学校制度改革案(2021年1月)

Ⅰ 巻頭言

 今までnoteには書いていませんでしたが、私は10年ほど前から現行の学校制度(昭和22年の学校教育法に基づく、いわゆる「六三三四」制)には問題があると考えてきました。私は大学院生とはいえ学校教育学、教育制度論を専攻している訳ではありませんので、ここでは大まかな考え方を示すに留めます。ぜひ議論の為の踏み台としてお役立てください。

 学校教育の歴史に詳しくない方の為に、まずは戦前の学校制度と現行の学校制度の言葉のずれについて説明します。下表(文部科学省公式WEBサイトのページを参考に、私が作成しました)をご覧ください。

アクセス・コピペ用URL(文部科学省公式WEBサイト)

https://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/others/detail/1318188.htm

note用学制変遷表

 意外とわかっていらっしゃらない方も多い(失礼)のですが、今の高校は中等教育機関です。決して高等教育機関ではありません。しかし、戦前の、本来の高等学校は――現行制度における大学(学部)と同じ段階の――高等教育機関でした。そもそも、中等教育機関に「高等学校」と名付けるのがおかしいのです。しかしこれには戦後、敵国の隷下という異常な状況の中で急いで新しい学校制度を作らなければならなかったという事情があります。今日の中学校を「初級中学校」ないし「下級中学校」と名付け、今日の高等学校を「上級中学校」と名付ける、国語(日本語)として自然でまっとうな意見もあったのですが、「下級」やら「上級」やらの表現が民主的でないという意見が勝ち、便宜上、戦前の中学校に「高等学校」と名付ける他なくなったのです。そうなると後は玉突きで、戦前の高等学校を「大学(学部)」とし、戦前の大学(学部)を「修士課程」とすることとなりました。



Ⅱ 学校教育の二大問題

 現在の学校教育の大問題は、第一に虐待(捕虜虐待という言葉があります。虐待は親や教師によるものに限った概念ではありません。教師や親による体罰や不適切な言動だけでなく、学生、児童生徒等の間で生じる、いわゆる「いじめ」もまた虐待の一種です)、第二に20歳未満の者による飲酒喫煙の横行、特に高等学校(戦前で言う中学校ですよ)卒業後の18歳・19歳による飲酒喫煙です。実は、どちらも戦前の方がマシだった側面もあることは御存じですか。日本では江戸時代中期には既に武士階級に限れば体罰は問題視されていました。明治時代には英国の因習(親や教師、軍の上官により当然のように行使される暴力、体育会や自衛隊に色濃く残るマッチョイズム)が流入しましたが、大正に入ると少なくとも教師による体罰は禁止され実際に激減しました。また、当時はまだ20歳未満の者による飲酒喫煙を禁じる法律がなかったにも関わらず、第一高等学校(現在の東京大学教養学部前期課程)などの高等学校では校長以下教員が一丸となって生徒に「禁酒」あるいは「節酒」を熱心に指導していました。それが、昭和初期に戦争が続くと風紀が乱れ、多くの高等教育機関(高等学校の他、大学予科や専門学校本科にも10代の学生がいました)において飲酒喫煙が横行するようになってしまったとされています。そして、戦後もそのままになっています。大雑把にまとめてしまえば、10代学生による飲酒喫煙の横行は現在の大学(学部)に、体罰等の虐待は現在の高等学校に引き継がれてしまったと言っても過言ではないでしょう。この二大問題をなんとしても解決する為にも、――大学教員の良識には期待できませんから――高等学校(高校)を5年間に伸ばすべきと考えている次第です。

 こういうことを言うと、京都大学なり東京大学なりの老害教授が「18歳でも大学生には酒を飲む権利がある」だの「18歳で酒を飲んで悪酔いして自由の怖さを知る」だの妄言を撒き散らすことが多いですが、言語道断としか言いようがありません。第一、どれほど過保護に育てられていたら18歳まで自由の怖さを知らないのでしょうか。私のような南葛飾の庶民に言わせてもらえば、普通は小学生の頃にジャングルジムから落ちそうになってヒヤッとしたり度胸試しで高いところから飛び降りて痛い思いをしたりして自由の怖さを知ります。性別は関係ありません(女子にも度胸試ししたがる子はいますよ)!老いた大学教授ともなると昭和期並みの特権意識が抜けず、大学生・大卒者というエリートならば18歳・19歳の飲酒喫煙等の違法行為も許されてしかるべきとでも思っているのでしょうが、そんな意識こそが丸山眞男の言う「無責任の体系」を作り上げてしまっているのです。「無責任の体系」とは旧日本軍にも見られた「下」に責任をなすりつける一方で、エリートとされる「上」はどこまでも免責される腐敗した体制・状態であります。ノブレス・オブリージュという言葉の通り、エリートこそ法律を遵守し、人格・平素の言行についても国民の模範となるべきです。ゆくゆくは法学部を経て将来の警察官僚・検察官や裁判官となる東大生すら教養学部前期課程在学中の18歳・19歳の時期から飲酒喫煙に染まる現状は法治を形骸化し善人を嘲笑う日本の闇に他なりません。私は東京大学とは何のかかわりもありませんが、一般に大学教授という生き物は東京大学の奴隷らしいので、東京大学が本気で禁酒禁煙指導を始めれば、私が在学する大学にも波及効果があるだろうと期待できる側面もあります。しかし、東京大学以外の大学は学部1・2年生(10代)と学部3・4年生及び大学院生(20代)のキャンパスを分離しているとは限りませんから、高等学校を5年間に伸ばす方がむしろ現実的ではないかと思います。



Ⅲ 公立高等学校の詰め込み・中学受験問題

 私も普通の公立中学校出身なのではっきり言ってしまいますが、公立中学校のレベルは低いです。九州の一部のような恐ろしく封建的な地域でも極端に貧しい地域でもない東京下町の区立中学校でもこんなものです。公立中学校の前身は、存在しない(戦後の新設校の場合)か、戦前の高等小学校(就職が基本の庶民向け学校。小学校6年間の後、2年間通い続けるイメージ。正式な中等教育機関ではなかった為、表に示さなかった)でしたから、当然と言えば当然のことです。他方、私立の中高一貫校は――近年の「中等教育学校」制度とは関係なく――戦後一貫して戦前の中学校を引き継いできました。小学生のうちから中学受験の為の勉強に追われ、私立中高一貫校へ入学できた金持ちのボンボンは遅くとも中2までに公立中学校の全範囲の学習を終え、公立高等学校の範囲の学習へ進んでいきます。私立中高一貫校であれば公立高等学校の範囲に4年間配分できるのですから、例えば数学なら、「数Ⅰ」「数A」を中3のうちに終わらせて、「数Ⅱ」と「数B」に高1と高2の2年間かけ、高3の1年間はひたすら難関大学受験用チャートを解くなんてことができてしまいます。道理で、現役で国立大学へ進学した者のほとんどは金持ちのボンボンなわけです。

 これはまさしくメリトクラシー(教育と就職のシステム)の不公正であり、教育機会の著しい偏りであり、格差の固定化(貧困の再生産)に他なりません。高等学校を5年間に伸ばせば、公立高等学校のカリキュラムにも余裕が生まれます。勿論、余裕を無意味な「ゆとり」にしてしまうのではなく、文系教養科目(現状、一般的な公立中高ではろくに教えていないレポートの書き方に関する科目を含む)及び理系優等生向けの理系専門科目に充てることを前提として考えています。大学入試の現役受験にかけられる年数の比は、今のところ私立中高一貫校と普通の公立高等学校で6:3、つまり2:1です。高等学校を5年間に伸ばせば8:5、つまり1.6:1になりますから、少しは公正に近づく筈です。



Ⅳ 転校の自由

 私の高校生活はつらく悲しいものでしかありませんでした。そもそも公立高校から他の公立高校への転校は学力試験を受けさえすれば可能であるということを知りませんでした。知っていたとしても「残り1年の辛抱だから」と考えて結局は転校しなかったかもしれませんが……。

 そもそも都道府県庁は高等学校間の転校システムをもっと大々的に広報すべきですが、高等学校が5年間に伸びれば、3年生の4月に転校したとしても新しい高校で3年間過ごせます。転校すれば校風となじんで学校生活が楽になる高校生も多いでしょうから、転校の自由を保障する為にも、高等学校を5年間に伸ばすべきです。



Ⅴ 幼児教育・保育について

 繰り返しになりますが、私は大学院生といっても本当に庶民です。幼稚園(一応は学校の一種。文部科学省所管)に通ったことは一切ありません。認可保育所(厚生労働省所管)に通ったことしかありません。幼稚園を考案したフレーベルの狂信者らしい大学教員が保育所を全否定した時はさすがに怒りました。幼稚園と認可保育所を一元化すべきとは考えていますが、認可保育所制度を廃止し全て幼稚園にする方式だと、幼稚園出身がご自慢のエリートの大衆・働く女性への蔑視をますます助長しそうなので、悩ましいところです。「こども園」制度もある今、中身は大して変わらないのですが……。いずれにせよ、働き方・家事育児の男女平等を達成する為には、幼稚園(私立を含む)に対して少なくとも20時までの放課後保育提供義務を課す必要があるということだけは間違いありません。認可保育所も18時までだったりしますが、――勿論、残業は減らし賃金は上げるべきですが――女性が男性に負けず一人前に残業するには少なくとも20時までは開くべきだと考えます。また、一般の幼稚園・認可保育所とは別に、市役所・町村役場は親が夜勤をしている子を対象とした夜間保育所を開設すべきです。私は保育の専門家でも福祉の専門家でもないのでただの思い付きですが、例えば20時から翌9時まで開けるというのでは不十分でしょうか。



Ⅵ 義務教育の拡張

 幼稚園入学(3歳)より高等学校卒業(20歳)に至る17年間を義務教育年限とします。但し、小学校入学前は幼稚園でなく認可保育所でも良いこととします。これに伴い、従来の「短期大学」、「高等専門学校」及び「専修学校高等課程」等は原則として廃止されることとなります。

 一般入試(学力試験)こそ王道です。国公立高等学校も従来通り学力試験を主とする試験で入学者を選抜することとしますが、義務教育に含まれる以上、都道府県庁は、どの高等学校からも入学許可を得なかった者の為の高等学校(言わば、無選抜校)を併せて設置する義務を負うものとします。

 現在の学校制度(六三三四制)に基づく高卒者または「高等学校卒業程度認定試験(高認)」合格者であって高等教育機関を卒業していない者は、任意ですが新しい高等学校の第4学年へ編入学することができます。都道府県庁は、この需要に応える為の体制整備の義務を負います。



Ⅶ 総括

 今回の私案の提示は、ひとまずここまでとします。荒唐無稽と感じられた方もいるかもしれませんが、北欧には大学まで義務教育にしてしまった国さえあります。義務教育を伸ばす(高等学校を5年間に伸ばす)代わりに大学進学率は制限し、企業に大卒者雇用税を従量課金することで高卒者でも出世できる社会に戻すということも考えられますので、ぜひ御検討ください。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?