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【ネクライトーキー】生きてるだけで悲しい俺たちは

11月にネクライトーキーのライブに行った。いつか行かなければいけないと思っていたから、当日はピンと背筋が伸びる思いで向かった。

ネクライトーキーというバンド、特にギターの朝日さんという方に私はかなり影響を受けている。朝日さんはネクライトーキー結成前にコンテンポラリーな生活というバンドをやりつつ、石風呂名義でボカロPをしていた。

私はその頃から朝日さんが作るものが大好きで、夢中だった。

石風呂として作る朝日さんの曲は可愛くてポップで、そして根暗そのものだった。でも単なる根暗な歌詞じゃなくて、朝日さんの書く歌詞はいつもどこかに大人目線の暗さがねじ込まれていた。それが当時の私にはかなり新鮮に映ったのだ。

一着のワンピースを鎧のように纏って
進むんです 笑うんです
ひとりぼっちでも

君はいなせなガール/石風呂

少女だった私が特に衝撃を受けたのがこの曲。サビは超能力を手に入れて嫌いなアイツを困らせてやるぜ!っていう超ポップな曲で、いかにもボカロらしくかつ少年少女に向けられている感じがした。でもここ、この歌詞だけは絶対に14歳の自分には向けられていないって分かった。鎧のようなワンピースなんて、大人の暗さであり大人の祈りそのものでしょう。大人になったら今なら尚更分かる。

自分たち10代に向けられたサビの裏に、必ずといっていいほど大人向けの悲しさを混ぜてくる朝日さんという人に、当時の私はかなりゾクっとした。背伸びしたい盛りの私には、大人の暗さを怨念のようにねっとりと入れてくるこの曲たちの方が他よりよっぽど誠実に見えたのかもしれない。それが私と朝日さんの出会いだった。


コンテンポラリーな生活での朝日さんは、もっとギラギラとしている。歌詞も暗さというより、皮肉の方が強めだ。スリーピースバンドでゴリゴリやってるのも意外で、こっちはポップさのつまみは大分絞られている。

「俺は異端になるんだ」って
斜に構えていたって
誰も見ちゃいないんだよな

ハスキーガール/コンテンポラリーな生活

石風呂よりももう少し皮肉的で、暗さ年齢もちょっと上がっている感じ。ポップさを抑えて、怒りとか悔しさとかやるせなさとかを多めに出していくコンポラのこともかなり好きだった。

ボカロPとインディーズバンドでの棲み分けの凄さとかはずっと言われているし、それは私もマジですごいと思う。けどやっぱり私は朝日さんの書く歌詞がずーっと暗いのがいい。安心する。死に向かっていく暗さじゃなくて、明るい人間になれない癖に自分の拙さや不器用さにいちいち落ち込む人間の暗さ。その温度感をずっと変えずに曲を作り続けてくれているのがすごいし、私は何度も救われている。

コンポラは(コンポラだけじゃないんだけど)大人になるにつれてどんどん好きになるバンドだと思う。

私含め根っこが明るくない人間というのは、社会という荒波に出るとありとあらゆることに落ち込む。この世には根っこから明るくて、私がいちいちイライラしたりクサクサしたりしていることを全く気にしない人間が多くいる。そんな人の分母の多さと自分の後ろ向き具合を知るたびに体調が悪くなってくるのだ。それでもっと内に篭りたくなってノイズキャンセリング付きのイヤホンをつける日々である。

この「彼女はテレキャスターを手放さない」という曲は、そういう大人になってしまった私たちの歌だって信じてる。

瞼の裏にイメージ焼き付けて
それの通りにいかない僕らの外側を
もう半分以上は諦めてるけど
「意味じゃないし形じゃないんだ」って

彼女はテレキャスターを手放さない/コンテンポラリーな生活


人生はどうにも上手くいかない。イメージした通りにいった試しはないし、周りは全員上手にやっているような気もする。

でももうそういう話じゃなくて、人生っていうのは多分こうやって淡々と続けていくことに意味があってやるしかないってそういう風に思って起きたり眠ったりする。

でも悔しい、情けない。コンポラの歌はいつもそういう「上手にできない方」の人たちの方を向いている。それに何度も助けられた。

あと石風呂として作られた曲は、リアルな暗さをサビには持ってこないことがほとんどだったのに、コンポラではサビで何度も大きな声で歌ってくれるのも嬉しかった。やっぱり朝日さんはすごい。


2017年にネクライトーキーが結成された。もっさという女の子をメインボーカルに迎えての始動だった。全くの的外れだったら申し訳ないけど、ネクライは石風呂とコンポラを上手に溶かしたような魅力があった。

ファーストシングルの「タイフー!」なんて、ポップでキュートで最高。キーボードとリードギターが可愛い。ネクライトーキーは、今まで朝日さんがやってきたバンドになかった聴いててニコニコしちゃうような可愛い曲が多い。

でも、ただのポップソングじゃない。だって俺たちのリーダー朝日さんが作っているから。

闇の中から手が届いたら
それはそれで僥倖
金がなくとも愛があるじゃない
それだけこそが最高!最高!最高!

タイフー!/ネクライトーキー

あーーー良い。ラスサビの前にこの歌詞をねじ込んでくれるのが朝日さんで、これを入れずにはいられないこの人の精神性を私はどこまでも愛しているのだ。


ネクライトーキーは全員引くほど楽器が上手い。キーボードの音が常にデカくて、それなのに裏でベースも動き続けている。各人のソロもかなりあって、コピーしようと思うとクラクラしてくる。

生で観たネクライは本当に凄かった。音源通りの演奏も当たり前のようにできるし、ライブバージョンのキレも最高で、2時間ずっと音圧と音数でぶん殴られている感覚だった。

ネクライトーキーは、朝日さんはダサいことはしない。根暗でカッコつかないところも結局は全部圧倒的な音量でカッコよくしてしまう。それが朝日さんの才能で、それをバチコンとはめてしまうメンバーの才能でもあるのだと思う。

鬱屈とした精神をあくまでポップに昇華させる凄さとか、全員を黙らせる演奏とか、そういうのにビリビリとさせられる。でもMCは全員たどたどしくてそれも含めて最高だった。これぞ俺たちがずっと信じてきた朝日という男が作ってるバンドだよな。

私たちはカッコ悪い。陰気で側から見たらどうでもいいことにいちいい傷付いたり怒ったりする。生きているだけで悲しいような、そんな夜の方が多いちいさな人間だ。

でもこういう人生にずっと石風呂さんのような、コンポラのような、ネクライのような音楽があるからヘラヘラと生きていられるのだ。

全員、ネクライトーキーを聴いてほしい。完璧な演奏に気持ちよくなったり歌詞を聴いてぐっときたりしよう。お酒も飲んじゃおう。そうやって明日も生きよう。


最後に私が一番好きな曲を紹介して終わりにします。18歳の私が実家のベッドの中で何度も何度も聴いた曲です。

ひとりぼっちでまた進めるかい
あぁ ずっとずっと遠くまで
大丈夫 僕らすぐ行くよ
そして一緒に戦おう

涙を拭いて/ネクライトーキー

私たちってあんまり人生に上手くやれないけどさ、こういう曲と一緒に朝とか夜とか繰り返していこうね。

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