ー看護職向け更年期ケアの手引きー 更年期とは
更年期とは・・たった15文字の定義ですが、看護ケアの視点から更年期、閉経、人生における更年期の意味と看護ケアについて解説しました。
更年期の定義
更年期とは
日本産婦人科学会では更年期とは「閉経前の5年間と閉経後の5年間」と定義されています。
女性医学学会でも、同じように定義されています。
で以上!、というのが実際の話
でも、ここでは、医学的に深堀りをしていきたいと思います。
閉経とは
閉経は「相当の年齢女性において、月経が永久に停止いした状態(12ヶ月以上の無月経)を閉経というと日本産婦人科学会「用語集、用語解説集 改訂第4版 2018」で定義されています。
日本人の平均閉経年齢は、日本産婦人科学会による cross-sectional な研究では中央値50.5歳と報告されています。
2012年のJNHSの結果では中央値52.1歳でした。
この結果を受けて、日本の女性の平均年齢は52歳と話される医師もいます。
しかし、今のところ、多くの医師が50.5歳と言っています。
今後、データが積み重なって、平均閉経年齢が52歳になる可能性はあります。
私の接した女性の中で、一番閉経が早かったのは42歳、遅かったのは57歳でした。
このような話も聞いたことがあります。
「2年間生理が来なかったので、閉経したと思っていたら甲状腺機能低下症の治療を受けたら再開した」
この場合は甲状腺機能低下症の症状として無月経だったが、治療をうけた結果、月経が再開したので閉経してはいなかったということになります。
もちろん、妊娠で月経がなかったということもあります。
また、自然閉経だけではなく、病的な場合や人工的な閉経もありますので、次に説明します。
早発閉経
40歳未満で3ヶ月無月経の場合、早期卵巣不全(早発閉経)と言い、エストロゲンの減少で起こる体の変化が早期に開始することにより、様々な健康問題のリスクが高くなるので治療の対象になります。
遅発閉経
遅発閉経58歳を過ぎても閉経しない場合は遅発閉経と言います。
月経がこの年齢まで続くということは、エストロゲン(女性ホルモン)の作用が持続しているので骨粗しょう症などの可能性は低くなりますが、ホルモンが長期に保存されることで乳がんや子宮体がんといった婦人科がんの発症リスクは高まります。
外科的閉経
若くても両卵巣摘出術を受けると、エストロゲンの分泌がなくなり閉経します。
これを外科的閉経といいます。
50歳未満の外科的閉経ではエストロゲンの補充を行うことが望ましいとされています。
片方の卵巣が残っていれば、エストロゲンは分泌されるので閉経はしません。
ただし閉経時期が以下のように早くなるという報告もいれば、変わらないという報告もあるようです。
少なくても片側卵巣摘出手術を受けた方は、閉経が来るのが少しだけ人より早いかも・・と早めに準備を始めること
看護者は、手術を受けた患者さんに対し、この情報を提供し準備ができるように指導することが役割となります。
両卵巣摘出手術を行う場合、子宮がんの場合も多く、ホルモン依存性によりホルモン補充療法施行ができない場合があります。下記参照
偽閉経療法
薬を使って一時的に閉経の状態にする治療法があり、偽閉経療法と言い、子宮筋腫や子宮内膜症の治療で行われることがあります。
更年期症状があったとしても月経随伴症状が改善されるベネフィットのほうが大きいとされています。
ただし、これは半年の期間限定で行われます。
化学的閉経
化学療法では、がん細胞の増殖を抑える一方で、正常な細胞にも影響を与え、副作用をきたします。
生殖細胞も影響を受けます。
抗がん剤投与によって、卵巣にダメージが加わると、無月経や閉経を起こします。
これを化学的閉経と呼ぶこともあります。
この場合は、治療終了後月経が戻ることもありますし、戻らない場合もあります。
戻らなかった場合はセルフケアの指導、治療の選択肢の情報提供が必要です。
更年期における看護ケア
いずれの閉経でもエストロゲンが減少すると、更年期症状様の症状が出現し生活に支障を生じることがあり、セルフケア、看護職のケアや治療が必要になってきます。
ぜひ、この「看護職向け、更年期ケアの手引き」を参考にケアを提供してください。
また、必要時には婦人科を受診するように勧めてください。
以上、閉経について述べました。閉経年齢は、すこしずつ遅くなっているとも言われており、今後平均閉経年齢は50歳以上になる可能性があります。
また、日本における更年期の定義も今後、更年期に関する研究がされている中で変わる可能性もあります。
変更がありましたら、こちらの記事でお知らせしますね。
(有料記事は、変更があった場合メールで連絡があります)
閉経前後5年の5年は本当?
私が知っている限り、この閉経前後の5年をなぜ5年にしたのか、その根拠はどこにあるのかの文献は見つけられていません。
本当に5年5年なのかという疑問があります。
閉経前後5年という定義は、いまでは日本独自の定義のようです。
他の国では、どのように定義されているのでしょうか?
2001年から、国際閉経学会(IMS)や米国生殖医学会(ASRM)、北米閉経学会(NAMS)など生殖内分泌に関する加齢を10のステージに分けることが提案され、2011年に図1のように改訂されました。
ステージごとに月経状況やホルモンの変化、症状など詳細に規定されていて、個人差があることも含めてわかりやすくなっています。
図1を訳したものがなく、自分で日本語訳をしてみました。
図2のようになります。
ステージー2から+1cまでが、日本での更年期になるでしょうか。
(茶色の欄は、筆者が追加)
欧米の女性は、血管運動症状が多く出現するそうで症状の欄に特記されていますが、日本人は血管運動症状より肩こりや痛みを感じることが多いので、血管運動症状が出ることがイコール更年期になったというわけではありません。
更年期の後半は、閉経が起こるのでいつから始まっているかがわかります。
といっても、最終月経から1年経たないとわからないので、「閉経した、更年期だ」という時点で更年期10年のうち6年が経っていることになります。
このSTRAW分類によると、生殖期の後半からわずかに月経周期や持続期間が変動しはじめFSHが上昇、閉経移行期になると月経周期が7日以上早まったり遅くなったりが見られ、FSHが急上昇するということがわかります。
ただ、規則的な月経からいきなり1年間無月経が続き閉経する人もいますし、FSHは閉経後から上昇する人もいるので、更年期になったという明確かつ絶対的な指標がないのが、更年期女性自身もケアを提供する側ももどかしいところです。
今まで、接してきた女性から、婦人科を受診した際に医師に言われたこととして聞いたのは、「月経があるから更年期ではない」「FSHが低いから更年期ではない」「エストロゲンが十分あるから更年期ではない」などで症状で苦しんでいても「治療をうけることができなかった」という話です。
婦人科を受診しても、医師から「更年期ではない」と言われると、不調の原因がわからず、ドクターショッピングになったりします。
ドクターショッピングをして治療を受けても良くならず困った果てに、当院に相談に来て前述のように医師から言われたと話されます。
そのような時は、更年期の治療に詳しい医師に再度診てもらうようにお勧めしています。
結果、ホルモン補充療法を受けて劇的によくなっている人も多くいます。
そして、それまでの失われた時間を思うと悲しくなります。
治療を受けることができずに仕事をやめた、家族に迷惑をかけたと聞くと、本当に辛くなります。
最初に受診する病院の選び方は、「更年期以降の人生を変えてしまう」と、私は思っているので、講演などでも、下記のように病院を探すコツを話すようにしています。
助産院ハイジアコラム
婦人科の選び方と受診時のタイミング・受診時のポイント
更年期障害を治療してくれる、近くの婦人科をネットから探すコツ
参考にしてみてください
もうひとつ、たとえ確かにその時は更年期に入っていなくてもSTRAW分類をみてわかるように、1年とか半年で更年期に突入することもありますし、いずれは必ず更年期を迎えます。
一度、婦人科の医師から「まだ更年期ではない」と言われると、ずっと自分は更年期になっていないと思い続けている方もいて受診しなかったりします。
看護者は「いずれ更年期になりますから、症状があって辛ければ、また受診してくださいね」と声をかけて婦人科との縁をつなげていただければと願っています。
更年期入っているかどうかは、何かひとつだけで判断できるものではなく、様々な情報を統合して判断する必要があります。
月経の有無、月経周期の変化、月経持続期間の変化、経血量の変化、症状の詳細、日常生活への支障の有無とその内容を丁寧に問診することが、非常に重要となり、外来の看護者としての役割とも言えます。
人生における更年期の意味
エストロゲンの減少によって起きる更年期の変化は著しく、身体的な影響だけではなく心理的にも社会的にも更年期は大きなターニングポイントになります。
更年期障害により仕事を辞めざるを得なくなり、悲観的になったり経済的に困窮したり、家族やパートナーとの関係性が悪くなったりということが実際に起きています。
一方で、更年期を機に自分を見つめ直し、働き方や家族との関係を見直して自分のやりたいことに打ち込んで充実した日々を過ごす女性も増えてきました。
この差は、ヘルスリテラシーの差と言えます。
ヘルスリテラシーとは、自分の健康(病気)に関して自分で情報を集め理解し、それを元に自分がやるべきことを判断でき、行動できることです。
そのヘルスリテラシーに我々看護者は介入していくことが役割の一つともいえると考えています。
英語で更年期をクリマクテリウムといいます。
語源はギリシャ語の階段、はしごと言う意味になります。
まさしく、更年期をきっかけにいままでの自分の健康状態や生活習慣を振り返ってこれからの更年期以降、高齢期を見据えて新たな生活習慣やセルフケアを身につける大事なステップアップの時期になります
今まで、ここへの看護職としての働きかけはほとんどできていませんでした。
でもこれからは、私たちが積極的に関わっていくべきと考えて、このnoteを書いています。
コラム:「更年期」の語源
「更年期」という言葉は、いつから、どこで使われているのでしょうか?
他の言葉と同じく中国から渡ってきたのでしょうか?
詳しくはわからないのですが、中国では「血の道証」と言われていて、更年期という概念はないようです。
いろいろ調べて、更年期の語源について書いてあったのが、更年期と加齢のヘルスケア学会HP 「メノポーズQ&A」 での牧田産婦人科医院院長の牧田和也先生の回答でした。
下記の引用です。
注)煩悶:いろいろ悩み苦しむこと。苦しみもだえること
これを読んだときは、衝撃でした。
「更年期は女でなくなるということでしょ」という人が、今でも男性にも女性にも結構います。
日本人が更年期に対して持つネガティブなイメージは、もしかしたら、ここからきてたのか?と思い、ショックをうけました。
ただ更年期の「更」は、「更地」にするとか「更新」とかに使われるように、改めて新しくという意味があります。
更年期は新しいステージという意味にも考えられます。
ネガティブな更年期からポジティブ更年期と感じてもらえるようにしていきたいですね。
そのためにも、この看護職向け更年期看護の手引きを活用いただけたらと思っています。
引用文献:
1)日本産婦人科学会サイト
2)NPO法人更年期と加齢のヘルスケア学会ヘルスケアゼミ
3)The Stages of Reproductive Aging Workshop(STRAW)+10staging system (Harlow SD et al:Climacteric 15:105-114,2012
4)更年期と加齢のヘルスケア学会HP 「メノポーズQ&A」 回答
参考文献:
1)日本産婦人科学会「用語集、用語解説集 改訂第4版 2018
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