自分を脅かす存在を前に、果たして冷静でいられるか? | 〜平野啓一郎『マチネの終わりに』を読んで
性格が悪いわけでも、意地悪されたわけでもない。それなのに、同じ空間にいるだけでなんだか惨めな気持ちにさせられるような人、あなたにはいませんか?
新年一発目の読書は、平野啓一郎さんの『マチネの終わりに』でした。今回はその感想を綴っていきたいと思います。
正直、ここ最近読書からかなり離れていました。なんとか読書の習慣を維持したいと思い、日常を綴ったゆるめのエッセイや、あまりヘビーじゃないような本にトライしてみたのですが、それが逆に良くなかった。
母にたまたま借りたこの本を読み始めてみると、それまで読書から遠のいていたのが嘘のように一気に読み進めてしまいました。
モチベーションが下がっているときこそ、しっかりめのものに取り掛かってみるといいのかもしれません。
いや、今日はそんな話がしたいんじゃない。それではまず、あらすじから。
最初から最後まで中弛みするようなことなく、とにかく色んなことが起こります。単なる恋愛小説としてだけでなく、政治、国際情勢、経済、結婚、家族、出産...。さまざまな要素がぎっしり詰め込まれていて、非常に読み応えのある作品でした。
この物語の主人公、薪野はほとんど一目惚れのようなかたちでジャーナリストの洋子と恋に落ちます。2人は特別言葉を交わさなくても、どこか深いところでつながっている、理解しあえる関係になります。
そんな2人の仲に嫉妬し、とんでもない行動に出る三谷という女性がこの作品を面白くしてくれるキーマン。三谷はクラシックギタリストである薪野のマネージャー。彼への恋心をひた隠しにしながら、あくまで仕事のパートナーとして彼を支えてきました。
天才ギタリスト薪野。彼が恋するのは、世界的に有名な映画監督を父に持ち、自身はジャーナリストとして海外で活躍している洋子。凡庸な自分では決して太刀打ちできない洋子を前に、2人の仲を引き裂くため彼女は大胆な行動に出ます。
「いくら嫉妬したからって、そんな行動は...」と初めは思ったものの、彼女の気持ちを100%理解できないか、といったらそうではありません。
なぜなら、いるだけで自分の居場所が、存在価値が脅かされるような人というのがこれまでの私の人生にもいたからです。
あなたはどんな相手と対峙したときに自分の存在が脅かされるという気持ちになりますか?
自分に対して否定的な態度を取る人
意地悪をしてくる人
自分を貶めようとしてくる人
一般的にはこうした人を想像しますが、もっと恐ろしい存在います。それが、自分には到底叶わない人。そして自分の大切な居場所に、いとも簡単に馴染む人です。
こういった人は、決して誰かに意地悪なことをしようとしません。なぜならそうする必要がないから。そして悪気なく、自分の居場所を奪っていってしまうのです。
そんな人が、自分がほとんどしがみつくようにキープしてきた居場所を奪い去ってしまうようなときに遭遇したら?たとえそれが倫理的に良くないアクションであっても、もしかしたら自分も同じようなことをしてしまうかもしれません。
それは本能的な行動であり、すごく人間臭い。そう言った意味で三谷の存在はなんだかすごくリアルだなぁと感じました。
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