりたくない仕事で時間を埋めたりしないで、ゆとりを確保していたようなところもありました。


どの研究プロジェクトも、分析を通じて新しいことが見えてくる瞬間や、プロジェクトメンバーとの意見交換で新しいものの見方に気づく瞬間が至るところにあって、何もかもが驚きと喜びに満ちていました。
もちろん、難しいこと、悩むこと、困ったこと……いろいろ発生しますが、それも含めて楽しんでいたように思います。


チクセントミハイは、フローの条件の一つとして「それ(やっていること)自体が目的であること」と述べています。
私はただ、研究の場にいて分析すること、これをひたすら楽しみました。
そしてふと我にかえったとき、フロー状態前の自分よりは確実に成長しているなぁという実感も得られました。


3.「弱い紐帯」が「強み」に変わるとき

ただひたすら研究活動を楽しんだ結果、いくつかの賞をいただく機会がありました。
それにより、さらに研究関連のお仕事は増えました。

江口さんが声をかけてくれたのも、Facebookの投稿などをなんとなく見ていて、ご自身のビジネスに役立ちそうな経験を持っているかも、と思っていただけたからだと思います。

「弱い紐帯」が「強み」に変わるとき。
今回の場合は、自分が夢中でやってきたことと、江口さんがビジネスで実現したいことがマッチしました。

これが「強い紐帯」の場合だと、私の性格の良いも悪いも見えすぎていて、あれこれと見通してしまい、依頼しにくいかもしれません。笑


4.なぜこの仕事が「幸せ」か

私はフリーランスになったばかりの頃、企業研修の講師をやっていました。
時々キャリア研修も担当していましたが、気が重いことがありました。
例えば研修前に、発注元の人事部からこんなことを言われるのがしんどかったです。

「女性が管理職になりたがらないので、管理職になることを促すようにお願いします」

もちろん、会社として女性の管理職候補を育成したい気持ちもわかります。
だけどそれは、管理職候補者研修でやってくれ、と思いました。

……一応、促しましたけどね。オファーですから。仕事ですから。

私にとっての「キャリア」は「自分で決めるもの」です。
でも、心にもないことをやってみると、自分の価値観に気づくことがあります。
そのとき私は、誰かが自分のキャリアを自分で決めるためのサポートは喜んでしたいけど、女性を集めて管理職になることを促すのは私の仕事じゃないと感じました。

そんな経験もあり、私は企業研修の外部講師という仕事から降りました。


(株)ファインド・シー様より「キャリア自律ワークショップ」のお話をいただいたとき、私は率直に上記のことを話しました。
「キャリア自律」の概念を使うのであれば、そして私が作ってファシリテーションをするからには、参加者が自分の価値観と向き合うためのワークショップにしたいということ、そして、お仕着せのキャリアを促すようなワークショップを求められるようであればやりません、とはっきり伝えました。

それに対して、江口さんを含む代表のお二人が「問題ありません」とおっしゃってくれました。
それはとても嬉しい出来事でした。


そして実際に、ファシリテーションしている最中も幸せです。
ワークショップでは、なるべくたくさんブレークアウトルームの時間を取り、参加者同士がテーマに沿って自分のことを話す時間を設けています。
語り合っている時の雰囲気が、なんとも言えず好きなのです。

対話は少し深い話をする時間というだけでなく、参加者によって主体的に「安心・安全の場」が創造される時間でもあると思っています。
その人にとって大切なことを話してもらっている、そのことだけでも尊いのに、それによって自動的にその場の空気が優しいものに変化していくこの感じ、わかっていただけるでしょうか。

ブレークアウトルームにお邪魔して、私は場の空気を感じています。
そうそう、私、これがやりたかったんだ!
と感じる瞬間です。


学校や会社で日常的に関わる人たちだからこそ、対話を通してお互いを少し深く知ることは大切だと思い続けてきました。
そして対話を通じて、強みをリスペクトして弱みをサポートするような新しい関係が生まれる瞬間も、小学生とのワークショップを経験することで目の当たりにしてきました。
企業でも対話の時間を作りたいと、ずっと思ってきました。

まだまだ道半ばではありますが、その一歩を踏み出せたことが幸せです。

すべての出会いに意味がある。
そして、夢中になれるものがあることは尊い。

子どもたちにそれを伝えられる大人になりたくて、今、生きています。
そこに一歩近づけた気がするのもまた、嬉しいのです。


さて。
研究者としてはまだまだ半人前の私です。
いつまでも幸せに浸っていないで、次なる論文を書くために、新たなフロー状態に入る準備もしなければなりません。
次も、楽しみます。


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