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ワインにおける濾過の種類(メンブレンフィルターとクロスフローフィルター)

濾過器の写真なんて撮らないし、手持ちにないからつい関係ない写真で誤魔化していますが、ご容赦ください。

前回までは5つの単語についてとその全体の流れといったところに関して説明してきました。

そして今回はそれに続いて2種類のフィルターについて取り上げます。

これが第3回。
全4回なのでこれでだいぶ進んできたことになります。


メンブレンフィルター

メンブレンフィルターはSurfaceフィルターの一種で目も細かいので、瓶詰の最終段階に向けて使用される。

つまり多くの場合は微生物を取り除きたいような状況下で用いるものである。

そのために基本的にはDepthフィルターによるいわゆる前濾過が必要になる。

これを怠ると時間的にもコスト的にも結果的に損することになるので、前濾過はしっかりと行いたい。

それはそうとメンブレンフィルターがどんなものなのかというのをはじめに見ておこう。


これがメンブレンフィルターである。
これをどう使うのかというイメージはこちらの動画を参照していただきたい。

ここでの説明では、フィルターをバブルポイント法というもので動作チェックしているが、恐らく濾過に使うものを購入する段階でこの辺りの説明は商社側から詳しくなされると思うし、私も実際のところ個々の差などは分からないのでここでは説明しないものとする。

メンブレンフィルターはDepthに対してSurfaceタイプのものである。

つまり濾過の層の内部でモノを捕捉するのではなく、濾過シートの表面でのみ物質をキャッチする構造である。

そしてその濾過シートはPESあるいはPVDFという2種類の物質からなる。
この性質については後に扱うが、ワイン業界では一般的にPVDFが普及しているということは述べておく。

またこのメンブレンフィルターを購入するときに考えるべきことは、膜の表面積とタンパク質等の物質のキャッチの能力である。

そもそも膜の表面積は流速や濾過時間などにダイレクトに関わってくる部分であり、表面積を増やそうと思うともちろん機材や消費財を増やさなければならないので濾過における重要なファクターである。

そこがPAD式などと違って非常に見た目ではわかりにくいので、説明書等の紙面上でそこを確認し、ワイナリー毎にどれぐらい流速が必要なのか、そのためにはどれぐらいフィルター面積が必要なのかということを考えることが重要になる。

一方でタンパク質のキャッチ能というのは、洗浄頻度や、目詰まりのしやすさといったところに関わっている。

Surfaceタイプは最大の目のサイズの保証はあるが、それ以下の保証はないので、つまり目が限りなく細かくても同じサイズ保証の膜として販売できるということになる。

もちろん細かく作る方が、値段が上がるので、なるべく最大サイズを小さく表記するとは思う。
そういった中でより小さい孔が多かった場合、必然的に物質のキャッチ能は高くなる。

これがワインの味わいに影響するということはないと言われているが、キャッチ能が必要以上に高いと洗浄、流速、圧力の調節といった部分で作業が非効率化することになる。


そしてそれは結果的にフィルターの使用可能回数も少なくするので、コスト面でも負担となる。

またこのメンブレン濾過を最適化したのが、下の図のようなシステムである。


前濾過と接続し、かつ2つのルートに分けてボトリング直前の濾過を行うと言う方法である。

これは大規模ワイナリーで見られるそうで、ボトリングラインを止めることなくルートを交互に使うことができる。

前濾過後すぐに最終濾過に行くので洗浄頻度が少なくて済む。
フィルターの寿命が延びるといった利点がある。


クロスフローフィルター

クロスフローの仕組みと利点

クロスフローフィルターは連続的に使用することを可能にしたフィルターで目詰まりが起こらない構造になっている。

具体的には溶液は常に流れ続け、孔を通り抜けることの出来る溶媒や小さい分子のみが分離され、残った濁りが多くなった溶液は再度循環に回される。

一般的なフィルターではフィルターと流れの方向が垂直になっており、それが目詰まりを引き起こす原因になるが、こちらはフィルターと平行に流れていくなかで、溶媒だけをフィルターの外側に通過させるので目詰まりが起こらない。

といってもなかなか想像できないと思うので、ここでも動画を見つけてきた。

この動画はかなりわかりやすいのでぜひ見てほしい。


そしてこのフィルターはバクテリアや酵母を取り除く孔サイズのレンジで用いることができる。

一方で、これはSurfaceフィルターのように一定の孔のサイズを保証するようなものではない。

しかし、基本的には0.2㎛のものを使うので、多少孔のサイズに差があってもSurfaceの0.45㎛のものとは性能は大きく変わらないだろう。

また実際のところもっと細かい孔サイズのものもあるようだが、それらは水の濾過するときなどに使われ、ワイン業界では0.2㎛のものがメインのようだ。


クロスフローフィルターは万能なのか

一方でこの技術はかなり濁度の高いマストや、滓の画分にも使うことができる。

滓の場合は事前にロータリーフィルターにかける必要があるが、それらに使うことによって滓引きによるワインのロスの回収や、不純物を取り除いた状態での発酵が可能になる。

こういった場合は先の動画で出てきたチューブではなく、ステンレスの太いチューブ様のものを用いて濾過にかけることになり、それによって濁度の高い溶液でも循環できるようにしている。

ただステンレスであれ一般的な太いチューブであれ、太いものを使用すると、1つのコラム(大きい方の筒)に入るチューブ(コラム内の空洞部分)の量が減り、全体の流量は遅くなる。

そのためステンレスがいくら剛性でベントナイトや酒石酸の析出といったものを取り除くのにも使えるといっても、これ1つで全体の濾過を賄うのは無駄が増えすぎると言われている。

品質面での差異

品質面でいえば、クロスフローフィルターの濾過後にはFiltration Shockという現象が見られる。

この現象は濾過全般に見られることだとのことだが、その影響が一番大きいのがクロスフローフィルターだそうだ。

Filtration Shockというのは濾過の際に中程度の大きさのポリフェノールの複合体分子などが分解されてしまい、濾過後のワインの味わいが必要以上に弱く感じたり、ボディ感を失ったりする現象のことを言う。

ただこの現象自体は数日後には元の分子状態に戻るので本質的なデメリットなわけではない。

ただ他の濾過方法と比較する際には数日置いたあとのものを比較する必要があるということである。

他にも利点、欠点はもちろんある。

利点

珪藻土のような安全面での危険性がない。
労働力があまりかからない。オートメーション化も可能。
セルロースの香りやワインの漏れによるロスがない。
ワンストップで濁度を一気に下げれるので酸化のリスクが低い。

欠点

流速が遅く時間がかかる。
ダブルチェック的に0.45、0.65㎛のSurfaceフィルターにかけることが推奨される。

クロスフローまとめ

80年代のクロスフローフィルターはかつては値段は高く、クオリティは低いという技術で使えたものではなかったそうだが、現在ではクロスフローに関してそういった懸念はなくなってきているようだ。

そしてGusmerの動画では、最終的なクロスフローの導入は、ワインを半分ずつに分けて現状の濾過フローとクロスフローの両方を用いて品質を比べることを推奨(日本でできるのか?)している。

そのときには、味わいが繊細なピノや澱などが多くなるボルドーブレンドのワインで用いることを推奨している。

中途半端なワインで比べてもその良さがあまり実感できないそうだ。

いずれにせよそういった一年のリースという形で試してみて有効かどうかを判断してほしいといったところだろう。

逆浸透膜

逆浸透膜はアルコール、揮発酸、アセトアルデヒドなどを取り除くことができ、さらにはマストの濃縮になんかも使われている。
下の図は概略図ではあるが、圧力をかけることで糖濃度が高い溶液から糖は透過せず、水分だけ透過するということを示している。


この技術のポイントは選択的透過性という単語だ。

つまり逆浸透膜の利用は濾過技術というより、特定の欠陥分子を取り除きたいときに使える技術という認識が正しいと思う。先のマストの濃縮という話であればその分子が水分子ということになる。

逆浸透膜や浸透膜はここまでに出てきたどの膜よりも目が細かく、逆に透過する分子が分離されているという構造だ。

今まで紹介してきたものは濾過して透過してきた画分がきれいなワインとして使われる部分となっていたが、こちらは透過しなかった部分がそのまま発酵なりワインとして用いられるのである。

この手法自体は今回の濾過の分野からは少し離れるので多くは語らないが、この技術は元々海水を真水にするということを想定して作られたものであり、それの応用がワインでなされている。

そしてこの技術を利用するためには事前に濾過をする必要がある。

この技術が発酵前の果汁濃縮に使われるということ、利用前に濾過が必要になるということを考えると、発酵中に浸漬を伴うような赤ワインで用いるのが難しいということが容易に想像できるかと思う。

そのためサーモヴィニフィケーションなどの抽出法を用いると使えるということになるのだろう。

一方でアセトアルデヒドや酢酸の分離に用いる場合は発酵後のワインで行うものになるので、一般的な濾過の後に業者に外注することになるだろう。

特に近年ではアルコールの除去はHotなトレンドで盛んに研究が行われている部分でもある。

最後に素材の違いについて、あるいはそれらによってワインの味わいにどう影響するのかというのを見ていきたいと思う。




ということで第3回目でした。
このあとは素材による違い、メンブレンフィルターのPESとPVDFの違いなんかも出てきます。
あとは孔サイズで本当に味は変わるのかといったトピックにも触れています。
フィルターという少しとっつきにくいトピックですが、最後までよろしくお願いします。


これからもワインに関する記事をuploadしていきます! 面白かったよという方はぜひサポートしていただけると励みになりますのでよろしくお願いします。