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漫画考察レビュー:『吾峠呼世晴短編集』の中に竈門炭治郎を探す

※こちらの記事は、2020年5月25日に漫画メディア「東京マンガレビュアーズ」で公開されていたものを一部修正し再掲載しています。情報が古い場合がございますので、あらかじめご了承ください。

2019年9月をもって、アニメ『鬼滅の刃』の第1期が終わりました。皆さんはご覧になりましたでしょうか?

竹谷はすべて観て、大体おろろと泣いていました。

呼吸の表現や、鬼の怖さ、各キャラクターの声。各自の思う「ぼくのかんがえた最強のアニメ化」を地で行くクオリティだったと思います。続編となる映画も楽しみですね。どなたか一緒に行きましょう。

『鬼滅の刃』連載当初「これはちょっと合わないなあ」と言っていた知り合いも、「いやあ、漫画の時から思ってたけど、アニメも本当に面白い!」と手のひらを天地返ししておりました。

その『鬼滅の刃』の作者吾峠呼世晴先生初の短編集が、満を持して発売されています。

『鬼滅の刃』の空気を纏った、4つの物語。

この短編集は、4つの話で構成されています。『過狩り狩り』、『文殊史郎兄弟』、『肋骨さん』、『蝿庭のジグザグ』です。

もう、タイトルからしてワクワクします。明治大正の文豪たちの作品のように、吾峠呼世晴先生の言葉選びは、繊細でありながら、したたかな色を帯びています。

『過狩り狩り』は、『鬼滅の刃』のベースとなる作品です。「鬼殺隊」や「呼吸」といった概念は出てきませんが、鬼を中心に話が進んでいきます。

2013年の作品なのですが、この時からすでに『鬼滅の刃』(2016年連載開始)の画風が垣間見え、ファンとしてはたまらない作品です。

連載前の作品を収録した短編集には、そういう系譜を想像できる楽しさがあって素敵です。

『文殊史郎兄弟』、『肋骨さん』、『蝿庭のジグザグ』は、舞台が現代です。吾峠呼世晴先生の描く現代、という時点でもう興味が沸点を超えます。

それぞれ、特殊な力を持った者がなにかと対決するという物語なのですが、魔法や超人的な身体能力、というよりは、どこか仄暗さのある能力を持った人間が主人公です。

主人公たちの戦うモチベーションも、シンプルな勧善懲悪の正義の心ではなく、それぞれ絶妙なものがあります。ちなみに竹谷は『肋骨さん』が大好きでした。

どの作品も『鬼滅の刃』に繋がる意匠や発想が点在しており、とても面白く読ませていただきました。

しかし、4つの作品を拝読して、ふと思ったことありました。どの物語にも、「竈門炭治郎」がいないということです。

『鬼滅の刃』の主人公・竈門炭治郎へと収束したもの。

『鬼滅の刃』ではないのだから、竈門炭治郎がいなくて当然ではないか。

そう思われるのも至極もっともなのですが、4つの作品中に出てくるキャラクターの外見や内面を見ても、竹谷には「これが竈門炭治郎のベースだ」と思える要素が見つけられませんでした。『鬼滅の刃』の主人公竈門炭治郎は、あの残酷な世界の中で誰よりもまっすぐで明るく、どこまでもプラスな存在です。

対して、短編の主人公たちには、独特な雰囲気があります。マイナスめいた印象さえ、竹谷は覚えました。

だからこそ、思ってしまいます。このそれぞれの世界に竈門炭治郎がいてくれれば、短編の主人公たちが一層引き立つのではないかと。

そして、その竈門炭治郎の創生こそが、『鬼滅の刃』を『鬼滅の刃』たらしめているのだと、改めて強く思った次第です。逆に言えば、それぞれの主人公にはないものが集まり、収束して竈門炭治郎となったのではないかと思えるほどです。

当たり前に受け止めている竈門炭治郎という人間の不在。ゆえに『吾峠呼世晴短編集』には『鬼滅の刃』とは異なった面白さがあり、新鮮に感じました。

『鬼滅の刃』に通じながらも、新しい物語を味わえる。『吾峠呼世晴短編集』は、独立して面白いながら、『鬼滅の刃』の排反としても楽しめる、そんな贅沢な漫画です。

そして、冒頭でも触れましたが、圧倒的な言葉のセンスは、短編集でも存在感を出しています。

いつか漢字ドリルになってくれることを、願ってやみません。


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