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仏教を知るキーワード【12】輪廻 ~因縁によって生滅変化する心の流れ~

不滅の霊魂が死後も生存して生まれ変わるのではなく、瞬間ごとに心の流れが生滅する

輪廻(りんね)とは「因縁により生滅変化する心の流れ」である。

一切の現象は絶え間なく変化する。いまの現象から瞬く間に別の現象が生まれる。我々の心も激流のように変化し続けている。死後「輪廻する私」「魂、霊魂」などどこにもあるわけではない。行為と結果の織りなす心の流れが不断に消滅変化しながら流れ続ける。ただ我々の認識の錯覚によって「私」という実感が絶えず合成されるだけである。その合成の連鎖によって、一貫した「私」が捏造される。実際には、そうして作られた「過去の私」も刹那刹那、また新たな因果の流れの因となっているのだ。物事がそのままあり続けることも、完全に消えてしまうこともありえない。ただ、激しく変化し続ける。「実体」といえるものが何もないからこそ、輪廻という現象が成り立つのだ。

ブッダは「輪廻からの解脱」を説いたが、「輪廻を否定」したわけではない。「死後の生存」などについて「無記」を貫いたとされるブッダだが、その沈黙は不可知論とは関係ない。真理の立場からは、「魂の移転」のような実体論を前提とした「死後の生存」は成り立たないゆえに相手にしなかったのだ。

輪廻とは死後の話に限らない。我々は、またたきさえガマンできない。少しでも息を止めたら、苦しくてたまらないはずだ。認識の次元において、我々の心身には苦というエネルギーが渦巻いており、その苦を避けるために、絶えず動き続けなくてはならない。しかし、苦を避けた先もまた苦だ。生きるとは、「苦から苦」へと逃げまわることに他ならない。仏教はそのキリのない苦の連関も「輪廻」と呼ぶ。肉体の死は苦の循環の終わりではない。仏教徒にとって、死も新たなる転生も福音ではない。ブッダが説く「輪廻からの解脱」こそが、生命にとって唯一の福音なのだ。

※『総図解 よくわかる 仏教』(2011,新人物往来社)に寄稿した原稿を再編集して掲載していきます。
※ 2023年9月22日にアップデートしました。

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