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2023.12.9 伊丹十三のエッセイ


 引っ越しは一人暮らしを始めた時から数えたら五回している。新しい土地に行くと、最初に探すのはスーパーと図書館だ。
 記憶の最初にある図書館は小学校の裏にあった。その図書館でわたしは、はだしのゲンや性教育の本や料理の本や児童文学を読んだ。友だちのお母さんが受付にいて、当時は本のうしろに小さいポケットが付いていて、そこにカードが入っていた。
 高校生の時、学校の中の図書室に一緒に行ってくれる子はいなかった。地元の図書館は小学校の裏にあるのと、隣町にある図書館が大きくてきれいなので、まだ実家に住んでいた頃は車でそこまで行っていた。
 住んだ街の図書館の感じを全部覚えている。駅のすぐ前というか、繋がった形であった図書館、同じ店で働いていた子を偶然見かけた図書館。今住んでいる市の図書館は、大きいのが離れた場所にあって、近くに中くらいのがある。
 その街それぞれの図書館で、自分がどういう気持ちで本を選んでいたかはあまり覚えていない。借りて読んだけど途中でやめてしまった本を、今読んだらどんな風に読むのだろう。
 スーパーは、規模から品揃えから、それぞれ違っていて、店員さんの雰囲気、天井の高さ、照明の明るさ、魚とか肉の鮮度、値引きされた商品が集まったワゴンの有無、店内放送の音楽があればどうしても口ずさまずにはいられない。
 置かれている焼き芋の位置や甘さも気になるところ。ほくほく系なのか、ねっとり系なのか、細いのが何本か入っているのか、太いのが一本入っているのか。
 わたしはベビーホタテが好きでよく食べるので、各スーパーの値段と鮮度は気になる。小麦粉や強力粉などの粉類は、全粒粉はあるか、バイオレットはあるか、コーングリッツはあるか、ベーキングパウダーは個包装の物がありがたい、丸い缶に入ったやつはいっぱい入っているけど使っているうちに下の方が固まってきてしまう。

 一人暮らししていた時、休日に街の図書館に行くのが楽しみだった。一人で行って、今日はなにを借りようか、三冊も借りて読み切るだろうか、いろいろ考え選んだ本、いとうせいこうさんとみうらじゅんさんが仏像を見て回る本、伊丹十三のエッセイ、借りて読んだことは覚えているけど、なぜ借りたのか覚えていない。『タンポポ』とか『マルサの女』とかはテレビで昔よく放映されていた記憶がある。伊丹十三が大江健三郎の義兄というのは最近知った。
『スウィートホーム』って映画、古舘伊知郎の腰から下が無くなるの、怖かったなあ。今調べたらあれは伊丹十三は出演者に名前はあるけど監督は黒沢清となっている。
 伊丹十三のエッセイで覚えているのは、トイレに行って、用を足したあと、ズボンのベルトをしっかり閉めないまま、トイレを出る人が、信じられない、と書いてあった、と思うのだけど、うろ覚えである。それを読んでからわたしは、トイレに入るたびに、毎回というわけではないけど、よく伊丹十三のことを思い出す。
 ちゃんと、身支度を調えてから、トイレを出ること。

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