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L’Arc-en-Cielの音楽の魅力を7つのジャンルでご紹介 〜第四弾 愛執編〜

L’Arc-en-Cielの魅力を7つのジャンル(恋愛、愛情、哀愁、愛執、運命、未来、抵抗)でご紹介する本シリーズ、第四弾は愛執編です。愛執とは、愛する者に惹かれて心が自由にならないことや、愛情や愛欲に執着することを意味します。

これまでご紹介してきた恋愛編愛情編哀愁編に比べて、一般的に有名な曲は少ないですが、実はサウンド的に聞き応えがあり、濃厚な世界観を楽しめるスルメ曲が多いところが愛執編の特徴です。


愛執編

All Dead

(作詞:hyde 作曲:hyde)
愛執編の記念すべき第1曲目は「All Dead」です。
冒頭の英語の歌詞を見ていくと、「堕ちる時だ」「さよならを言う時だ」「あなたがいなくなればいいのに」「全て死に絶えればばいいのに」といったフレーズが並んでいて、よっぽど相手のことが憎いようです。これだけ憎しみが深いということは、裏を返せば、その分「あなた」のことを強く愛していたのかもしれません。だからこそ、憎いのに「消えない想い」として残り続けている。

「同じ傷痕をつけ同じ苦痛を 彼にも与えてあげたい」「抜け出せない悪夢を今すぐ 彼にも与えてあげたい」「くるいそうな恐怖を」「何度も」

「同じ」というキーワードがポイントです。自分が受けた以上の苦しみを与えたいとは思っておらず、「同じ傷痕」をつけて「同じ苦痛」を与えてあげたいと思っている。これって、同じ目に遭わせて気持ちを共有したいという、焦げついた愛情が背後にあるのではないかと思います。だけどそれは「叶わぬ願い」なんですね。なぜなら「彼」はもう近くにいないから。

なのに、英語の歌詞の部分では「さよならを言うときだ」「あなたがいなくなればいいのに」「全て死に絶えればいいのに」と言っている。これは、今どこかで生活している「彼」が死んでしまえばいいのにという話ではなく(それくらい憎いのかもしれませんが)、どちらかというと、自分の中に「消えない想い」として残っている思い出の「彼」が全て死に絶えてなくなってしまえばいいのに、と言う心象を表しています。

また、「抜け出せない悪夢」「くるいそうな恐怖」いうフレーズからは、憎くて忘れてしまいたいのに忘れられないという、無間地獄を思わせる苦しみを感じます。

その後の「自由を奪った貴方に」という部分では、これまで「彼」と言っていたのに「貴方」になります。これは、相手に敬意や親しみを込めて呼ぶときの呼び方です。元々強く愛していたからこその「貴方」だったのに、いつの間にか自由を奪われ、裏切られ、愛情が憎しみに変わってしまった。そんな「貴方」に「少しも消えない痛みはいつまで続くのか教えて」ほしいと思っているし、「少しも消えない殺意に悩まされている」ことを伝えてほしいと思っている。相当苦しいです。愛と憎しみの執着から離れられない業の深さを感じます。

メロディの観点では、歌詞の内容のわりに優しい「与えてあげたい」の部分や、
「今すぐ」や「何度も」が終わった後の「ボンボンボンボン ボーボボンボンボン…」というベースのフレーズが好きです。

Blame

(作詞:hyde 作曲:tetsuya)
hydeの低音ボイスから始まるこの曲は、冒頭で、過去の分岐点にもう一度戻れたと仮定して、「君に触れることなく今の道を選べるかわからない」と言っています。つまり今の道は、「君に触れた後の道」ということがわかります。しかもその道中で、「僕」は深い傷痕が残るような罪を犯している。でも、そのことを神様にも責めさせはしないと言っています。「あの時のように」…意味深ですね。あの時とはいったい、何を指しているのでしょう?

2番目の歌詞では、「君に触れた後の道」が「果てない苦痛」に歪んだ道だったと言っています。そして今「僕」がどんな状態かというと、「君を今も想う日々」や「罪を数え暮らす日々」を過ごしていて、膝を抱えているような状態です。
「君」と出会い、「君」に触れ、罪を犯し、罪を犯してしまった自分に苦しみ、その後も「君」を忘れることはできず、今も「君」を想い、自分が「君」に対して犯した罪の数々を思い返して苦しんでいる…「All Dead」が罪を犯された側の無間地獄ソングなら、「Blame」は罪を犯した側の無間地獄ソングだと思います。

サビの「胸の奥に突き刺さったままの情景が抜けない」とは、「僕」が「君」に対して罪を犯してしまった時の情景のことかもしれません。冒頭の「あの時のように」も、この時のことを指しているのかもしれません。

罪を犯してしまった時のことも、罪の意識に苛まれながら過ごしてきた日々のことも、誰にも責めさせはしないと言っています。自分が歩んできた道が間違いではなかった、という確証があるわけではないと思いますが、「君」とのことについてあれこれ思い悩んだり苦しんだりしている自分を責める権利は、他者にはないんだと主張しています。自分の人生を自分で引き受ける強い覚悟を感じます。

間奏の哀愁漂うギターソロが終わった後、バックに流れるのはベースとドラムの音だけになります。静かになって、ゴゴゴゴゴ…という不穏な雰囲気を醸し出しています。この時のベースのメロディラインが渋くてかっこいいです。

あなたのために

(作詞:hyde 作曲:ken)
とにかく、イントロのギターがかっこいいです。イントロのギターのかっこよさで言うと、L’Arc-en-Cielの曲の中でもベスト10には入ると思います。

「貴方」の思うがままにされてきた「僕」。「貴方」のために尽くしてきたのに、報われない。報われないばかりか、「貴方」の思い通りに行動することによって自分の自由が奪われていくように感じる。満たされないのに、離れられない…そんなどうしようもない気持ちがサビで爆発します。

「なにーをーすーれぇーばー、みたっさぁーー!れぇーー!るぅーーーのぉぉおかぁっ!!! Ahーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

気持ちとメロディがピッタリ。「貴方」の愛情を欲する報われない「僕」の心情にシンクロしています。

I’m so happy

(作詞:hyde 作曲:hyde)
「I’m so happy」というタイトルの曲ですが、冒頭の歌詞が「たった今 君たちに映る俺は とても苦しそうに見えるかもしれない それでもどうか殺さないでくれ 本当に目を閉じてしまうまで」という不穏な内容になっています。

「俺」が苦しそうなのはなぜなんでしょう。この後「どうやら つけが廻ってきたようだ あるもの全て好きにすればいい」と言っているので、過去に何か不義理なことをしたのかもしれません。それが巡り巡って、自分の首を絞めるような状況になり、自暴自棄になっている。文字通り死にそうなほど苦しい状況だけど、「殺さないでほしい」し「悲しまないでほしい」と言っている。なぜか?

続くサビでは雰囲気が一転します。「花に 水に 光 流されてゆく」…急に綺麗な描写です…「言葉 途切れ 眠り」…何だか虚ろになってきた…「月に 海に 痛み」…この痛みは、心の痛みなのか、身体的な痛みなのか、両方か…「何よりもあぁ あなたに会いたい」…「あなたに会いたい」からこそ「殺さないでほしい」し、あなたのことを想う私はとても幸せ(I’m so happy)だからこそ「悲しまないでほしい」んですね。

Cメロでは「いつの日か生まれ変われるとしたら もっと あなたのそばにいたい 誰よりも」と強く願っています。過去の「つけ」によって、この人生ではもはやその願いは叶わない。だからこその「いつの日か生まれ変われるとしたら」という表現。切ないですね。

そして2回目のサビで、「あなた」の面影が見えてきます。「髪に 肌に 今も 触れていたくて 涙 濡れた 瞳」…「俺」は、過去にあなたと出会いそして悲しい別れをしたのでしょうか…「声に 指に 笑顔 想うのはあぁ あなたのことばかり」…それでも「あなた」を想ってしまう苦しい胸の内が描かれ、そして…

怒涛の「I love you」9連発!!!!!!!!!
愛執大爆発です。

この曲は決してキャッチーではありませんが、サビの美しいメロディや、I love you 9連発のパンチ力などが合わさって、とても魅力的な曲だと思います。

LOVE FLIES

(作詞:hyde 作曲:ken)
アンダーグラウンドな感じがするこの曲は、1回聴いただけではあまり印象に残りづらいかもしれません。1つ前の作品が「Driver’s High」、1つ後の作品が「NEO UNIVERSE」で、華やかな両作品の間に挟まれていることもあり、注目されづらいかもしれません。が、この曲は聴けば聴くほど味が出るザ・スルメ曲です。

歌詞はかなり抽象的です。「果てしない君のもとへ どれくらい近づいただろう」とフレーズがありますが、「君」に近づきたいという気持ちがあるけれど、全然辿り着いていない感じがします。自分の前には分かれ道があり、右側は真実、左側は嘘。普通なら、迷わず右側の真実の道を行きそうなものですが、「道を示してくれ(Show me the way)」と言っているあたりに業の深さを感じます。嘘であっても、幸せならそっちを選ぶ、とでも言わんばかりに。

2番の歌詞では、「幻影が手招いている 最後の愛 引きかえようか」というフレーズもあります。これは、主人公が幻影=左側の嘘の道を選ぼうとしている様子が窺えます。ここでまた分かれ道についての言及があり、右側は魂、左側は命と言っています。整理すると、右側=真実の道=魂と引き換えに進む道であり、左側=嘘の道=命と引き換えに進む道であることがわかります。

主人公は、左側の道…つまり、自分に対する「君」の気持ちが嘘偽りのものであったとしても、たとえ命と引き換えにしても、そっちの道を選ぼうとしているわけです。そしてトドメの、「もっとそばに来て…感じていたい もっと何が欲しいか言って…さぁ!」。静かな曲調ですが、ものすごい愛執を感じます。

…とここまで、愛執の文脈でお話ししてきましたが、実はこの曲、「ライブでのファンのことを想って書かれた曲」だという話を聞いたことがあります。サビの「The color is singing」は、ライブ会場に集まった色とりどりのファンが歌っている様子を描いているようですし、そんなファンに対して「溢れる輝きを与えて」とお願いするような気持ちを歌っている。「叶わぬ世界へ君よ放て」というのは、お客さんにとってステージ上のメンバーは「叶わぬ世界」でしょうし、もしかしたら歌の世界が「叶わぬ世界」かもしれない。せめてライブの間だけでも、そんな世界へあなたの気持ちを解き放ってほしいというメッセージなのかもしれません。そうすると、この歌の主人公はL’Arc-en-Cielだと解釈できて、左側の道を選ぼうとしているのは…「君=ファン」の気持ちが嘘偽りのものであったとしても、たとえ命と引き換えにしても、そっちの道を選ぶという、バンドとしての決意を示しているようにも感じられます。

ただ、そういう背景を抜きにして純粋にこの曲を聴くと愛執を感じるので、このカテゴリにピックアップしてご紹介しました。

あと、冒頭でこの曲がスルメ曲だとお話ししましたが、そのポイントはコーラスにあります。L’Arc-en-Cielのコーラスは通常tetsuyaが担っていますが、この曲ではkenもコーラスに入っています。曲の後半に進むに連れて熱くなるコーラスの掛け合いがググッと来ます。

THE NEPENTHES

(作詞:hyde 作曲:ken)
この曲もイントロがかっこいいです。太いベースと重く歪んだギターのサウンドが激しく不穏な雰囲気を醸し出します。

歌詞を見ていきましょう。「溢れそうな俺の棘 底なしの遺伝子」…「その傷口掻き回して 口づけしよう体中に」…英語の部分は「DNAから内なる自己が呼んでいる」…「あなたを舐め回したい」…「誘惑的な歓迎」…「一晩中俺の蜜を注いであげたい」…

意味は推して測るべし。

この世界観を表現するフレーズが、「as if sheltered in the bed of the nepenthe」の部分。「まるでウツボカズラのベッドに守られた(囚われた)ように」といった意味合いですが、ウツボカズラって、虫が一度その中に入ってしまうと、溶かされて吸収されるまで出られない構造をした植物です。そんな世界で後先考えずに没頭する様子を感じさせる曲ですね。

Lover Boy

(作詞:ken 作曲:ken)
この曲もギターのイントロがかっこいいです。そしてkenが作詞作曲というのも珍しい。

英語の歌詞を見ていくと、「私は夜まで夢を見る(=昼間は眠っている)」「今宵君の血が欲しい」「今宵血を探す」というフレーズがあり、日本語の歌詞にも「深く噛んで 今獲らえているよ」というフレーズがあるので、ヴァンパイアの雰囲気があります。

tonight, want your bloodのところのメロディがいいですね。

ヴァンパイアテイストは醸し出していますが、本質は「味わい逢おう」「抱きあい逢おう」「揃う呼吸から 今宇宙までゆくよ」「優しく誘い出して 君のおくへゆこう」「溢れ出してく僕を 残さず飲み干して」というフレーズが表現している部分にあります。

THE NEPENTHESのヴァンパイアバージョンと言ってもいいかもしれません。

音楽的にも聴きどころの多い曲で、2番のサビが終わってから渋いベースの間奏が入り、CメロのDon’t be shy〜のパートが終わってからはギターソロが入ります。ギターソロの裏で流れているドラムのリズムも疾走感があって、最後のBメロの「tonight shaking! tonight, looking for the blood!」で駆け上がる感じがたまりません。全員にかっこいい見せ場がある曲だと思います。

以上7曲が、愛執に苦しんだり、逆に没頭したりするL’Arc-en-Cielの歌でした。

次回はL’Arc-en-Cielの「運命」を描く曲をご紹介していきます。彼らの真骨頂とも呼べる名曲の数々をご紹介したいと思いますので、お楽しみに!

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