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黒木結愛(くろき ゆめ) あの時言えなかった言葉と色を綴る野良猫。 電車に乗れたことに…

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黒木結愛(くろき ゆめ) あの時言えなかった言葉と色を綴る野良猫。 電車に乗れたことに満足して降りるのをよく忘れます。 文章や物語をこっそり並べていきます。 野良猫書房

最近の記事

致命傷

 濡れた制服が肌に張りついて気持ち悪い。 「なんで」  吐き出した言葉は無意識のうちにため息へと変わっていた。  甘く寂しい香りに鼻先を撫でられて、オレンジ色がちらつく。まだ秋なんだなと絶望的な気分になる。他の子たちは“もう秋だ”と焦燥感に駆られているのかもしれないけれど。  吸い込んだ空気で喉の奥がひりつく。伝えたい言葉が何一つ音に出来なかったときのような嫌な感じ。乾いた咳が出た。校舎の屋上から叫ぶなんて、するもんじゃないな。  そういえば、金木犀の香りには鎮静効果があった

    • スナップショット

      光で切り取られる。 その瞬間、私たちは少し擦り減って、じわりと色をフィルムに移す。四角い、その中で飼われるいくつもの影。まるで鉢の中の金魚のようだと思った。きれい。 私はそのどれのことも知らない。ちっとも知らない。だけど、きっと誰かの擦り減った跡だ。滲んでる。痕だ。 それは、遠いところから逃げてきた人かもしれない。その人にひどいことをしたい人がいて、ずっと探していて、これのせいでその人は見つかってしまって。そしたら誰が悪いことになるんだろうね。誰がその人をころしたの。 ねぇ、

      • パラレルワールド

        ぐるぐる弄んで周波数を合わせると、ラジオから聴こえる声が、きみと私の隙間を埋めてくれた。 すこし違っていてすこしおんなじ世界について、どこかの偉い人が話している。 「そんなものあるものか」 鼻で笑うきみは小さな子どもみたいだった。目に入れてしまいたい。 横で平然と座っている私が、実は携帯電話のバイブレーションみたいに小刻みに震えて隣の世界の私と入れ替わり続けているのをきみは知らないんだ。 だから私はこう答える。 「あると思えばあるよ」 しばらく前に母が脳みそを怪我して倒れ奇

        • 五月雨式なものほど

          来世は〇〇になりたいって、きみはよく口にする。事あるごとに呟く。猫。くらげ。林檎飴。カマキリ。金平糖が入っていたガラス瓶。人型パソコン。ほんとはもっと沢山あるのだけど、追加されすぎて分からない。死にたがりなくせして、いったい何度、生を享けるつもりでいるのさ。ぼくがそういうときみは唇を尖らせた。そうだ、きみは愛されたがりだ。ねぇ、まだ足りないっていうの。じゃあ、ま、とりあえずさ。一緒に魚にでもなってみない?

        致命傷

          空色と白色

          私たちの間に横たわっているもの 押入れの奥から見つめる誰かと目があいそうになった夜みたいだったし 口をきけなくなった人たちが眠っている少しひんやりとした部屋みたいだった 隙間がこわい沈黙がきらい そこには何もないから 空いて残ったまっくろな 部分 を埋めたかった そのための部分品だった それはただの部分品だった 思いついたものをひたすらに並べた だから嫌われてしまうことも分かっていたはず なのに  音なんて何でもいい 意味なんてどうでもいい 空気を震わせる色であればそれでいい

          空色と白色

          ige

          くしゃみが止まらなくなった。  もう雪は解けたことだし、いよいよ花粉症デビューかと思い診療所へ行ったがそうではなかった。  どうやら私は、人間アレルギーになったらしい。症状は今のところ、鼻水とくしゃみ、あとはちょっぴり肌が荒れるくらいなものだ。花粉症の友人を見習って箱ティッシュを持ち歩かなければならないなと思っていたのだが、その必要はなかった。  研究のために捕らえられ、何やら大袈裟なガラスケースの中に放り込まれたからだ。 だが、研究しようにも研究者達はみな人間で、彼等が近

          難事件

          分かる、解る、判る、わかる、わかるわかるわかる…そうやって共感ばかり示す。まるで壊れたCDプレーヤーみたいだ。共感ってポイントが貯まると自動的に好意へ変換されるシステムだとでも思っているんだろうか。お気に入りのパン屋さんのポイントカードじゃあるまいし。共感が私と君の間に溢れかえって空が見えなくなったって食パン一斤とも交換できやしない。そんなの全部わかってるって?おや?それはどうかな。私はわざとらしく唇をひと撫でする。君はそういうけれど、きっとこの件は迷宮入りだよ。だって、私が

          難事件

          乞い

          ぼろぼろと落ちた透明で、部屋には小さな海が出来上がっていた。何かの手違いで君は私の首の骨を折ってしまったらしい。全く、手違いで殺されるなんて堪ったものじゃない。とはいえ、大好きな君に殺された私は言うまでもなく幸せだし食べ残されたのは私から解放された君で、これは一般的にいうハッピーエンドというやつではないか。なんて素敵なキャスティングなんだろう。ご指名ありがとう。細やかだが拍手を贈りたい。こちらからの拍手がそちらにも聞こえると良いのだけれど…そういえば、私がここにこうして留まっ

          故意

          突然、君が私のことを好きではなくなってしまった。転んで頭を打ったことが原因だという。道端に落ちていたバナナの皮を踏んで滑ったそうだ。そういえば、前にもこんなことがあった気がする。あれは、君から好きだと言われる一週間前のことだ。頭がおかしくなってしまったのは神様だと思っていたけれど、おかしくなっていたのはどうやら君の方だったらしい。まぁ、大した違いではないのだけれど…。 それに私はとても忙しい。身体一つでは足りない。君の目の前にレンガを落としたり君の足元にバナナの皮を置いたりし

          色色

          白色で生まれて黒色になったら死んじゃうんだ、と君が言った。炊き立てのご飯みたいだね、と僕は言った。何も描かれていないカンバスみたいだ、と君が言った。どっちも美味しそうだね、と二人して笑った。 白いご飯もカンバスも可愛がられる。どんな色だって映えるからね。きっとさ、大人になると自分の色をすぐに忘れてしまうから、触って撫で回して繋がって色をつけて他の誰かの身体を使って自分を確かめたくなるんだ。だから泣きながら生まれるんだよって君が言った。そう?あぁ、そうか、そうだ。そうだった。そ

          透明

          知っているかい?涙なんて通り雨で特別な意味なんかなくて、ただの気まぐれなんだよ。天気ときどき最終兵器。あんなの赤くないだけの血液だ。流れても水分だけが奪われて、他は何にも持ってっちゃくれない。白い、白い、まるで雪みたいなキラキラひかる何かが身体の中に溜まっていく。綺麗だね、と言うの。ねぇ、君もそう想うの?共感ばかり求めて、それが全てで、誰かと同じでないといけない気がして、そのために削ぎ落としてきた自己が手首に引っかかって体温が測れない。手が繋げない。“同じ“に価値なんてないの

          ナマエ

          そこには「イチゴ」とカタカナで書いてありました。カタカナって書くのは楽しいのですが、読むのは楽しくありません。形と音が頭のなかで繋がらなくて大変なのです。きっと彼らは方向音痴なのでしょう。優しい私は、こんど地図を書いてあげることにします。甘ったるい香りと身体に悪そうな色は、それはそれは偽物みたいな味がしました。「イチゴ」って書いてあればなんでもイチゴになれるのでしょうか。それなら私は、顔や腕に「ネコ」と書くことでしょう。 にゃあ。

          ナマエ

          本が好きって話。

          世界はとても理不尽なモノだけれど、 人生なんてプリンみたいなものだし、 誰しもお疲れ様でご苦労様だし、 たい焼きがあれば一瞬で幸せになれるし、 一杯の珈琲に救われることもある。 それに海月だって降るんだから、 きっと、とても愛おしいモノなんだ。 そういうことを教えてくれる。 身体に染み込むみたいにじんわりと。 理不尽を泳ぐための浮き輪みたいな物よ。

          本が好きって話。

          幼心

          むかしむかしあるところに、寂しがり屋の女の子がいました。 幸せでないわけではないのに、いつも何処かに“寂しい”がありました。けれども、抱えきれないほどの量ではなかったものですから、どうかこうかたまに甘いものを食べながら生きてきました。  しかし、変わり映えのしない夏の夜、出逢ってしまったのです。それは、さくらんぼ味の飴でした。女の子はすぐにそれが大好きになりました。いつも何処かにある“寂しい”をぼんやりと薄くしてくれるような気がしたからです。その飴は“ある人”から貰ったもの

          はじめまして。

          黒木結愛(くろき ゆめ)と申します! “あの時言えなかった言葉と色を綴る野良猫” 野良猫書房という架空の本屋さんを営んでいます。 本が好きです。 ですが頭は良くありません。 いつも彼らに助けていただいてばかりいます。有り難いことに。 思わず抱き締めたくなる本に出逢うことが何より幸せです。読んでいる途中で、読み終わったあとでそんな衝動に駆られる瞬間を重ねていけると良いですね。それと、甘いものがあれば世界はきっと平和。 私もそんな一部に…誰かにとってそうなれると嬉しいなぁと

          はじめまして。

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          黒木結愛(くろき ゆめ) 1月17日生まれ O型 趣味は、散歩と迷子。 好きなものは、本とお菓子と海老と…ありすぎるので割愛。 すみっコぐらしの“ざっそう”推し。 twitter https://twitter.com/ayu_yumexxx0858

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