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【対談】バーチャル美少女受肉「前史」を語る:2018年へ至るオタク文化の変遷

元動画:https://www.youtube.com/watch?v=r-e-4ItnbiQ

本稿について

2022/10/15に思惟かねさんのチャンネルで開催したバ美肉の変遷に関する対談を書き起こしました。

  • Milaさんの発言は、シイヤパニックさんの翻訳をベースにし、Milaさんの確認・調整が入っています。

  • 泉信行さん、思惟かねさん、岸峰ミミムの発言に基づき、校正と調整を行っています。

  • 2.7万文字あり、読むのに約1時間です。

参加者
泉信行(漫画研究家・ライター)
Mila/Liudmila Bredikhina(バーチャル文化研究者) 
○企画:岸嶺ミミム(中国アニメ・ゲーム分析VTuber)
○通訳:シイヤパニック (カナダ在住工芸家)
○司会:思惟かね(知識系VTube)

バーチャル美少女受肉「前史」を語る

オモイカネ:はいどうもみなさんこんばんは。お集まり頂いてありがとうございます。本日はバーチャル受肉美少女前史を語るというところで、タイトルの通り、バーチャル美少女受肉、今はバ美肉として知られているこの文化についてお話ししていこう、ということで、有識者の方に集まっていただきました。

では今回のディスカッションをしていただく皆さんをご紹介しましょう。では最初にディスカッションのメインの一人、漫画研究家にしてライターでいらっしゃる泉信行先生よろしくお願いします。
 
泉信行:よろしくお願いします、泉です。  

泉信行

オモイカネ:はい、よろしくお願いします。泉先生は普段はどういうことをしていらっしゃるんですか?
 
泉信行:まぁVTuberの配信を見たり、ゲームしたりですけど。元々漫画研究ということで、ちょうど宣伝すると、今月末に『ユリイカ』から今井哲也さんという漫画家さんの特集号が出るんですけど、その今井哲也特集号で漫画論を書かせていただいて。本来は漫画の表現とかを研究していたんですけど、20代の頃から。で、VTuberに興味を持つようになって、元々ぼくはキャラクターの表現とか漫画の視覚的な表現を研究していたので、これはVTuberの研究にも結構応用できるんじゃないかなっていう意識もあって、いくつかVTuber論みたいなものを、ユリイカも含めて発表したりしています。まぁ興味があれば、検索してみて調べてほしいんですけど。あと、はてなブログでVTuber論のエントリをいくつか書いていたりしますね。
 
オモイカネ:ありがとうございます。泉先生は大変おもしろい考察をしていらっしゃる方で、今回文化史という観点で色々な意見をいただけるかなと期待しております。よろしくお願いします。
 
泉信行:お願いします。
 
オモイカネ:それではもう一方、今回の主役となるもうひと方をご紹介しましょう。バーチャル文化研究者、そして実際に大学で文化人類学の研究をしていらっしゃるMilaさんです。
 
Mila:こんばんは、私はミラです。よろしくね。
4年前から日本のバーチャル世界とかバ美肉につれて勉強をし始めました。そして今は、もっとバーチャルカワイイとか、男性のカワイイとかバ美肉について研究を続けたいと思います。まあ博士号を取る時にこの研究、もっと深く研究したいと思います。はい、ありがとう。よろしくね。 

Mila

オモイカネ:はい、ありがとうございます。Thank you Mila。そして今回、Milaさんが英語が母国語ということで、これに通訳をしていただく方をご参加いただいております。シイヤさん、簡単に一言お願いします。
 
シイヤパニック:はい、今日の通訳を務めます。シイヤパニックと言います。よろ しくお願いします。
 
オモイカネ:はい、ありがとうございます。そして、最後にミミムさん、お願いします。
 
ミミム:中国アニメゲーム分析VTuberやってます岸峰ミミムです。よろしくお願いします。
 
本日はどちらかというと裏方的な立ち回りで、あまり邪魔にならんように、ちょこちょこっとコメントしていく程度に収めたいと思います。よろしくお願いします。 

岸峰ミミム

オモイカネ:はい、ありがとうございます。

そして、最後に私、司会MCを務めさせていただきます、バーチャルを通して未来を見つめる、知識系VTuberのオモイカネです。この5名で今回はお送りしていきます。 

思惟かね(オモイカネ)

オモイカネ:というわけで先ほどもお伝えしました通り、今回はバーチャル美少女受肉前史を語るということで、バ美肉に繋がる日本文化の変遷を見ていくのが趣旨となります。

さらにMilaさんが参加いただいているということで、海外から見たこうした日本の文化にも触れていければ、と思っています。そうしたところを話す上で、使用する言葉の定義について1番最初に注釈をさせていただきます。

言葉の定義について

オモイカネ:今回はバイリンガルストリームということでMilaさんからは英語で発言をいただきますが、その中で、日本語と対照が難しいものについては、このようにしております。

萌え・オタク・美少女・カワイイ・女の子・女体化・カッコいい。
こうした概念が飛び出しますので、そのままほぼ日本語に置き換えて、概念の元々の意味を損なわない形でしていきたいと思います。

Mila:そうですね。どうしても英語でよく使われている表現に直してしまうと、ニュアンスが伝わりづらい、正確なところが伝わりづらいということで、あえて今回は日本語、日本の言葉を使用して、それに対して英語はこういうものを表現しているということで使っていきたいと思います。

 まずは「萌え」という言葉ですね。これはあのフィクションのキャラクターに対して惹かれる、魅力を感じるという感情を表すときにこの萌えという表現を使います。今回は、この配信に限って言いますと、このオタクという表現ですけれども、これをアニメや漫画、ゲームのファンに対して使用しますが、もちろんこのオタクという言葉自体は、それ以外のジャンルに対しても、そういったものを愛好する人たちに使われることは理解しております。例えばですけれども、電車の方ですとか。ただ今回の配信に関しては、アニメ、漫画、ゲームのファンに関して言うことはメインになります。

次が「美少女」という表現ですね。これはフィクションのキャラクターで可愛いかったり、美しかったり、キレイだったりする、というものについての説明としてこの用語を使います。1つ重要なポイントとして、あえてこの美少女ですとか、あるいは女の子とかいった表現を使う時に気を付けておきたいのが、今回はあくまでフィクションのキャラクターに限っての表現ということです。

実際の女性に対して云々ではなく、美少女とか、今回の配信で使った場合は、あくまでフィクションのキャラクターとしてのカワイイ少女、キレイな少女といった意味合いで使いますので、そこのところは気を付けてください。よろしくお願いします。

カワイイ」ですけれども、これも英語では、定訳というか、はっきりした100パーセントこの意味を伝えられる言葉がありませんので、あえてカワイイを使います。
ただ、一応学術的にはキュートであり、かつlovable、愛されるものである、といった表現が使われることが多いです。ですので、このカワイイという言葉を使った場合は、英語ではcute and lovable、キュートであり、愛されるものである、といった表現、意味合いであるということをお含み置きください。

女の子」ですけれども、これも先程申しましたように、実在の女性のことではなく、フィクションのキャラクターとしての女性を指す言葉として使います。英語圏の方には女の子の他に少女という言葉もよく使われますが、今回の配信においては、私達は女の子という言葉を使います。ですので、この言葉を使った場合は、女性の見た目をしている、フィクションのキャラクターという風にご理解ください。

女体化」。これは漫画やアニメの中で男性のキャラクター、この男性の主人公、男性のキャラクターが女性に変化するといった状況や状態を指して、女体化という風に説明しています。この言葉を女体化という言葉を使います。

カッコいい」。この言葉は、見た目が良いとか、クールであるとかスタイリッシュであるといったキャラクターに対して使われる言葉です。ですので、カワイイに対になるような意味の言葉としても使われますが、カッコいいといった場合には、見た目が良い、クールである、スタイリッシュである、といったときに使います。

そして最後、もう1つ重要な言葉がありまして「モテ」という言葉です。このモテという表現は、英語で言うとポピュラーであるとか、恋愛的な意味で魅力があるとか、チャーミングであるとか、そういった時に使います。ですのでモテという言葉、これを異性とか、あるいは性的対象、恋愛的対象に対して魅力があるとか、チャーミングであるといった時に使います。
 
オモイカネ:Thank you Milla and シイヤさん。日本語と英語を対訳するにあたって、日本語独特の概念というのも多そうですね。 

 日本の文化と『カワイイ』について

オモイカネ:では、最初のテーマはこちらですね。「日本の文化と『カワイイ』について」。
バーチャル美少女受肉、バ美肉を考えていくにあたって、日本の文化の中でカワイイという概念がどのような役割を果たしているか、これがバ美肉にどう繋がっているかということを考えるのは非常に重要なことかと思います。
泉さんから1度これについて、お話をいただきたいなと思います。
 
泉信行:まず海外の一般論として、日本語の「カワイイ」が英語で翻訳しにくいという問題があると思います。
それは、僕の理解だと「cute」って言った場合、動物やカワイイ小物であったり、あるいは小さな子供であったり、あまり恋愛対象にならないものに対して使われることが多いから、「カワイイ」がcuteで訳せない、他の言葉でもなかなか訳せないっていう風に理解してます。

逆に日本語のこれも一般論なんですけど、「カワイイ」って言った場合、動物なども指すし、そして魅力的な大人の女性に対しても使うことが普通に行われます。これはその、順番がどっちが先か分かりにくいんですよね。つまり、魅力的な大人の女性にも「かわいさ」を感じるからカワイイって言うのか、それとも「カワイイ」という概念・言葉自体に大人の女性の魅力が含まれているからなのか、が判断しにくい。

ここまでが一般論としてあって、この先は僕の私見なんですけど、子供と大人の可愛さがなぜ繋がってしまうかというと、動物や小さい子供に感じる「カワイイ」というのは、抱きしめたいとか、接触したいとか、飼いたいとか、一緒にいたいみたいな、かなりスキンシップとかを期待した愛情表現だったりすることが多い。で、日本語だと、その抱きしめたいとか、一緒にいたいみたいな感情が、大人の恋愛に対しても同じように使われているんじゃないかと思います。

それで比較として興味深いのが、「カワイイ」に対する「カッコいい」で、「カッコいい」という言葉は、あんまりこう対称的ではなくて、非対称なところが大きいんですね。なぜなら「カッコいい」という概念は、「強さ」と関連付けられやすいんですけど、「カワイイ」はそうではない。そして「カッコいい」を目指す人は、いわゆる「モテたい」って感情とセットになることも、まぁあるにはあるんですけど、別に「モテ」を必要としないのが強さに基づく「カッコいい」である、と。

つまり大人の「カッコいい」に対しては、一緒に戦いたいとか、そういう憧れのような人気であって、抱きしめたいとか、付き合いたいっていうのは付随するものでしかなく、その核心ではないんですね。逆に、大人の「カワイイ」に対しては、モテであったり、抱きしめたい付き合いたいというのが核心的で、モテを必要としないカワイイの方が付随的な概念になってくるんですね。

ここで一般論から、実際の日本のVTuberの話を例にすると、雪花ラミィさんっていうホロライブのVTuberさんがいます。

そのラミィさんが「理想の男性は?」みたいな質問に対して、「ジョジョの奇妙な冒険のキャラクターみたいな」って言ったりするんですけど、その場合って完全に強さに対する憧れであって、恋愛感情じゃないって言ってたりするんですよね。逆に女性同士の「カワイイ」の話になった時は、好き嫌いの感情がモテと結び付けられることが多くて、冗談も含んでるんでしょうけど、「彼女にして付き合うとしたら」みたいな基準でどのくらい好きかを示す話になりやすい。っていうのは、割と男性同士の「カッコいい」にはない価値観だと思います。

雪花ラミィ Ⓒ 2016 COVER Corp.

この日本人のカッコいい・カワイイ観っていうものがまずあって、そこでおそらく男性か女性かの非対称性っていうのが、かなりダイレクトに結び付いていると考えています。ここで一旦、Milaさんの感想も聞ければいいかもしれませんね。
 
Mila:はい、その1番最初のですけれども、「カワイイ」という言葉を使う時になぜ女の子に対して使うことが多いのか。なぜ、「カワイイ」という言葉、表現を使う時に女の子を表現することに使うことが多くて、あんまり男の子に使わないのか?男の人をカワイイと言った時とちょっと違いがあるというか。これについてちょっと説明があった方がいいか、と。
 
泉信行:そうですね。前提として言い忘れてましたけど、「カッコいい」が男性のジェンダーと強く結び付いていて、「カワイイ」が女性と子供、女性のジェンダー及び子供に結び付いてると。で、さらに言うと、大型肉食獣は「カッコいい」ですね。で、仔猫、仔犬、あと別に子供の虎でもライオンでもいいんですけど、幼い動物はカワイイに結び付いてると。この結び付きを説明したいと思います。
この2つはものすごく大雑把な分類で言うと、自分がそうなりたいという憧れか、抱きしめたい付き合いたい一緒にいたいという愛情か、の違いだと考えていいと思います。
で、これは生物学的性じゃなくて、ジェンダーのイメージと結び付いてるってことなので、男性がカワイイっていう場合は女性的なジェンダーイメージを持つし、女性がカッコいい場合は男性的なイメージが結び付くと。
 
Mila:ということは、例えばその男性がその「カワイイ」というキャラクターを、そういうアイデンティティを持とうとした場合に、そのステレオタイプではあるかもしれないけれども、例えば、声の高さであるとか、あるいは動きであるとかに女の子っぽさ、女性っぽさ、といったものを採用していく。逆に例えば、その女性が「カッコいい」になりたい場合は、より男性的な、例えば強さを表現したり、あるいはクールさを表現してたり。典型的な、あるいは偏見と言ってもいいぐらいのステレオタイプな男性性というものを採用していこうとしていく、という風な理解でよろしいでしょうか。
 
泉信行:そうですね。一般論としてはそうで、そこにオタクカルチャーの分析が入ってくると、ちょっとまた細かくなってくると思います。オタクカルチャーについては、また後で議論できれば。
 
Mila:ではちょっと質問を変えますが、例えば欧米のコミックですね、漫画とはまた違うジャンルですけれども、その女性主人公、例えばワンダーウーマンでもなんでもいいんですけれども、彼女たちは強くて、主体的であって、力がある、いわゆるカッコいいキャラクターであることが多いと思います。それに対して、日本の漫画で女性主人公あるいは女性キャラクターを考えた時に、カワイイと思われる、称されるキャラクターが多いように感じますけれどもこの違いはどこから来ていると思われますか。
 

オモイカネ:少しいいでしょうか。このセクションは「カワイイと日本の文化」についてで、これは後ほどお話するオタクカルチャーの歴史を整理するための認識合わせが目的です。
というわけで、ここでは「カワイイ」に対する社会的な、カルチャーの中での扱いを掘り下げるよりも、まずは「カワイイ」自体についての認識を確立するのを目的にしたいと思います。
というわけでまずMilaさんが、「先ほど泉さんが説明した日本のカワイイという言葉の持つ意味、これについてどう感じたか」と、「それが海外と比較してどうか」についてまず考えるというのはどうでしょう。
 
Mila:これは日本の社会での使われ方でしょうか。それとも欧米でどう受け取られるか、どういう風になるかっていう話でしょうか。
 
オモイカネ:そうですね、まずはその両方についてちょっと伺いたいと思っています。最初にMilaさんから見た海外の視点、価値観から見た時の、この泉さんの説明に対して感じたこと、あるいは反論、そういうものがあれば。
 
Mila:まず一般的な、ごくごくあの一般的な意見ですね、その大衆というか、考えるところ、思われるところ。それから私個人の意見に入っていきたいと思います。

第1にキュートという言葉ですね。これはカワイイではない、いわゆる英語で言うところのcuteの意味についてですけれども、これはまず泉さんもおっしゃったように、例えば動物であるとか、子供であるとか、赤ん坊であるとか、そういったものに使われることの多い言葉です。一般的には大人、成人に対して使われることはありません。

それからカワイイという言葉についてですね。例えば私の住んでいるスイスはここ数年の間に、カワイイものというものが、例えば輸入雑貨といったもので見かけるようになりました。こういったもののターゲット層というのは基本的に子供です。実際のお値段の方は子供には優しくなかったりするんだけども。

スイスの首都ベルンの旧市街と橋の風景

それでやっぱりどうしてもカワイイという言葉について、子供向けであるといった認識がまだまだ抜けていない、まだまだ一般的、支配的である、と考えていいと思います。例えば大人の女性ですね。大人の女性が、例えばロリィタファッションをしている。これはまあキュートではあります。

ただ、周りの人が「なぜいい年になってそんなことをするのか、大人なのに」、といったネガティブな反応を返すこともあって、カワイイといった場合にキュートと同一視されていて、子供のものであり、大人向けとか、大人に対して使うものではない、といった認識が一般的でまだまだあると私は思っています。

カワイイに対する抵抗と納得

Mila:私の個人の話になりますと、1番初めの頃、どうしても「カワイイ」という言葉に対してちょっとした、抵抗があった、どうしてもその気になりながらも認められないといったようなイメージがどうしてもありました。というのは、自分自身が「カワイイ」という言葉に含まれる子供っぽさを強く意識していたせいだと思います。

私が初めてその日本に行った時ですね。4年前ですけれども、その時になぜ周りの人が私に対して「カワイイ」という表現を、褒め言葉として使ってくるのかが理解できなかったですね。私はその時、その時点ではどうしても「自分はもう大人の女性であるはずなのに、なぜカワイイと言われるのか」が理解できませんでした。その後調査・研究をして、バ美肉を知ったり、そういうものに対する理解を深めていくにつれ、納得・理解できるようにはなりましたけれども。
そして研究を進めて調べていくうちに、「カワイイ」に対する理解が私の中で深まったと思います。つまりそれは、子供とか子供向けとか、そういったものに限定されるものではない。それよりも遥かに広い意味を持ったものであって、はるかに開放的なものであるということが分かりました。

私は、キュートの呪縛から解き放たれて、カワイイというものをもっと受け入れられるようになりました。それがすごくパワフルなものであるということも理解しています。そして結局、反動と言いますか、今私のアパートには、カワイイもの、フィギュアとか、ぬいぐるみとかそういったもので溢れていて、ゼロからいきなり100になったような、両極端な状況になっているんです。

この「カワイイ」に対する理解度がやっぱり焦点になってくると思うんです。今の時代でも、欧米的に「カワイイ」はまだまだ子供向けの、子供っぽい、子供と結び付けられて考え、理解されることが多いです。「カワイイ」という言葉をもっと知り、もっとその背後にあるものを理解していくにつれて、非常に深淵で複雑なものであるということがだんだん分かってきます。ですので、理解が重要になるとは思います。
これで質問の答えになっているでしょうか?私の理解というか私の印象ですね。「カワイイ」という言葉に対する。
 
オモイカネ:Milaさんが理解できなかったところ、その理解できなかった背景というところは伺えたのではないかと思います。泉さん、いかがですか。
 
泉信行:そうですね。興味深い話で面白かったです。
思ったのがカッコいいの本質が「強い」だとすると、カワイイの本質って「弱い」だと思うんですよね。これは日本人的な文化だともよく言われていて。「可愛い」と「可哀想」が語源的に同じだというのもよく指摘されていることですね。

僕のこう、勝手な分析なんですけど、ひょっとしたら、「カワイイの方がcuteと比べて意味が広い」というよりも、「実はこの2つは割と意味が同じなんじゃないか」って説も考えられると思っていて。

日本語の「カワイイ」が弱くて保護が必要であるとか、そういう子供っぽいニュアンスを持つという、その理解はたぶん間違っていなくて。ただ、日本人にとってはその「弱くて子供っぽいもの」に向ける「感情」の方が広いんじゃないか、って考えられるんですね。えっと、続きは考えながら話すので時間をください。 

オモイカネ:Milaさん1つ伺いたいです。日本人は赤ちゃんとか弱い動物、小動物に対して「カワイイ」と感じますよね。これは庇護欲とか弱いものに対する感情だと思います。では海外、英語圏ではこの赤ちゃんとか小動物に向ける感情をなんと言うんでしょう?
 
Mila:カワイイという言葉で表現される、力のないもの、弱いものに対する感情を英語でなんと表現するのかって、非常に難しい質問で、いい質問ですね。例えば、キュートの中にはそういったものがあまり含まれない。なんなら、キュートの中には、ずる賢いとまでは言わないけれども、それに近いあざとさが含まれる。これはもちろん言い方にもよります。例えば、キュートという言葉を「so cute~」っていう風に、こう柔らかく言った場合はもちろんそこは含まれないんですけれども。lovelyという表現があって、こちらの方が弱いものに対して使われることが多い。庇護欲を掻き立てるとか。
 
シイヤパニック:私自身もちょっと考えてたんですけれども、それに対する、自分の感情を表現する自分の感情を込める表現は、確かに英語には、あまりピッタリくる言葉が思いつかない。確かにカワイイはキュートというよりは、ラブリー。私の中ではフラジャイル(Fragile)もあっていいのかな、という気がしました。

ミミム:壊れやすい、でしたっけ?
 
シイヤパニック:そうですね、壊れやすい。よくあの荷物なんかでフラジャイルと書いた場合は、壊れもの危険ということですね。これを人とかモノに使った場合に、そういった気を付けないといけないものあります、っていうニュアンスもあるかと思います。

泉信行:フラジャイルな少年、とか。

シイヤパニック:ですね。そこですね。個人的な意見を挟みました。

泉信行:すごくシチュエーションを限定して聞いてみたいんですけど、仔猫がいて「もう可愛い、なでなでしたい」みたいな。ぐりぐりナデナデしたいみたいな、そういう感情を表すのって、多分さっきお聞きしたlovelyが近いかな、って思うんですけど。その仔猫ぐりぐりしたいみたいなのはどうですか?
 
Mila:lovelyもcuteも使いますね。
 
泉信行:「so cute~」なんですね。ただ、さっき言いかけた話に戻るんですけど、ロリィタファッションとかも、結局子供っぽいことが大人の魅力、性的魅力につながるように見える、と。で、「日本人がおかしいんじゃないか」って、言ってる僕も思うんですけど、割と違和感なくそれを受け入れてしまってるのが独特なんじゃないかな、と。仔猫に「うーんカワイイ」っていうのと、ロリィタファッションのカワイイっていうのは感情的にはすごく似ていて。

ただ、ここで女性の、ちょっと硬い話になっちゃうんですけど、女性の主体性みたいなのがオタクカルチャーであるとか、女性文化の中ですごく育まれてきたという歴史があるので、それは無視できないと思います。

今までは、一般論の話をこうステレオタイプ的に説明してきたんですけど、それに対するカウンターとして……。
 
ミミム:あ、泉師匠。それ話す前に。オモイカネさん、なんでここでカワイイの話をしてるんだっけ。

オモイカネ:そうですね、カワイイについて考えようとしていたのは、オタクカルチャーとバ美肉を考える上でのベース固めのためでした。ここで1度Milaさんが特に気になっている「美少女とカワイイ」っていうところについて話してみないみたいな、と思いますが、いかがでしょう。

泉信行:あの僕も、ちょっと段取りをさせてもらっていいですか。ここから先に進めたい、次のテーマの話をしたいと思います。えっと、最終目的はバ美肉ですよね。で、その前に女体化があると。で、僕がさっき言おうとした話は女体化の前段階の話です。それは何かって言うと、さらに前に言っていた男性的ジェンダーと女性的ジェンダーのクロスオーバーとかカッティングなんですよね。
それが、さっき言った、女性の主体的な選択による……難しい言葉使ってるな。その、ロリィタファッションをはじめとした女性による「モテを目指してるわけじゃないんですよ」というカワイイの追求、がありました。

オタクやサブカルっぽいものじゃなくても、例えばギャルなんかもそうなんですよね。まあギャルの一部だけども。モテるのカワイイじゃなくて、単に好きだからやってます、っていうカワイイ。
だからよく、ロリィタから派生したゴスロリ、ゴシックロリィタは武装だ、アーム(arm)だ、っていう風に言われることが多かったんですね。
そういう女性が、そのモテを排除した、モテだけを目指さないカワイイを実践しつつ、でも最終的にサブカルチャー、オタクカルチャーはそれをカワイイに揺り戻してしまうという。こういう循環が常に行われています。最初はその弱い男性であるとか、オタクにとっては理解できないファッションをしてる人たち、っていう括りだったとしても、もう、オタクの好みの属性の1つになっちゃってるっていうのは、その循環の実践なわけですね。あぁ、でも、ギャルに詳しい人に怒られそうな話、そんな気もしてきたな。ギャルでもロリィタでもなく、例えば不思議ちゃんなんかもそういう文脈があります。エキセントリックな少女のブームとか。これも80年代、90年代からあって。
 
オモイカネ:そのところが次の話に繋がるんですかね、もしかして。

泉信行:そうですね。これがまぁ、クロスオーバーの1つの例。その逆に、カッコいいに行かない男が可愛くなるのもあるわけですよね。女の子が武装する代わりに。で、いつ女体化の話に移っていいのか迷ってるんですが。
 
オモイカネ:そうですね。1度ここまでの話を振り返って軽くまとめた上で、次のセクションに参りましょうか。
前半は「カワイイ」について、というお話でした。泉さんがおっしゃったのは、日本におけるカワイイ、そしてそれに対抗する「カッコいい」が、強さ、あるいは弱さと結び付いている、という側面がある、というところでしたよね。だからこそ、日本のカワイイというのは、英語のキュートとは少し違った意味が出てくる。またその弱いものに対する日本人の感情というのが、そもそも少し違うのじゃないか、と。またその感情が、オタク文化とも結び付いている。という理解でいいんですかね。

泉信行:そんな感じですね
 
オモイカネ:それでは、皆さんがこのセクションで考えたかった問題には、ある程度答えが出てきたのかな、と考えています。
では次のセクションに移って、女体化、TS・TSFというところについて少し話を深めていきたいと思います。

女体化、TS・TSFについて

泉信行:はい、では90年代の話に遡るんですけど、90年代には格闘ゲームっていうのがものすごく日本で流行っていたんですね。この流行り方の凄まじさっていうものが、当時ネットの資料とかも残りづらい時代だったので伝わりにくかった面もあるんですけど、その90年代のオタクとしてちょっと代弁したいと思います。

単にゲームとして人気、流行していたっていうだけではなくて、そのデザイン面ですね。キャラクターデザインの最先端を突っ走っていたのが、当時格闘ゲームでした。今でいうソーシャルゲームみたいなものですね。
で、ジェンダー的に考えると、格闘ゲームって元々は男の世界で、ほとんどが男性キャラクターだったんですね。で、少しずつ女性キャラクターが増えていった。

その代表例がカプコンの『ストリートファイターII』の、春麗っていうキャラ、ヒロインだったりするんですけど。そこから、肉体的には弱いはずの女性が「強くてカッコいい」、「そしてカワイイ」っていう価値観が生まれて、育まれてきました。

春麗 ©CAPCOM

ただそれでも、ある程度リアリズムみたいなものは重視されていて、フィジカルがやっぱり弱そうに見える女性キャラクターっていうのはまだ少数派、という時代が続いていました。ただし男性プレイヤーが多くて女性キャラクターには需要があったのと、そもそも女性プレイヤーの人気というのも見込めるので、女性キャラクターは求められていました。

そこで、さっきのリアリズムが邪魔をして、女性キャラクター増やしたいんだけど、強くてカッコいい、そしてカワイイ女性キャラクターのバリエーションっていうものがまだ乏しかったんですね。引き出しがなかった。ストックがなかった。で、そこに風穴を開けたのが女体化なんですね。
同じカプコンの、日本では『ヴァンパイア』というタイトルで、海外では『Darkstalkers』ってタイトルなんですけど、そのDarkstalkersに吸血鬼のキャラクターがいます。

ヴァンパイア The Night Warriors ©CAPCOM CO., LTD

デミトリという男性バンパイアのキャラクターがいて。で、こいつは女好きなので、血を吸いたいんだけども、対戦相手のキャラクターが男性の場合は血を吸いたくないわけですよ。そこでどうするかというと、「ミッドナイトブリス」っていう必殺技、技があって、対戦相手が男だった場合、強制的に女体化させて血を吸うっていう吸血技、吸血鬼らしい技があるんですね。
ここで資料を提供させていただきたいんですけど、これがその実例ですね。

オモイカネ:こちらタカラトミーのホームページからですね。

SRカプコン リアルフィギュアコレクション ファイティングジャム編Ver.1.5 ©2022 T-ARTS
SRカプコン リアルフィギュアコレクション ファイティングジャム編Ver.2 ©2022 T-ARTS

泉信行:これがフィギュア化されるくらい人気があって、最初は『ヴァンパイア』の中の話だったんですけど、新作で作品がクロスオーバーした時に、別のシリーズのキャラクターもどんどんミッドナイトブリスで女体化されていったんですね。これは『カプコンファイティングジャム』っていう別のゲームで。
 
オモイカネ:これも全て女体化されたキャラクターということですか?
 
泉信行:はい。で、これが何を意味してるかというと、「男の子でも可愛くなりたい」という動機による女体化じゃなくて、強くてカッコよくてカワイイ女の子のストックが足りなかった時代に、「これなら簡単に強くてカワイイ女の子が作れるぞ」っていうアイデアだったんですよ。
カッコよくてカワイイ美少女キャラクターが、単なるカワイイ美少女キャラクターよりも、どういうメリットがあるかというと、感情移入しやすい。つまり強さへの憧れとセットにすることによって、男でも親しみやすいキャラクターになる。

ちょっとここで問題を区切りたいんですけど、我々は最終的に、バ美肉的な女体化とか、現代の女体化コンテンツ、TS・TSFとかに行こうとしています。
 
オモイカネ:はいそうですね。バ美肉にどうこれが繋がっていくのかというところは、ちょっと考えたいんですが。
 
泉信行:着地点がそこだとすると、僕の、90年オタクの僕からすると、出発点っていうのがここになるんですね。 

オモイカネ:普通のカッコよさと結び付いた男性性、それが当たり前だった男性が、女性的な可愛さにシフトしていった結果がバ美肉であって、その中間地点として、その両者が重なるところがこれである。

オモイカネ:そういう男性に対してカワイイという概念が入り始めたのがここであって、そこが今のバ美肉に繋がる、グラデーションが起こったのかっていうことでしょうか。
 
泉信行:ああ、多分そこはちょっと認識の違いがあって、男性の中にもカワイイの認識っていうのは、70年代とかもっと前からあると思うんですけど。それがもうちょっとアグレッシブになった形って言ってもいいんですかね。

ブレイクスルーの出発点であって、男性がカワイイを好むっていうのは、その前からあったと思うんですよ。70年代のロリコンブームとかアイドルブームとかいうのはかなり前からあって、それは可愛いがるものだったのが、自分のものにしたい、自分と重ねたい、っていう強いブレイクスルーが起きたのは、格闘ゲームあたりからなんじゃないか、っていう仮説ですね。

あと格闘ゲームはプレイアブルキャラクターって言って、自分で操作するっていうのも、ロリコンブームとかとの違いだと思う。その育てたいとか、飼いたいとかじゃなくて、付き合いたいでもなく、自分で使うっていう要素が入ったのは多分大きいですね。 

Mila:ということは『ヴァンパイア』からスタートしたと言って差し支えないわけでしょうか。
 
泉信行:そう、提唱していきましょう。それがカプコン続きで言うと、モンスターハンターの男性プレイヤーがなんで女性使うのかっていうのとも多分、ダイレクトに繋がってますね。
 
ミミム:ああ、MMORPGでも同じことが起こってる。
 
泉信行:ちなみにコメント欄の方で、『らんま1/2』のタイトルが出てきてましたけど、らんまも格闘ゲーム化してますからね。女の子が格闘してて強いっていう親和性がある。

らんま1/2 ©高橋留美子/小学館

オモイカネ:自分が使うキャラクター、自分の分身としてのキャラクターにカワイイが入り始めたのがここではないか、ですかね。
 
泉信行:いいと思います
 
オモイカネ:このテーマについてMilaさんがしたかった質問の「バ美肉に繋がったと思われる漫画、アニメ、ゲーム」の例が、まさに今の話ですね。

女体化はいつから?

 Mila:女体化というものが増えているのかと増えていると感じられるのかという質問と、あとそれがもし増えているのであれば、その理由を聞きたいですね。

ミミム:これっていつの話なんだろうね。

Mila:過去10年くらいを想定して増えているかという。
 
泉信行:多分、これは一般論で答えていいと思うんですけど、日本のオタクはジャンルを大切にするので、ジャンルを大切にした結果、生き残ってるっていう理解でいいと思います。需要があるというよりも。
 
ミミム:女体化というジャンルを大切にした結果、生き残った?
 
泉信行:あらゆるジャンルがそうだと思うんですよね。女体化だから特別ってわけじゃなくて、どのジャンルも定着しているオタクのファンがいれば文化として残っていくもので、女体化に限った話ではない。
 
Mila:女体化というものをジャンルとして定義するのであれば、いわゆる一過性の、例えばゲームで男性、キャラクターじゃない男性が女性キャラクターをプレイするという、そういう行動であるというだけでなくて、それがジャンルとして認知されたっていうのはいつ頃の話なんでしょうか。
 
泉信行:そこらへんは多分細かい歴史の話になってくるので、あんまり僕を信頼しない方がいいと思うんですけど、多分、これは宿題、ここら辺の検証はかなり宿題的になってると思うんですけど。

ただ、ルートとしてBLファンの女性がカップリングを作り出すために女体化を行うっていう文化と、それこそ「ミッドナイトブリス」スタートの、男性ゲーマーの同人誌やファンフィクション、この2つのルートがあって。どっかで合流するんですけどね。で、その話って、最終的にオモイカネさんがこの企画をした発端である、キョン子の話にも繋がってくると思うんですけど。
 
オモイカネ:はい。では話をまとめましょう。
この章でお話をしたのは、主に90年代における女体化というトレンドにバ美肉の最初のポイント、ブレイクスルーになったところがあったのではないかという仮説だったと思います。

もともと、男性、カッコいい、強いというキャラクターに、様々な理由からカワイイ、女性化というものが流れ込んできて、それがさらにプレイアブルキャラクターであるというところから、男性の側にも自分の中に入るものとして認知され始めたのではないか、こういうことかと思います。

そうした男性の中に入ってきたカワイイというものがどんどん膨らんでバ美肉に繋がったのではないかと、いう風なのが今の段階で提唱されている仮説かと思います。

これを受けて2010年代、特にこの直近の2010年からの10年弱の期間、ここに着目しながら、そうしたトレンドが本当にあったのか。あったとしたら何がそれを強化したのか、そんなところについて触れてみよう、と思います。
 
イントロダクションになるんですが、そもそもこの対談のきっかけになったのは、先ほど泉さんのお名前を出された、「キョン子と、美少女になりたいオタク男子たち」というエッセイですね。

元々キョン子というのはですね、涼宮ハルヒの憂鬱という作品の中の主人公のキョンが女性化した姿で、これが一時期ブームになったことがありまして。

主人公というのは、昔から基本的に読み手が自分を投影するものだと思いますが、その男性主人公が女体化するという動きに、先ほどおっしゃった、ダークストーカーのそういう兆候と重なるものを感じたと。で、これがもしかしたらバ美肉に繋がっているのではないかというところから、この対談が始まりました。
 
こういうような変化が2010年頃には起こっていたんじゃないか。ではこの前後でどのようなイベントがあったかとか、それがこうにバ美肉に繋がる何か兆候がなかったかな、みたいなところを少し2010年代の話を整理しながら考えてみたいと思います。

オモイカネ:何か御二方ありますか?
  
ミミム:話題になったのはネカマなんじゃないかな。インターネット上のオカマは、男性が女性のキャラクターを使って自分が女性のように振る舞う。ラグナロクオンラインのようなオンラインゲームでよく見られて、結構話題になってて。今では結構多いじゃないですか。でもその時代だと、Twitterとかニコニコとかにさらされるみたいな、いわゆる特異的な存在として見られてたんで、いわゆる発生したばっかりのものなんじゃないかなと思うんですよね。
 
オモイカネ:ただ、MMORPGでのネカマというのはかなり、それこそもう2000年頃からあったものだと思うんですよね。
 
ミミム:なるほどうん、それがなんか顕在化したような感じはするような気がします。なんか、その10年代。
 
オモイカネ:私もちょっと調べてみたんですが、ポケモンで主人公の性別が選べるようになったのって、2000年に発売されたポケットモンスタークリスタルからなんですね。

ミミム:へえなるほど。
 
オモイカネ:なので女性主人公を使いたいという人は一定数いたのかもしれません。女の子のプレイヤーに合わせたことなのかはわからないんですが、私が調べた記事だと2008年頃の調査で、すでにMMOで男性ユーザーが6:4で、男性アバターを使っていた。4割は女性アバターを使っていた、っていう調査結果がありましたね。

ミミム:実際ラグナロクオンライン。2002年からですからね。

泉信行:なかなか10年代に行かなくて、10年代から戻ってばっかりで申し訳ないんですけど、ポケモンより前にドラゴンクエストのインパクトが多分でかくて。
 
ミミム:確かに女性勇者選べるのは、4でしたっけ。
 
泉信行:4で女勇者が選べるっていうのはもちろんですけど、それ以前にドラクエ3がもう、そもそもパッケージの時点で、女戦士、男戦士、女魔法使い、男魔法使いと。だから「性能的には一緒なんだけど性別を変えられるよ」っていうのを視覚的に表現したのがドラクエ3で。

女の子が好きな男の子は当然、女の子パーティー作るんですよ。そこで「性能同じだったら女の子の方がいいじゃん」っていうのがドラクエ世代、ドラクエ3世代には、多分強烈な原体験としてあるはず。でも、ラグナの場合はパーティー組まないから。ドラクエ3だったらまあ、ハーレム状態にしてもいいわけですよ。主人公は男で、残り3人みんな女の子とか。それがMMOになってくると、プレイヤーキャラクターって1人なので。「じゃあ自分が女になるしかないよね」っていう。選択肢が、それしかないんですよね。

もしMMORPGが4人パーティーを1人で組む前提のストラテジー的なゲームだったら、全然事情変わってた可能性ありますね、ネカマ事情は。それはどうですかミミムさん的に。
 
ミミム:女性キャラクターに自身を投影するっていう行為は、結構前からあるんじゃないかなと思ってて、10年代特別爆発的に増えたっていうのは、僕の感覚的にはあんまり思いつかないんですよ。
 
オモイカネ:おっしゃる通りだと思います。話を10年代に戻すと、あまり正確な資料はないんですが、ゲームサイトの調査を見ると2018年のアンケートで、男性が女性アバターを使う割合が4割ぐらいという結果があったんですよ。これって、その2008年頃の結果とそんなに変わってなくて、大局的な傾向は多分、そんなに変わってないんじゃないかな、と。2010年頃までに男性が女性キャラクターをアバターとして選ぶのはそんなに珍しくなくなっていたけれども、これが直接バ美肉とかに繋がっているかというと、そうではないかな、と思います。 

技術的ブレイクスルーとの関係

ミミム:泉師匠的にはなんかポイントあるんですか。
 
泉信行:うん、でもカネさんのおっしゃる通りだと思っていて、潜在的になれるものなら女の子、カワイイ女の子になりたいっていう願望はずっとあって、あとは技術的なブレークスルーでしかなかったんじゃないかなっていうのは感じますね。なんか、徐々にその欲望が高まっていったとかではなく、元々そうだったっていうイメージですよね。ミミムさんもそんな感じの認識じゃないですか? なれるものならなりたいっていう。

オモイカネ:技術的な難易度というか、技術的なブレイクスルー。
 
泉信行:そうなんですよね。だから、顔はいかんともしがたいとかあると、着ぐるみとかする派閥が、流派がありますね。美少女着ぐるみです。たぶんMilaさん、その件知ってるんじゃないかなと思うんですけど。
 
Mila:ウン

オモイカネ:そうですね。論文で触れられていましたね。

泉信行:だから観点として、結局テクノロジーの問題なんじゃないかなっていうのは変わらない気がしますね。つまり、着ぐるみもテクノロジーであると。そもそも着ぐるみ文化の前に、フィギアの高精度化っていうのもありますね。90年代にやっぱり、無理やり格ゲーに繋げるけど、格ゲーのブームとフィギュアの発達には親和性があって。

まずポーズがカッコいいとか、そういう要素もあって格ゲーキャラクターのフィギュアっていうのはすごい好まれてたんですよ。立体映えするってことです。そこから進化していった美少女フィギュアが、二次元の女の子をちゃんと立体的に可愛くするっていう技術も発達させていって。その先に被り物としての美少女顔があると。

それ以前には、やっぱりお面みたいになっちゃって怖いので、怖くない立体の美少女っていうのを実現するには絶対フィギュアは通過してるはず。
 
オモイカネ:なるほど、造形の技術の進化が、そういう着ぐるみを現実化したということですか。そういう風に考えるとそのアバターを纏うことが簡単になったことが、そもそも決定的な要因かもしれないっていうことですかね。

泉信行:あとだから、ポリゴンに美少女落とし込むっていうのも、これもまた技術なので、立体化した時に気持ち悪くなっちゃうっていう時代があったのと同じように、そもそも二次元キャラクターを3DCGにするなんて無理だよって、時代がありましたからね。
その、Live2Dのマグロナちゃんみたいなタイプは別として、やっぱ美少女アバターを作ること自体が難しかったので、そこはやっぱりクリエイターさんたちの努力次第。

オモイカネ:FF10とかが2001年ですが、あの頃ってなんか、こうハイパーリアリスティックな感じのデザインで、美少女っていうとちょっと違うかなっていう感じでしたね。
 
泉信行:Team NINJA的な。
 
オモイカネ:そうそう、やっぱりグラフィック面での技術の進化のおかげで、三次元だけど、美少女ライクな見た目になってきたっていうのはあるかもしれませんね。
 
泉信行:技術が全てを解決する。

オモイカネ:あとそれで私がこれかなと思ってたのは、ユーザージェネレイテッドコンテンツ(UGC)の隆盛かなと。あとSNS。2010年代に1番変わったのってここだと私は思ってて。ニコニコに、twitterに、あとpixiv。この辺のユーザーが作って発信するっていうのがすごく増えたのが1番の変化かなと思っていて。これって特に、オタクがただ見る側から見せる側にもなってきたんじゃないかなって。これの影響を考えてたんですよね。

ミミム:なるほどね。いわゆるそのバ美肉っていうのは消費じゃなくて、どちらかというといわゆるパフォーマーとしての表現者の方に寄ってるってこと。

オモイカネ:そうそう、UGCとかSNSって結局、生産者と消費者の非対象的な関係じゃなくて、双方向の関係なので、自分も見られるっていうことを自然と内面化しているから、美少女になろうとするモチベーションが高まったんじゃないかなって。
 
オモイカネ:2010年代、他に何かキーになりそうな話ってありますか。
  
泉信行:技術っていうかなりフィジカルな、その、ハード的な、いや技術もソフトなんだけど、そういうファクトに近い進化とは別に、オタク思想史みたいなものもあって。そのオタク思想史的なものって、多分Milaさんもすごく関心のあるところだと思うんですけど、そこで1つ言えるとしたら、アイドルアニメのブームが始まるのが10年代なんですよ。

例えば『アイカツ!』って2012年からなんですよね。なんでアイドルアニメの話をするかって言うと、これ色々繋がってくるところで、アイドルって戦ってるんですよね。カワイイんだけど、戦ってるんですよ。

アイカツ! ©サンライズ/バンダイナムコピクチャーズ

で、一般論としてか弱くて可憐なものをカワイイとしていたのが、まあ80年代から「メカと美少女」とか言って、戦ってる女の子の流れというのはあったんですけど、この頃のオタク感として、別に武器や兵器を持たせなくても「カワイイだけで強い」みたいな価値観が出てくるんですよね。アイドルアニメになってくると。カワイイだけで強いんですよ。

カワイイってことは武器なんだっていう。実際アイドルってそうで、可愛くて魅力、人間的魅力があることで、アイドル界を生き抜いていく。まあ要するに、働く女性はカッコいいみたいなのと同じように、アイドルをやってる女の子は可愛くて強い、と。

で、まあ実際アイカツって、作品中でロボットアニメパロディとか、あと斧振り回したりとか崖登ったりとか、結構フィジカルに挑戦するので、フィジカル的な強さも強調されてはいるんですが、根っこにあるのは「カワイイってことは、強くてカッコいい」なんですよ。
 
ミミム:ここで1番最初に話してたカワイイから、少し変化が見られた。
 
泉信行:かもしれないですね。最初はロリコンブーム的なカワイイものを愛でる感覚だったのが、プレイアブルキャラクターとしての性能の高い、強いキャラクター、強い美少女っていうものが発展して。で、次第にその強さ、物理的なフィジカルの強さをどんどん抜いていっても、カワイイだけで強いんだってなってきたのがアイドルアニメブームっていう。 

オモイカネ:では一旦まとめて、Milaさんを含めたディスカッションに戻りたいと思います。
 
オモイカネ:まず男性が女性のアバターを使うというもの自体は、特に2010年代に起こった変化ではなくて、それまでにあったトレンドであったということ。

次に指摘されたのは、やはり技術の進化というのが、1つのキーポイントだったのでは、というところ。ここでいう技術というのは、1つは着ぐるみのような物理的な造形技術。これはフィギュアに由来するものですね。そしてもう1つは、3次元空間の3Dキャラクターでもカワイイと思えるキャラクターを作れるようになった、アーティスティックな技術の進歩。
  
オモイカネ:そして最後に、これはあんまり泉さんが話をしてないと思うんですけれども、VRとかのあの辺りの技術の進化も入ってきますよね。操演技術かな。その3つが2010年代の技術の変化として起こったと思います。

そしてもう1つ出てきたのが、UGCやSNSによるオタクの双方向化。オタクが、見るだけ・消費者ではなく発信者・見られる側という側面も持ち始めた。これが2010年代の変化の1つだと思います。

そして最後に、カワイイとカッコいいが少し重なり始めたというところがあると思います。その代表例として、スクールアイドルアニメがある。カワイイけれども、力強さというタフさがある、と言ってもいいんですかね泉さん。
 
泉信行:あの、表現としては、僕が言ったのは、「カワイイだけで強い」。カワイイこと自体が強いって表現するといいと思う。

オモイカネ:これについてMilaさんはどう感じられましたか?
 
Mila:技術的な進化で、大きく進化したと言えると思います。そして、それがバ美肉の誕生につながったということも、言えると思います。同時に女の子になってプレイをする、女性として何かを演じる、じゃあ、女性のガワをかぶって演じるということに関しても、何もゲームに限った話ではなくて、日本に限った話でもなくて、色々なところで見られる現象、色々な国でも見られる現象ではあるし、先ほどのバンパイアのゲーム以前の時代から確かに存在していたことではあると思います。ただ、それが顕在化したという話ですね。そこは理解しました。

カワイイという言葉の変化ですね。この進化についても非常に興味深かったです。

例えば70年代にロリコン的な意味で使われていたり、少女文化では良く使われている単語だったり、庇護欲を掻き立てるとか守らなければいけないといった弱いもの、という意味合いから2010年代のアイドルコンテンツですね。AKBとかと男性ファンとの関係であるとか。カッコいいであるとか。で、オタクカルチャーがそのカワイイの意味を押し広げていった、あるいは複雑化させたといったことも分かります。

そして、これがさらに変化・進化をして、今回バ美肉というものが語られるわけですけれども、このバ美肉の誕生とその進化によって、これでまた新しくカワイイという言葉に新しい意味が生まれたり、付加されたりことが起きるのかな、という風に想像しています。

カワイイというものがアバターの形として、これが今度は道具として使われる、手段として使われると思っています。

今までのような、美少女の、あるいはカワイイキャラクターになって何かを演じるとか、ゲームをプレーするとかいうことだけではなくて、受肉する、自分がそれになって他のユーザーと共有するとか、何かを表に出す、例えば意見を表明するとか、メッセージを伝えるといった時に、カワイイキャラクターを使ってそれをすることによる効果というものが計算されたり、もしかしたらカワイイキャラクターではない状態で発言する、発信するのとは違う形になるのか、違うものが伝えられるのかな、と。そういった道具としてもカワイイというものもあるのかな、という風に思います。

泉信行:事前に読ませていただいた、Milaさんに紹介していただいていた論文の中でも、ゆるキャラの利用の話とかがあって。多分そこを連想されているのかなと。そのゆるキャラとか、銀行のATMでキャラクターとかが挨拶、お辞儀したりするじゃないですか。そういうのを紹介してまとめた論文があって、多分それを連想されてるんじゃないかな、と思うんですけど。

Mila:これは個人的な体験の話になってしまうんですけれども、私は日本で上智大学に留学していた時期がありまして、行っていた時期がちょうど選挙の期間だったんですね。で、その時にたくさんのポスターが貼られていて、そのポスターの中でカワイイキャラクターが自分たちの政党の説明をしていたり、自分たちの事を説明する役割を担っていた。

なので、カワイイキャラクターが政治の場面にも登場するというのが、自分にとっては非常に驚きだったんですね。っていうのは、ヨーロッパの場合は選挙ポスターなんていうものはもうお堅くて真面目でつまらない、というのが相場ですから。
 
泉信行:カワイイマスコットキャラって結構海外進出して、台湾とか中国、まさにミミムさんわかると思いますけど、カワイイ進出かなりありますよね。

ミミム:ありますね。

キャラによる自己表現の可能性を開いた?

オモイカネ:ここでMilaさんから事前にいただいていた質問を見ながらもう少し話を深めて今日の結論に収斂させたいと思います。
Milaさんの質問ですが、ニコニコ動画、初音ミクがキャラクターによる自己表現の可能性を開いたのではないか?
これは先ほど触れたUGCなどによる総合効果、オタク側の発信などと絡まる話ですかね?
 
泉信行:そうですね。
 
オモイカネ:次はこの10年での萌えの変化。これはちょっとニュアンスが変わりますが、萌えをカワイイという概念という風に読み換えると、先ほどのカワイイとカッコいい、というところが少しこう連携してきた。そういうところにも繋がってくるのかな、と思います。
  
オモイカネ:そして最後に、ここはちょっと今回取り上げられなかった日本におけるコンテンツに対する世間の視線の変化、これは背景になる社会情勢ですね。
 
泉信行:市民権とか。
 
オモイカネ:ここについてちょっと触れてみたいと思います。

Mila:ニコニコ動画と初音ミクがキャラクターによる自己表現の可能性を開いたという質問に関してですね。ニコニコ動画で初音ミクを使ったプロデューサーと呼ばれる人たちがたくさんの曲を書いて発表していったと。そこで自分が見た範囲では、その歌詞がとても個人的な内容だったり、個人的な感情とか情感とかいったものを歌っている。

初音ミクという、いわゆるカワイイキャラクターが発信者であるプロデューサーの依り代となって自分が言いたいことを言っている。この影響というものが、かなり影響があったのではないか。カワイイキャラクターを使って自分の内面を表現する、伝える、そしてそれが多くの人に聞かれる。初音ミクを通すことによって受け入れられるという、そういったことがあるのではないかと思いますが、如何でしょう?

初音ミク ©クリプトン・フューチャー・メディア株式会社

私の思考のプロセスとしては、ここに強い関連があるのではないかと思っているんですね。というのは、男性が歌詞を書いて、自分の内面を表現する歌詞を書いて、それを初音ミクに歌わせることによって、より多くの人に届けると。初音ミクという形を借りることによって男性が自分を表現することで、またそれが聞かれる、それが発言できるようになるといった、そういったリンクがあるのではないか、という考えがありまして。
 
オモイカネ:コメント欄でも同じようなことをおっしゃってらっしゃる方がいらっしゃいますね。「オタクの発信する内容にキャラクター性が付与されてきた、あるいは曲に限らず発信するという行為、何かキャラクターを借りて発信するという行為自体に、かなりインパクトを与えたのではないか」というコメントです。
 
泉信行:その、女性を借りて男が女心を表現したりっていうのは、日本の文化ではトラディショナルだと思っていて。初音ミクが何か転換点だったかっていう感覚を、今すぐ言語化できないんですよね。

例えば、女性アイドルの曲のプロデュースを男性がやって、ものすごく乙女チックな表現をする男性作家っていうのはやっぱりいて。で、多分それの最新型がHoneyWorksだと思うんですよね。HoneyWorksも「なんでこんなに女の子の気持ち分かるんですか?」って、ファンの女の子がクリエイターに質問するぐらいすごく分かると。それってなんでなんだろうっていうのは、ファンも思うぐらいなんですけど。

ただ、乙女心の分かるプロのアーティスト、プロのクリエーターを大衆化したのは、ボーカロイドっていうのは間違いないかな。

結局、初音ミクっていう美少女を通して、その歌われてる内容っていうのが、かなりクリエイター自身の声であるっていう風に分析しているMilaさんの視点は、これは慧眼だと思います。実際そうだと思います。あの、美少女を借りてるんだけども、かなり現代の若者のことを歌ってたりとか。自分のことなんですよ。それはほんとにおっしゃる通りだと思います。ここは深いテーマですね。

オモイカネ:ちょっと時間も限られていますので、1度ここで3つ目の質問、日本におけるオタクの市民権に関するところ。
 
泉信行:萌えの変化を飛ばす感じですか?
 
オモイカネ:萌えの変化に関しては、この10年でのカワイイの概念の変化というところに先ほど触れて、Milaさんの疑問の答えとなったと思いましたけども。
 
泉信行:実は結構補足したいところがまだあるけど、ミミムさん的には話長いよってなるかもしれないし、難しい。
 
オモイカネ:じゃあ3分だけ。
 
泉信行:3分だけ。

あ、じゃあ1つ思ったのが「美少女になって何をするか」ってのが問題としてあって。昔は、格闘したりとか冒険したりだったんですよね。格ゲーだったら格闘だし、MMOだったら冒険だし。で、そこでバ美肉って何が違うかっていうと、ネット活動、配信活動で自己表現ができると。そこで間に、10年代のアイドルアニメブームっていうのが作用をしてるんじゃないか、という説を思いつきました。
 
Mila:日常とか毎日の生活とかそういったことになるんでしょうか。

泉信行:そう考えると、アイドルアニメブームって、すごい重要っぽくて。その、要は「ネット活動者のロールモデルになっている」というのもあるし、あと、「萌え」から「推し」という文化を広めたのもやっぱりアイドルが発端なので。演者側にとってみれば、ネット活動というもののロールモデルがアイドルアニメのアイドルにあるし、それを支えるオタクにしても、彼女たちを支えるというロールモデルもやっぱ現実のアイドルオタクにある、と。かなりアイドルアニメブームって説明つくんじゃないかな、というのを今、提唱しますけど。
 
ミミム:いわゆるバ美肉っていうものの成り立ちに対してね。
 
Mila:そういったものが非常にやっぱり重要であったということが言えるのかなと。
 
ミミム:なるほどコンテンツ消費の方法が同じだから、スライドしやすいってこと。
 
オモイカネ:2つ目のクエスチョンに関してもかなり深い示唆が、今の補足で得られましたね。
 
泉信行:はい、絶対3分超えましたけど以上です。

オモイカネ:大丈夫です。泉先生の喋ってた分までは3分に収まっています。

泉信行:すご。タイムキープ完璧。
 
オモイカネ:では最後に「日本におけるオタクの市民権」という話に少し触れて、まとめに入っていきましょう。

日本におけるオタクの市民権

泉信行:どうですか?

ミミム:えっと、電車男から何年経ったんだろう。

オモイカネ:電車男は2003年とかですね。

ミミム:もうね、そんな前だよね。2010年っていう段階だと、おそらくもういわゆるオタクコンテンツがかなり一般化した状態であるんじゃないかなと思うんですけど。

オモイカネ:それは思いますねえ。
 
ミミム:市民権はすでに得られている状態。パチンコとかに、日本オタクコンテンツがもうかなり定着した、っていう話じゃないかな。
 
泉信行:じゃあ、逆に聞いた方がいいかもしれないですけど、日本のパチスロブームがものすごく重要であるっていうのは、海外の人たちは、海外オタクって認識してるんですかね?

パチンコ・スロット ©フリー素材ドットコム

Mila:私自身、あんまりそこのコネクションを考えたことがなくて、自分がそのパチンコというものを考えた時に、例えばそのパチンコで使われるような音楽であるとか、その大きな音であるとか、テクノミュージックであるとか、そういったものを想像することはあっても、そのキャラクターがどうこうはあんまり意識したことがなかったです。

なので、欧米諸国でパチンコというものに対する理解とか認識というものが、そもそもあまりないということを考えると、どの程度それがオタクカルチャーを一般に浸透させているかに対する理解はあまりないのではないかと想像します。

泉信行:日本のIP活用において、パチンコ・パチスロっていうのはすごい重要な役割を果たしていて、まあ普通のおっさんとかが、ほんとに何も知らずに遊んでたりするので、だいぶ浸透していますね。で、そのオタク市場にとっては、金銭的な経済的な見返りも非常に大きいので、もうかなり無視できない存在になってる。

プラスして普通に商店街とかにアニメキャラクターの幟とかが、もう普通に陳列されてたりする景色っていうのを作り出してるのもパチスロだったりするんですよね。というのはまあ、1つ豆知識として。

ミミム:これ俺、補足しても大丈夫そう?

ミミム:前ちょっと知り合いの土木をやっている人たちの話を聞いた時に、その人たちがエンタメとして色んなものを見るんだけど、その中でアニメっていうのは選択肢に入ってて、それがパチンコっていうルートだと。

若いコンストラクションワーカーが、周りの人間を巻き込んでアニメを見る、1つの切り口というか、情報を知る1つのルートになっている、という面白い話を聞きました。だから中年だけじゃなくて、若い、そういうブルーカラーの人たちにもかなり影響を与えてるってことをなんですよねっていう話。
 
Mila:どんな田舎にもパチンコとセブン-イレブンありますね。パチンコを打ってみたい。

泉信行:ほんとに海外の人に話すのに全然誇らしくない文化だと。

オモイカネ:少なくともそういうところで、美少女キャラクターがこう見慣れないものから、まあ割と馴染みのあるものに変わっていく、一躍買っているというのはありそうですね。

泉信行:これはすごくピンポイントの話を1件しただけっていうことで。色んな事例を挙げていくとキリがないですけど、いかにピンポイントなMilaさんの興味のある話に繋げられるかなっていう。

ミミム:でも他にあるんですかね。Milaさんが知らなそうな、そういう話。
 
泉信行:絶対Twitter的な話になっちゃいそうで、怖い。

ミミム:Twitterは2007年ですもんね。

オモイカネ:それぐらいからね。それこそ10年代半ばから一気に広まりましたね。

オモイカネ:実際私も、バーチャルYoutuberに触れたのはTwitterからでしたから。そういう世間一般に対する露出という意味では非常に大きな役割をSNSが果たしていると私も思います。
 
泉信行:これはお恥ずかしい話なんですけど、Twitterを通してオタクと公共の問題っていうものがある。ここ数年ですごく盛り上がっているので、ほんとに恥ずかしい話なんですけど、フェミニズムが関わっていたりとか。ちょっとデリケートな話もあるんですね。
 
オモイカネ:バ美肉というものに繋がりやすい環境にはなったのかな、ぐらいの合意はできそうですかね。社会情勢に関しても、許容されやすい環境にはなったのかな。

泉信行:どっちかというと、Milaさんにまとめてもらうっていうのも、ちょっと聞いてみたいんですけど。

まとめ

Mila:まず、1番最初にそのカワイイという言葉の定義、というところから入りましたね。そのカワイイというものが、日本文化においてどういう使われ方をしているか、どういうものを内包しているか、例えばその、カワイイというものがその見た目の可愛らしさだけではなくて、庇護欲を掻き立てるとか、弱いものであるといった、そういった認識ですね。

で、これはまあ、多くの場合、女性とか女性性とかいうものに紐付けられると。で、それに対してカッコいいというものが、強くてクールであって、どちらかというと男性的な要素に紐付けられることが多いといった、そういった話をまずしました。

次に男性が女性の形を借りる、姿を借りるということが、決してバ美肉にとって新しい、バ美肉という形が新しいものではなくて、それ以前にもあったという話で、まあ、女体化の話が出てきました。これで、ヴァンパイアの、ゲームの方ですね、の話になって、そこでその必殺技を使って女体化、強制的に女体化させるということを通して、それまではその男性が、主にプレイしてるゲームの中で、女性キャラクターというとちょっと累計的にどうしてもその強くてカッコいいというものから脱却しきれていないところに、その色々なキャラクターが、女性として存在できるようになった、それを使うことができるようになった、というそういう広がりですね。バリエーションが生まれてきたっていうこと。男性の主人公が女性になる。

それから、2010年あたり、2010年以降のオタクカルチャーに関してですね。で話を進めました。それでその時に、そのアイドルコンテンツというものが非常に重要なんではないかという話が出てきました。っていうのは、これがその一般化するという意味でですね。そのオタクの人たちにとっても、ロールモデルになった。ということが言えるのではないかと話をしました。

それと同時に、またあの技術的な進化も、やっぱりあの重要だったのではないかということで、例えばまあ、着ぐるみもそうですし、そのVRの空間の中での、その技術的な進化によってその操演、そのキャラクターとして演じるということも含めて。そしてその、そこから先ほどのことも含めて、その男性が女の子のキャラクターになって、カワイイキャラクターになって何かをするという、それまでの状況から、女の子になる、女の子として存在する、と。カワイイ女の子としてカワイイキャラクターとして存在する、という、そういうところに変化していったのではないかという話をしました。

大体こういったことお話だと思いますけれども。言い忘れたことがありますでしょうか?バ美肉以前のちょっと色々な話題に関してあえて省いたところもありますね。パチンコとか。
 
オモイカネ:今日の流れをしっかりまとめていただけたと思います。

泉信行:グッドジョブですねいや、ほんとに。

Mila:イエーイ
 
オモイカネ:今日の配信、かなりよくまとめていただきました。

Mila:色々なことがお話できてよかったと思います。もちろん話そうと思えば、何時間でも話せる内容ではあるんですけれども、ただ、皆さんにとっても、非常に分かりやすいところで、キリのいいところでまとまったかなとは思います。
 
オモイカネ:ここで今日は終わりにしたいと思います。3時間余りの配信になりましたが、泉さんからもMilaさんからもいい視点と指摘をいただきながら、バ美肉に繋がるまとめ、特にカワイイであったりとか、それに対するカッコいいという概念で整理しながら聞くことができたのではないかなと思います。、皆さんありがとうございました。さよなら。Thank you so much.

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