【取材記事】性のタブーを作っているのは「大人の側」 自分と他人を守る性教育のあり方を発信
【お話を伺った方】
■2020年以降、医療機関からアフターピルの問合せが急増
mySDG編集部:医薬品の輸出入事業を中心に展開している御社が、女性の健康課題への取り組みを始めたきっかけを教えてください。
小野さん:弊社は、いわゆるトラベルワクチンと呼ばれる、国外で感染する可能性がある感染症を予防するワクチンの輸出入事業をメインで行っています。その中で、ウィメンズヘルスの領域——例えば最新のHPVワクチンやアフターピルの入手サポートを積極的に行ってきました。
転機となったのは、2020年から2022年にかけての時期。医療機関からアフターピルの問い合わせが一気に増えたことです。国内製造のアフターピルももちろんありますが、海外製のものは有効時間が長いのが大きな特長です。弊社は120時間有効の最新アフターピルを海外より輸入するなど、必要としている方に医薬品を届ける中で、女性の健康課題に対して会社としてフォーカスが当たってきたという経緯があります。薬を届ける以外に、われわれとして何かできることがあるんじゃないかと。そう考え始めたことが、大きなきっかけになりました。
mySDG編集部: 2021年には女性たちが抱えるからだの悩みに寄り添うWebメディア「ピルモット」をリリー スし、さらに2022年4月にはライフステージごとの女性の健康課題をサポートするセルフケアブランド『BRÁCT(ブラクト)』をローンチ。第一弾と して、植物のちからで女性リズムに寄り添うブレンドティー2種を発売されています。まずは「ピルモット」について、メインターゲット層などメディアの特性について教えてください。
小野さん:メインターゲットはいわゆるZ世代にあたる15〜25歳を想定しています。基本的には「自分の体を知ろう」ということを起点に「生理」や「性感染症」、「避妊」などに対する疑問や悩みを解決する情報を発信するほか、病院検索も行えます。
インターネットにはものすごく多くの情報があるけれど、それらは玉石混合。有益な情報がある一方で誤った情報を見かけこともあります。その点、ピルモットでは、医師監修の下、正しい情報、信頼できる情報を探せる場所として、情報発信を行っています。
mySDG編集部:一方、『BRÁCT』では女性の健康課題をサポートするプロダクトを手がけられています。ブランド立ち上げのきっかけはどのようなことだったのでしょう?
小野さん:会社として「ピルモット」を走らせている状態で、情報を取得してから実際に行動に移すまでの動線を短くしたいという意見が社内で上がったんです。選択肢がさまざまある中で、何をどう選択すべきかを考えたとき、日常生活の中できちんと自分の体について把握し、自身にとってベストな選択肢を常に持っておくことが必要なのではと考えました。つまり毎月の不安定期に起こる心身の影響を理解した上で、具体的なケアを施すことが大切なのではと。
そこで第一弾として、女性特有のゆらぎを手軽にケアできるハーブティーの開発をおこないました。『BRÁCT』は「ピルモット」よりも上の世代である25歳から40歳前半あたりをメインターゲットにしているため、若年層向けの「ピルモット」との棲み分けを意識しながら、幅広い女性の健康課題にアプローチしたいという思いから立ち上げたブランドです。素材には強いこだわりを持ち、製品は国産品と有機素材をメインとしたヴィーガンフレンドリー、かつ製造過程から梱包素材までサステナブルな製品づくりに努めています。今後のラインナップとして、香りでメンタルケアを図るプロダクトやコスメアイテムなどの開発も進めているところです。
■踏み込みづらい「性」の話題 まずは大人からアップデートを
mySDG編集部:2023年9月16日には、沖縄県で保護者向け性教育イベントを開催されたそうですね。イベントを企画された背景を教えてください。
畠田さん:まず性教育イベントを開催したのは、弊社では「はじめてキット」という、女の子がはじめてセックスする前に知っておいてほしい情報や製品を同封したキットを開発・販売するなど、若年層に向けた性教育の必要性を強く感じていた背景があります。
さらに今回開催地とした選んだ沖縄県は、若年妊娠率が全国平均の2倍という社会問題を抱える地域。講師としてお迎えした産婦人科医・深津真弓さんは、沖縄県初のユースクリニック(若者が性や体、心の悩みを無料で専門家に相談できる場所)を運営されていて、沖縄の若年妊娠の課題解決に強い使命感を感じられている方です。
深津先生は、埼玉県の大学病院で勤務したのち、沖縄に移住してから外来を通して10代の出生率の高さを知り、非常に驚いたそうです。しかし、そのことに違和感を持つ子は多くなく、若年妊娠が当たり前の文化として根付いている一面があると話されていました。
そのため沖縄がもつ根強い地域課題を解決するためには、保護者が性に対する知識をアップデートする必要があると考え、保護者を対象とした性教育イベントの開催に至りました。
mySDG編集部:「保護者が性に対する知識をアップデートする必要がある」と考えた背景をもう少し詳しく教えてください。
畠田さん:親から子へとどのように性について伝えるべきか悩み、伝えそびえる保護者も多いと言われています。特に保護者世代は、十分な性教育を受けられないまま、性に対する偏見やタブー意識を子ども世代に押し付けてしまうことも少なくありません。すると子どもたちは親に隠れてネットで情報を集め、結果として間違った情報を学んでしまうことが課題にもなっています。性教育とは決して恥ずかしいものではなく、自分の体を守るために必要なものであるという認識をまずは保護者に持ってほしいという思いもありました。
mySDG編集部:イベント開催中、保護者の反応はいかがでしたか?
畠田さん:性にまつわることなので、始めはどなたも緊張されている様子でした。ただ、イベント中盤に正しいコンドームの装着方法を学ぶため、皆さんに実践いただいたのですが、参加者10名中7名が女性だったこともあり、「初めて触った」「コンドームに裏表があることを知らなかった」など、自然と声があがり、場が非常に盛り上がりました。自分の体の中で使われていたものなのに、知らないことばかりだったと。コンドームは管理医療機器にあたるもので、つまり生命を守るものです。そういった認識のないまま、これまで使用されていた方がほとんどで、コンドームに対するイメージも変わったように思います。
■「性教育=セックス」ではなく「人権教育」でもある
mySDG編集部:性教育イベントでは、特にどのような点を意識されたのでしょうか?
小野さん:「性教育=セックス」という認識が保護者世代には深く根付いているですが、性教育とは人権教育でもあるんですね。つまり、「自分と他人を守ること」が性教育のメインの話になります。そのあたりの性教育全般に対する認識を変えていくことを特に意識しました。
あとは保護者世代が新しい発見を持ってくれる内容にすることにも、注力しましたね。例えば、「赤ちゃんはどこから来るの?」というお子さんからの質問に対する適切な回答方法を畠田からお伝えしたり、先ほどもお話したとおり、正しいコンドームの装着を皆さんで実践したりして、まずは保護者に気づきを得てもらうことが必要だと考えました。
mySDG編集部:ちなみに、「赤ちゃんはどこから来るの?」と子どもに聞かれた場合はどのように答えればよいのでしょうか?
畠田さん:女の人の中にある卵を「卵子」、男の人の中にある命の素を「精子」と呼ぶことを教え、「その2つが合わせると命の元になるんだよ」と話したときに、卵子と精子を合わせる方法を具体的に伝えます。例えば、赤ちゃんが生まれてくるところに男の人が性器を使って命の素を送り込むんだよと具体的に教えてあげて、それをセックスと呼ぶというところまで説明すると、誤った情報にアクセスする前に正しい理解が深まると思います。「セックス=いやらしいもの」という認識を防止するためにも、”お空から来たんだよ”などと誤魔化さず、親が堂々と伝えることが大切です。
mySDG編集部:なるほど。確かに伝え方って難しいですよね。親同士でも口にしづらい話題でもありますし、他の家庭はどうしているのか、なかなか聞けないですしね。
畠田さん:そうですよね。今回の性教育イベントでも、「参加者の方々の価値観がわかってよかった」とか「みんなどう考えているのかわかってよかった」いう感想をいただきました。親自身も性に対して戸惑いを感じながら子どもに対して、いつ・どのように性について話していけばいいのか、悩まれている方は非常に多い印象でした。
■10代の性や体にまつわる悩みに寄り添う「場」の普及を
小野さん:ピルモットを通じて、女性たちが自身の体について能動的に学び、不安や疑問を解決できるような情報発信を今後も続けていきたいですね。
今回の沖縄のイベントも、地域課題への理解も進み、非常に手応えを感じました。ほかの地域でも性教育について発信できる機会をどんどん作っていきたいと考えているとことで、次回は岩手県でイベントを企画しています。
mySDG編集部:日本全国、さまざまな場所で広がるといいですね。
小野さん:そうですね。われわれの目標としては、ユースクリニックという仕組みを日本全国に普及させたいという思いがあります。ユースクリニックは北欧スウェーデン発祥の取り組みで、10代の子どもたちが性や体、心の悩みを専門家に無料で相談できるスペースです。日本には全国に15ヶ所ほどしかなく、必要性を強く感じているところです。今後は医療機関の方たちと協力しながら、若い世代の健康や性を支えるインフラを中長期的に作っていきたいなと思っています。
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