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人生は自分でコントロールしているのか? 何かに操られているのか? エピソード1


エピソード1
 また古い車を買ってしまった。
 それはもう辞めようと思って、ボンネビルまで720Miataを乗せたトレーラーを引っ張って行ったり、長旅に出るためのキャンパーバンに、VWのニューMini Vanが出るのを首を長くして待っていた。

2002年VW Microbusコンセプトモデル
2017年 ID BUZZコンセプトモデル
2022 ID BUZZ 生産モデル

 何年もの間、VW社の度重なる「出す出すサギ」に引っ張られ、首はとっくにろくろ首を通り過ぎ、やっと漏れ出て来た生産モデルの写真を見て、遂に千切れてしまった。どうも自分にはしっくり来ない感が漂っているし、アラスカへ行くのにバッテリーEVでは充電環境がまだ厳しいとも思う。
 何れにせよアメリカ登場は2024年以降ということで、当分の間、ID Buzzを諦めることになると、だったらどうすると言うことになる。
そうなると、僕の場合、次のチョイスもやはり通称ワーゲンバスの中からになってしまう。
 このバンにこだわる理由は、車の運転を始めてから、友達のだったり、父親のだったり、自分が所有したりと、これまで7台の歴代モデルと深く関わった程、この車には縁が有るからだ。それぞれの車が僕にとって忘れられない体験を提供してくれた。だから、ワーゲンバスだったら僕がこれからしたい事も可能にしてくれるのではないかと思えるのである。
 ただ、この歴代ワーゲンバスの中で、1979年から1991年まで作られた総称Type2 (T3)、ヨーロッパでは(日本も?)Transporter、Caravelle、南アフリカではMicrobus、アメリカではVanagon、中南米ではCombiと呼ばれるモデルだけは、縁が無かった。

1981 VW Type2 (T3) Vanagon キャンパー

  と言うわけで、VW社がビートルから脱皮してゴルフへと変身する端境期に生まれたこの車はどんなものなのか、ネットでリサーチを始めたのは数ヶ月前だった。
 
 ここはアメリカなのでVanagon(VanとWagonの安易に合成した感じ)と呼ぶとして、このモデルのワーゲンバスは、ロサンゼルスの街では今だに結構見かける。だから薄々感じてはいたものの、掘りはじめたら、これが底なし沼の様に深かった。
 VWファンのコミュニティーサイトTheSamba.comの売買欄に始まり、フォーラムを読んだりして、YouTubeで関連ビデオを見始めたら、「もうやめてくれ!」と言いたくなるほど、おすすめ動画が上がって来るようになってしまった。今日現在、TheSamba.comだけでもFor Saleが200台以上掲載されているほどマーケットに台数も多いし、カスタムパーツを作っているスペシャルショップも数多く、結局ネットで止め処もなく時間を費やす羽目に陥ってしまった。

 リサーチして分かったことは、この車は、VW経営陣が安価なゴルフのFFユニットを積んで世に出そうとしたところ、それに反対した労働組合が空冷水平対向4気筒エンジンをリヤにつむRR方式を主張してこうなったと言う、世界中にファンが多いカルトカーだという事だった。
 それもあって、このモデルは長年にわたって世界各地で生産され、名前だけではなく、様々なバリエーションが存在する。エンジンは水平対向4気筒、空冷1.6Lで始まり、84年から水冷1.9Lになり、85年から2.1Lに。そして途中に直列水冷4気筒ディーゼルも加わる。トランスミッションは4速マニュアルもしくは3速オートマティック。サスペンションは贅沢で、前ダブルウィッシュボーン、後ろセミトレーディングの4輪独立。駆動方式も後輪2輪駆動、シンクロシステムの4輪駆動まで揃っている。装備、内装のチョイスも、7人乗りの乗用車からキッチン冷蔵庫、ポップアップルーフ付きのキャンパー、その中間のウィークエンダーと数が多い。また近頃は、非力なオリジナルVWエンジンをスバルの2.2L、2.5L、2.5Lターボ、3.2L、VWの直列4気筒ディーゼルターボなどへのエンジンスワップが盛んで、マーケットにもそれを済ませた車が多く存在する。
 大まかなチョイスは、外見でポップアップルーフが付いたキャンパーか普通の屋根か、オートマチックかマニュアルかである。
 
 その数あるモデル、仕様の中で、僕が「やっぱりこれだな!」と仮想ターゲットにしたのは、最も素の1985年の水平対向1.9L水冷エンジン、4速マニュアルギアボックスを積んだ7人乗りの乗用車タイプだった。ポップアップルーフが付いたキャンパーは遊び心満載で見ているだけで楽しくなるけれど、使わないキッチンやその他の装備200Kg+αを常に積んで走るのはストレスで、屋根が重くて運転は楽しくないし、燃費も悪い。以前持っていた1973年のキャンパーで懲りていたので、今回はチョイスから外した。というより、キャンパーは現在のマーケット価格が高過ぎて、僕の予算レンジでは一台も見当たらなかった。もちろん4駆のSyncroモデルも同様の理由で選から漏れた。
 ということで、僕のアナログメタバースの中で妄想したボンネビルサポートカー兼キャンパーバンは、丸目2灯のオリジナルデザインがこの年で終わるので、それが決め手になった1985年の素のVanagonだった。

 さて、ここからが本題である。
 勝手にターゲットを設定してから数日後、僕はフードデリバリーの仕事で、ロサンゼル港を抱える港町サンペドロを、アプリのAIからの支持に従って走っていた。この街の南側1/4は半島になっていてフリーウェーまで遠いこともあり、開発から取り残され、建物や住人たちにヒッピーっぽさを感じる場所で、「路駐の生存車」の車影も濃い。
 この日も以前写真を写したことのあるブルーのVanagonをやり過ごして角を曲がると、オレンジのキャンパーが止まっていた。それを撮影してから坂を下って右に曲がって、2ブロック先でデリバリーを済ませ、同じ道を戻ってくると、さっき通った時には気がつかなかったほどステルスな素のVanagonが止まっていた。
 

 これがその時の写真

僕は、”へーっ、こんな地味なVanagonも居るんだ?”と思いながら、いつものように撮影を済ませて走り去った。
 そして、AIがたまたま送って来た次のデリバリーでも同じ道を走ることになり、今度はこの地味なVanagonのダッシュボードにFor Saleサインが置いてあるのを見つけてしまったのである。

 ただし、僕がこれまでマーケットリサーチをしていたのは、経済的準備ができた時の予習であって、その知識が役に立つのはまだまだ先の事だと思っていたので、ターゲットど真ん中の売り物を見つけたのに全然興奮せず、ただ、いつもの癖で車から降りてFor Saleサインは写真に写しておいた。

 これはお昼過ぎの出来事で、夕方に仕事を終えて家へ戻ったら、やはりあのVanagonが気になってしまい、これはリアルなマーケットリサーチのチャンスと思い、For Saleサインの電話番号にテキストを送って値段を聞いてみた。すると返って来た返事が、僕を”なるほど”と興味を引かせる数字だったのである。そうなると、その値段だと実際にどの程度のヤレ具合なのかを知りたくなるのが人情である。だから、僕はつい、翌々日に車を見せてもらう約束をしてしまった。
エピソード2に続く




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