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マッチングアプリやってみたけど、人との交際には向いてなかった。

マッチングアプリを始めた。
出会いを求める異性を引き合わせるための例のアレだ。
その時の私は、なんとなく時間があって暇つぶしに始めたのかもしれないし、社会人になる前に交際というものを経験しておくべきなのではと思ったのかもしれない。もしくは、大型犬の飼育は独り身には難しい(私はラブラドール・レトリーバーといつか一緒に暮らしたいと夢見ている)と危惧したのかもしれないし、恋愛の楽しさを謳う広告に嫌気が差してヤケになって始めたのかもしれなかった。
どれかひとつ明確な理由があったと思うのだが、今となっては全てが薄ぼんやりと理由として存在している。
はっきりした理由は、今となっては思い出すことができない。

マッチングアプリに向いてない

「マッチングアプリ」と検索して、上の方に出てきたやつを適当に選んでダウンロードした。何回も広告でみたことのあるのでメジャーなアプリだったと思う。それは目を引くピンク色をした可愛いアイコンで、見る人が見れば一発でマッチングアプリだとバレてしまうなと他人事のように思った。

マッチングアプリに対して忌避感を抱いていたはずなのに、ダウンロードしてからはスムーズだった。私はアプリの指示に従って着々とプロフィールを完成させ、異性との遭遇に備えた。
プロフィールを作成するに当たって、私は個人情報の流出を最低限にとどめようとした。名前はイニシャルだけにしたし、顔写真は載せなかった。後ろ姿と食べ物と猫の写真を選ぶと、アプリに「マッチング率が上がるから顔写真を載せたほうが良い」と何度も言われた。全て無視した。そんなことは分かっている。

自己紹介の文章は、アプリが自動生成してくれたのを少しいじって終わった。穴埋めで読書感想文を完成させてくれるドリルみたいだった。
文章を書くのは苦手だけど出会う熱意はある人、出会いのためにわざわざ文章を書くのが面倒な人、それぞれに分け隔てなく出会いの機会を与えているなと思った。

その他にも、自分の趣味嗜好に当てはまるカードをブッキングしておいて、共通するカードが多い人を探せる機能もあったりした。マッチングアプリを作っている会社もなかなか頑張っている。

正直、プロフィールをいじっている時が1番楽しかった。

ところで、マッチングアプリの男女比は偏っているとは聞いていたが、本当に偏っている。ものすごく偏っている。どれくらい偏っているかというと、顔写真のない私のところにもそれなりにいいねが来る。私がどんな顔してるのか分からないのに、この人たち大丈夫なんだろうかと少し心配になった。
男性は有料で女性は無料なのに、なぜこんなに男性ユーザーが多いのだろうか。

いいねを押してきた人を振り分けていくのだが、この作業がかなり面倒くさい。全員のプロフィールを見ていたらキリがないので、年齢とか共通のカードとかある程度条件を絞ってから作業に取り掛からないと全然終わらない。
決して私がもらういいねの数が多いのではなく、単純に一人一人のプロフィールの情報量が多いのだ。私と歳が近くて趣味がそれなりに合う人なんてこの世にごまんといる。
途端に面倒になっていいねが送られてこない休憩モードにした。プロフィールから他人の人生を垣間見ているようで、辟易してしまった。

いいねの選別作業から解放されたところで、メッセージのやりとりを始めた。趣味のカードやプロフィールから会話を進めていくのだが、これもちょっと面倒くさくなってくる。
複数人と同時並行で会話を進めていくので、誰にどの話をしたのか混同するし、違う人から同じ質問をされるとそれさっきも答えたんだよなあと思ってしまう。
特に「おすすめ」をたくさん聞かれる。おすすめの本、おすすめの映画、おすすめのアニメ、おすすめの漫画、おすすめの観光名所……。どれだけ私は薦めれば良いんだと思って途中からコピペしたやつを送信していた。
マッチングアプリで話すことといえばそれくらいなので、誰も悪くないのだが、何度も同じ話をしていると嫌になってしまう。

この前、ゲーム「NieR:Automata」をマッチングアプリで男性に布教して、購入させたらフェードアウトするのを繰り返した女性がニュースになっていた。
この心理は少し分かる気がする。自分が良いと思っている作品を他へ広めるのは、なんとなく良いことをした気分になる。
アマプラのおすすめを教えてほしいというメッセージは多い。そういう人たちには『ミスト』とか『セブン』、『ゴーン・ガール』、『ファイト・クラブ』といった「有名だけど友人には少々薦めにくい映画」を薦めていた。当初の目的を忘れている。

ここまでは、私がマッチングアプリに向いていなかった話だ。
ここからが、人との交際に向いていなかった話になる。

人との交際に向いてない

私は人と付き合うという行為に向いていなかった。前から向いていないだろうなとは思っていたが、向いてなさを思い知らされた。
以下、向いてない点を簡潔に挙げていく。

一つ目に、電話が嫌いだ。突然鳴り出すスマホで寿命が5年縮む。もう電話が嫌すぎて、家の固定電話は取らないと決めている。
会う前に声を聞いてみたい、どういう話し方をするのか知っておきたいという相手の考えは分かるので、1回目の電話には応じるのだが、それ以降はとことん苦痛だった。
電話をいつ切って良いのか分からない。電話したいならする前に「こういう目的でこういうことを話したいので何時から何時まで電話したいです。」という提案をまずメッセージでしてほしい。寝落ち通話や内容のない通話を会ってもない、もしくは会って数回の人間としたいと思えない。よほど親しくない友人でもないと嫌なのである。

二つ目に、他人を好きになりにくく嫌いになりやすい。熱しにくく冷めやすいというやつである。人の些細な言動に嫌悪感を感じて、好きになるどころではなくなる。

三つ目に、他人との用事を億劫に感じてしまう。予約があるから、約束したから、と己を叱咤して外出している。
アプリのカードに「できれば毎日会いたい」「デートは週1以上希望」とかあって戦慄した。それが正常なのだろうが。

四つ目、人の誘い・提案を断るのが苦手だ。
これは相手に申し訳なさを感じてるのではなく、原因は私の返事の瞬発力の低さにある。人は問われると反射的に肯定してしまう(と私は思っている)。本当に無理な時は断れるのだが、自分が無理をすればどうにかなるなと思って頷いてしまいがちだ。
結果的に約束してしまい、その約束が億劫になるデフレスパイラル。

五つ目、落ち込みやすく、自分に否定的である。
元気な時、私は最強なので自分のことをそれなりに愛せていると思っているが、落ち込むと私は私のことが嫌いになる。とにかく自己肯定感が低いので、自分のことを好きだと言ってくれる人のことを止めたくなる。なんというか、居た堪れなくなってしまう。人の好意を好意的に受け止められるようになりたい。

他にもたくさんあるが、これくらいにしておく。
交際に向いてないとか以前に、人としてわりと問題だし、友人との付き合いにも支障をきたしかねないので直していきたいとは思っている。

ところで、この話には続きがある。

向いてないことが分かったので、アプリを削除することにした。
すると、一件通知が入っている。確認するといいねの通知だったが、それはおかしい。休憩モードにしているのでいいねは来るはずがないし、そもそも通知はメッセージが来た時のみに設定している。
訝しんだが、もう削除すると決めていたのでアプリの不具合だろうと気にしないことにした。
家族や友人にアプリをしていることがバレないようホームにマッチングアプリを配置していなかったので、アプリを探す手間を惜しんでいいねの通知からアプリを開いた。
しかし、様子が変だ。使っていたアプリはピンク色を基調としたUIデザインをしていたが、私のスマホ画面は真っ白になってしまっている。
いや、正しくは、真っ白なトーク画面が表示されている。なぜ、トーク画面が。いいねの通知からアプリを開けばいいね欄に移行するはずだ。そもそもいいねを返していないのにトークが始められるわけがない。
私の混乱を他所に、画面にはメッセージが浮かび上がっていた。
それは日本語ではない、ましてや言語ですらない幾何学模様の羅列だったが、なぜか私にはそれが読めた。


「私は異星からの来訪者。」
「この星の貴方、どうか私と物語を紡いでくれませんか?」


なるほど、人でないならまだ付き合えるかも知れないなと私は思った。
とりあえず、返信しようとキーボードに手を伸ばす。この来訪者に日本語は通じるだろうか。分からない、分からないが、きっと通じ合えるだろうという予感があった。

スマホの白い光が、異星との出会いを祝福しているように、私は思えた。



「マッチングアプリやってみたけど、人との交際には向いてなかった。」

終わり


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