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L’Arc-en-Cielの音楽の魅力を7つのジャンルでご紹介 〜第三弾 哀愁編〜

L’Arc-en-Cielの魅力を7つのジャンル(恋愛、愛情、哀愁、愛執、運命、未来、抵抗)でご紹介する本シリーズ、第三弾は哀愁編です。

これまでにご紹介してきた恋愛編愛情編は、基本的にはどちらも明るく優しい雰囲気の曲でした。今回のテーマは哀愁ということで、恋や愛に限らず、胸に迫るような切ない感じの曲をピックアップしています。


哀愁編

風の行方

(作詞:hyde 作曲:ken)
物憂げだけれど優しい雰囲気もあるこの曲は、Aメロの風景描写が素敵です。休日、「麗らかな空に誘われ」て窓を開ける。「私」は何か物思いに耽って頬杖をつく。さっき開けた窓から入ってきた風は、「次に誰を訪ねるのだろう」と思う…ちょっと人恋しい感じがします。

次のAメロでは、また別の切り口で「私」の状況が描かれます。休日なので、「あわただしく過ぎゆく毎日も  今日は少しだけ緩やかに」時間が流れている。「退屈で手にした本から落ちたのは  あの時から止まったままの笑顔」…本に挟んでいた恋人との写真が出てきます。

Bメロは1フレーズだけなのですが、そこで「私」と恋人(=あなた)との関係性がわかります。「あなたといた鮮やかな記憶が蘇る  次の風を待つこの窓辺に」…「私」はもう「あなた」と別れていて、次の風(=恋)を待っている。

タイトルの「風の行方」とは、「恋の行方」のことだと想像できます。ただ、以降の歌詞も踏まえて考えてみると、「あなたの行方」とも考えられます。

そしてサビで哀愁爆発。「あなた」との別れ際の描写で、「あなた」は「行かないで  そばにいてほしい」と涙を流しながら、震えた声で「私」に訴える。まるで「迷子のような泣き顔」で。その時の「私」は「あなた」が泣いているのを見て、「その涙に終わりはないの?」と思っている…ちょっと、冷たいような感じがします。

でも今、当時のことを思い返してみると「せつなくて抱きよせたくなる」。別れ際はあんな気持ちだったのに、今また「あなた」のことが恋しくなっている。だからこそ「この想いは何?」というフレーズにつながるんですね。そして反省の気持ちも込めて、「もう困らせないから  この部屋においで(=戻ってきて)」と願う。でも、戻ってこない。淋しくて「一人にしないで」と嘆く。「今もまだその声がこだましている」とあるので、未練があるんでしょうね。

5分ちょっとの曲の中に、これだけのドラマが描かれているのがすごいです。

Blurry Eyes

(作詞:hyde 作曲:tetsuya)
イントロのギターのメロディがかっこいい。明るめの雰囲気もあるのですが、どこか哀愁を感じさせます。裏で流れるベースのメロディにも注目です。

歌詞は、冒頭から切ない状況が描かれます。「遠くの風を身にまとう貴方には  届かない言葉並べてみても  また視線はどこか窓の向こう」…「遠くの風を身にまとう貴方」(=もう次の恋のことを考えている貴方)に対して、どれだけ言葉を並べて見ても届かない。「変わらない予感は続いている」というのは、この状況はもう変わらず、別れに向かっているという予感ですね。

サビの「めぐり来る季節に約束を奪われそう  この両手差しのべても心は離れて」は、「めぐり来る季節」(=貴方の次の恋)に、「約束」(=私との恋)が奪われそうと言っているわけですね。うーん、悲しい。でもこれはどうしようもないですね。

間奏のギターソロも哀愁に満ちています。その後「Why do you stare at the sky with your blurry eyes? 」(どうして虚ろな目で空を見つめているの?)という英語の歌詞が入ります。発音が「ブルーリー」なので、「青い目」を連想してしまいますが、blurryは「ぼやけた」という意味です。ここでは、ぼやけた目=虚ろな目という意味合いだと思います。

ここからがこの曲の真骨頂。2回目のギターソロで哀愁爆発。このギターソロのメロディがカッコ良すぎます。そしてその裏で、冒頭と全く同じ同じベースのメロディが流れています。イントロの構成が「ギターメロディA+ベースメロディA」だったのが、ここでは「ギターメロディB+ベースメロディA」になっています。メロディの組み合わせが違うのに、不協和音にならず成立しているかっこよさ。
冷静に考えてみると、1曲の中にギターソロが2回あるのも珍しい構成。

Blurry Eyesは、名曲です。

Vivid Colors

(作詞:hyde 作曲:ken)
この曲もイントロのギターのメロディがかっこよくて、哀愁たっぷり。何回でも聴ける「おかわり」メロディです。

「つないだ手を離したなら」から始まる歌詞は、いきなり別れの情景を描写しています。その後の「僕は誰もいない午後の中  次の言葉を探していたい」というフレーズが素敵です。「誰もいない午後の中」…静かなんでしょうね…「次の言葉を探していたい」…物思いに耽っていたいのかな…何というか、これだけで一枚の絵になりそうです。

次の場面では、「僕」は電車に乗っています。でも、hydeは「電車に乗っている」なんてそのまま書いたりしません。「列車は今日彼女の街をこえて  知らない風景をつれてくる」…なんですか、この表現は。まず、「電車」ではなく「列車」。そっちの方がかっこいいですね。「乗っている」とは書いていないんですけれど、「僕」のもとに「知らない風景をつれてくる」わけですから、「僕」は「電車に乗ってどこかに向かっている」ことがわかります。「知らない風景をつれてくる」という表現は、車窓に流れる風景を思わせる表現で、それを物憂げな面持ちで眺めている僕の横顔まで連想させる、素晴らしい表現だと思います。

そしてBメロの極め付けのフレーズ。「この色彩に映された僕は何色に見えているのか」…恋人と別れ、複雑な想いを胸に抱える僕は、この流れゆく風景(= Vivid Colors)の中、いったい何色に見えているんだろうと思う…何と詩情豊かな表現でしょう!頭をひねり倒しても出てきません。きっと、複雑な気持ちを抱えた今の「僕」はVividな色ではない…そんな、周りの風景と自分の気持ちとの対比を描いているのだと思います。

サビのメロディもかっこいいですね。開放感があるのですが、裏で流れるギターのカッティングのジャキジャキした音が、切ない胸の内を表しているように思います。

間奏も、流れゆく景色を眺める「僕」の気持ちにギターソロが寄り添い、そして、「あざやかに彩られた窓の向こうに瞳うばわれるけど  面影をかさねてしまう」で哀愁爆発。「あ〜」ざやか「に〜」いろどられた「まっ」「どっ」「の〜」むこ「う〜」にひとみうば「わーれーるけーど」…おーもかーげを…かーさ「ねてっ」「し」「ま」「うぅ」!!…メロディの強弱の波が、胸を掻きむしるような切なさを見事に表現しています。

心情とメロディがぴったり寄り添っている、素晴らしい曲です。

Singin’ in the Rain

(作詞:hyde 作曲:hyde)
L’Arc-en-Cielの曲の中でも、ジャズっぽい雰囲気のある曲です。

静かな雨音が心地良くはずみ、行き交う人々の傘は色とりどりに華やぎ、見上げた空から落ちてくる雨の雫が一つ一つきらめく…そんな綺麗な情景が明るい曲調で描かれています。雨が降っているので、「僕」も傘を差しているはず。

けれど、サビの心情的には、両手を広げて雨を全身に受けているようなイメージ。「いつまでも降りづつけ  心へ  君の好きだった雨に優しく包まれて  素敵な歌は今でも流れてくるよ  I’m just singin’ the rain with you」…これまで哀愁爆発の曲が続いてきましたが、この曲はそういうタイプではなく、明るさに包まれた切なさを感じます。

きっとこの物語の二人は、今はもう別れているけれど、いい恋をしていたのだと思います。そんな「君の好きだった雨」に優しく包まれるというのは、胸があたたかくなるけれど、同時に切なくもなります。そこに、いろんな経験を経た後だからこそ感じる、大人の哀愁を感じます。

Sell my Soul

(作詞:hyde 作曲:hyde)
こちらもジャズっぽい雰囲気のある曲です。

悪魔に魂を売り渡してでも、たとえ天国に行けなかったとしても、「君」をさらって二人でいたい。そんなふうに思わせる「君」は、手を伸ばして掴んだけれど、「綺麗な棘つきの花」(=美しく、そして一筋縄ではいかない人)だった。だからこそ、別れた後も忘れられない。心から会いたいけれど、それはもう叶わない。だから、「I always see you in my dream」…夢で見るしかないんですね。切ないです。

「Singin’ in the Rain」と同様、哀愁爆発タイプではなく、大人の哀愁を感じるタイプの曲です。

そして何といっても、「I always see you」でちょっと焦燥感のあるメロディの後「in my〜 dream〜」でゆるやかに解放される浮遊感のあるメロディが心地良い。「dream〜」の後から裏で流れ始める、ギターの丸みのあるメロディが物憂げで、まどろんでいるような雰囲気で絶品です。何回でも聴ける「おかわり」メロディです。

この曲の雰囲気は、白っぽくて、透明感があります。歌詞に出てくる「遠い街」というのが、ヨーロッパの石造りの街。色とりどりというよりも、むしろパルテノン神殿のように白いイメージ。「そして何処までも案内しようか  幼い頃のように」では、「幼い頃」という言葉が遠い過去を表して、霧の向こうのような印象を与えます。「目覚めても目覚めても出口の見えない  冬眠を繰り返して」…白いカーテンが揺れる部屋のベッドで午後の眠りに今日もまどろむ…そんな情景を思わせる曲です。

TIME SLIP

(作詞:hyde 作曲:ken)
懐かしさを感じさせるようなイントロから始まるこの曲も、大人の哀愁を感じさせます。

「君」と一緒に過ごした季節はいつの間にか過ぎ去って、もう長い間会っていない。離ればなれになっているのは物理的な距離だけじゃなくて、心の距離も離れてしまっている。「気づかないふりしてるけど遊び方を忘れてしまったのさ」というフレーズが、昔みたいに「君」と接することができない、ぎこちない感じを表しています。

イントロが終わってからサビに入るまでの間、ギターのアルペジオがずっと流れていて郷愁を誘います。サビの「Passing by〜」の裏で流れる「タンタンターラ ターラタララララ」というギターのメロディも絶妙で、懐かしくて胸がほっこりするような雰囲気が出ています。このメロディがあるのとないのとでは、曲の雰囲気は全く違うものになっていただろうなぁと想像します。

お互い別々の道を歩んでいるんだけれど、過去に二人で過ごした時間は「甘く切ない足跡」として記憶に残っている。「ねぇ  君も同じ気持ちだろう?」…このフレーズには、そうあってほしいという願いが込められています。

間奏の静かなメロディーの裏で、時計の秒針を思わせるようなジャジャジャジャッ…という音が入っている演出も素敵。

二人がこの先一緒に過ごすことは、もうない。けれど二人には、一緒に過ごした日々の記憶があって、その「淡い炎」(=大切な思い出)を絶やさぬように、明日へと向かっていこう…そんな気持ちにピッタリ寄り添うメロディの名曲です。

ALONE EN LA VIDA

(作詞:hyde 作曲:ken)
何となく寂しく、妖しい感じさえするギターのメロディが流れ、「faded」(=色褪せた)という言葉で歌詞が始まります。

過去の足跡は霞み、これまでずっと続けてきた旅さえ一陣の通り風でしかない…「私」は、自分の人生がまるで夢や幻のように感じています。「一陣の通り風」という言葉が、胸に隙間風の吹くような寂しさを表現しています。過去を思い出してふと郷愁に誘われるけれど、戻ることもできない。この先の人生を歩んでいくしかないけれど、「道先に明日がどれくらい待つだろうか」(=あとどれくらい生きていられるだろうか)と、残りの人生について思いを馳せています。人生の半分を歩み終えた大人なら誰しもが胸をよぎる気持ちだと思います。何とも寂しい感じがします。

一方で、「fadeless」(=色褪せない)のは「切ない日々、喜びの日と恋の記憶」の中で、哀しみを覆すほどの愛を知ったこと。それは、見慣れたはずの街並みが愛らしく見えるほど。サビでは、そんな愛を与えてくれた「貴方と出会えて良かった それで十分」だと言っています。このフレーズ、胸に響きます。

茫漠とした人生の寂しさに包まれ、残された人生があとどれくらいあるかわからない不安を抱えている中で、この人生で一体自分に何ができたのだろうかと振り返った時に出てきた結論が、「貴方と出会えて良かった  それで十分」なんですね。切ないです。

「華やかな時」が寂しさを紛らわせてくれることもあるけれど、一時的なもの。たとえ人生に何も残せなかったとしても、貴方を愛したことが、私の生きた証だと言っています。私の生きた証はそれしかない、けれど、それさえあれば、前を向いて残りの人生を歩んでいける…そんな哀愁に満ちた心情を描いています。

以上7曲が、哀愁を感じるL’Arc-en-Cielの歌でした。前半は、恋愛シチュエーションでの哀愁爆発系の曲、後半は大人の哀愁が漂う曲でしたね。

哀愁系は、hydeとkenがタッグを組んだ曲が多く、この二人はL’Arc-en-Cielの数々の名曲を生み出してきた名コンビであることは間違いありません。一方で、個人的には、「Singin’ in the Rain」と「Sell my Soul」を作詞・作曲したhydeの凄さも感じています。作詞だけでなく作曲もできて、しかも、恋愛編でも、愛情編でも、哀愁編でも名曲を生み出している。これって凄いことだなと。

次回はL’Arc-en-Cielの「愛執」を描く曲をご紹介していきます。愛情への執着や、艶っぽさを感じさせる曲を7曲ピックアップする予定です。お楽しみに!

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