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1冊の本を読んで、美術館の熱が再燃した話

漫画『ブルーピリオド』美大出身の友人の影響で、美術鑑賞が好きになったわけですが、改めて色々書籍を読み直す中で『いちばんやさしい美術鑑賞』に出会い、今まで見えていなかった部分に日が当てられたような感覚がありました。

最近少し美術館から足が遠のいていたのですが、この本に出会い、美術館に足を運びたい欲が大きくなっています(さっそく皇居にある『三の丸尚蔵館』に行ってきます)

『いちばんやさしい美術鑑賞』について

古今東西の著名な作品を取り上げながら、各作品の時代背景や作者について解説をしてくれます。

一方、『パッとみて上手いと感じるか』『手に意匠が現れる』『見たときに良いなと思う、逆に合わないと思うといった感覚が大切』など、初心者が最初用にハードルを下げてくれるところも、馴染みやすいポイントの1つでした。

さっそく書籍の中で紹介されていた内容を、一部紹介してみます。

グエルチーノ ≪ゴリアテの首を持つダヴィデ像≫

誰もが世界史の授業で見たであろうダヴィデ像。

当時の歴史的背景を映す鏡であると同時に、ライトがない時代、細々とした火の光に照らされたダヴィデ像は、大きく威厳を感じさせていたであろうという一節が、非常に腹落ちしました。

好きなものを作るではなく、あくまで権威者からお金をもらい、彼らが喜ぶものを作っていた時代。それだけ威厳のあるものを、権威者が作られたという背景から、より当時の政況を感じ取れます。日本の大仏のようなものですね。

今と違い、電灯などの明かりは一切なかった時代です。美術館の照明が隅々まで当たる《ゴリアテの首を持つダヴィデ》も、蠟燭や油のほのかな灯りを頼りに観ていた当時を少し想像するだけで、かなり変わって見えてくるはずです。
この時代の人たちが目にした作品は、現在我々が美術館で目にするよりも暗い部分は一層暗く、明るい部分はより明るく見えたのではないでしょうか。光が当たるダヴィデの上半身などまさに光を帯びて見えたに違いありません。
それは写真すらなかった当時の人々にどれだけの驚きを与えたのか想像に難くありません。光と影は神の威厳を示すには十分過ぎる効果を持っていたのです。

モネ ≪睡蓮≫

印象派として有名なモネで、時折日本でも展示会が開かれますが、彼の人生や『睡蓮』の背景が非常に面白いものでした。

実は『睡蓮』は何百作品と書かれており、都心から田舎に移り住み、自分の庭を持ったことで、毎日表情が変わる睡蓮を描いたことで生まれたそうです。

モネの中にあって、突出した点数の《睡蓮》が描かれているのには訳があります。四十歳を過ぎ名声も徐々に得てきたモネは自然美豊かな場所を求め、ジヴェルニーに移り住みます。自宅の庭を設計し、そこに蓮池を作りました。つまりモネにとって最も身近な存在が睡蓮だったのです。

また、当時は写真技術の発展によって「目の前の物をそのまま描くなら写真の方が優れている。では、絵で何を表現するのか」という問いにぶつかり、印象派という表現が生まれたという歴史も興味深いものです。

現代でも”AIで綺麗に撮れる!”といった文句が出始めていますが、もし時代は繰り返すとしたら、また新たな表現技法が生まれ出るのではないか、と考えさせられます。

セザンヌやモネが活躍した一九世紀はすでに写真技術が発達しており、目の前のものをありのままに残すのであれば、絵画よりも写真に軍配が上がることは明らかでした。だからこそモネは形態よりも光を画面に表現することを選んだのです。セザンヌはそれをさらに突き詰めたと言えるでしょう。

雪舟 ≪秋冬山水図≫

2年前、世界遺産にも登録されている、中国の黄山を登山してきました。
見える景色すべてが水墨画の世界であり、非常に感動したことを覚えています。

そんな山々を描いた水墨画は、紙と墨だけで描かれるため、非常に保管が難しく、なかなか人目に触れられないそうです。だからこそ、見れること自体が貴重であると。

また、そんな広大な景色を1枚の紙に収めることの難しさも存在します。

カメラで風景写真を撮影する人はよく分かると思いますが、目で眺めたとおりの景色を写真に収めることは大変な難題です。人の両目で同時に見える視界の範囲が、約一二〇度と言われていますが、一般的なカメラのレンズはそれよりも狭い範囲しか捉えることができません。
雪舟の作品は人間の視野を超える範囲を捉え、そして細部(特に画面の脇部分)まで歪みなく描ききっているのです。超広角レンズの映像の経験のない時代に、どこまでも連なる山の風景を想像し、構成し直して五〇センチに満たない画面に描きだした──それが雪舟の山水画なのです。

他にも陶器や日本画、和洋様々な作品が登場し、その作品の素晴らしさ、見方が解説されており、つい興味を持ってしまうかと思います。

これまで美術に興味を持ったことがない方ほど、発見があるかもしれません。

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