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顕在化し始めたウクライナ侵攻における不都合な真実

ロシアによるウクライナ侵攻は、ロシア側にとって有利な戦局となりつつある。これまでのウクライナ侵攻の経緯も振り返りながら、そう思われる理由について以下説明したい。

1.これまでの経緯

2022年2月に始まったウクライナ侵攻当初は、ロシアの圧倒的な軍事力を前にゼレンスキー政権は早々に降伏しロシアの傀儡政権が誕生するものと思われた。(戦力比較の詳細データは下記リンクご参照)。


https://www.asahi.com/articles/photo/AS20220227000205.html?iref=sp_photo_gallery_2

だが、士気を高めたウクライナ軍の善戦と、指揮系統や統率力の乱れ、地上戦に意外と弱いロシア軍の苦戦が目立ち、短期戦で終わるかと思われたウクライナ侵攻は長期戦と化し、現在に至っている。そして間も無くこの2月末に3年目に突入しようとしている。

なぜ軍事力(兵士の数・兵器の数)で圧倒的に劣るウクライナがここまで善戦することができたのか。

理由は様々だが、欧米諸国から最新の装備の支援があったことと、兵士の士気(モラル)が高かったことが重要な要因であったと考えている。

ウクライナはNATO諸国対ロシアの戦争を防ぐための「盾」として、代理戦争を最前線で担う役割を引き受けた。こうしてNATOから継続的に武器・防具の援助を受け、徹底抗戦を行うことができた。

方やロシアは、利用可能な武器・防具はロシア国内における旧ソ連軍の旧式装備のみとなり、兵力の数では勝れどその質では劣る状態が続いた。

ロシアの軍需力は装備だけでなく、兵士の士気についても劣っていた。ロシア連邦内のチェチェン共和国等出身の兵士や、ワグネル所属の傭兵兵士たちでは指揮系統をうまく統一できなかった。

一方でウクライナはゼレンスキー大統領の下、国民が統一しこの戦局を乗り切ろう、という士気が高まった。

加えて、ブチャの虐殺のような悲劇を経て、ウクライナの国民におけるロシアへの憎悪が高まり、さらに士気が高まったと見ている。

勝手な推測ではあるが、もしかしたらウクライナ国民は、侵攻当初は「ロシアとの停戦条件として、ドネツク周辺の領土一部を与えること」も妥協案として抱いていたかも知れない。だが、こうした妥協案も、ブチャの虐殺を始めとする悲劇により「あり得ない選択肢」となり、停戦条件は「ロシアによる完全撤退」しかなくなってしまった。

このような形で2年弱続いてきてウクライナ侵攻だが、ここに来て戦局の変化の兆しが見えつつある。しかも、ウクライナおよび西側諸国にとっては悪い方向にである。

これまでの2年間の戦争で見られた、「欧米諸国からの支援」「ウクライナ軍の兵士の士気」に変化が見られるのである。

2.欧米諸国(特に米国)からの支援

長期戦の前提である欧米諸国からの今後の軍事力の供給については不透明感が増している。

EUによるウクライナ支援は24年2月1日に決定されたが、成立に至るまでの過程ではハンガリーが反対の意向を示すなど、EUがウクライナ支援に対し一枚岩ではないことが窺えた。

また、最大のウクライナ支援国である米国の雲行きが怪しい。共和党により支援の継続が否決決される可能性は残存している。

加えて「もしもトランプが大統領になったら」のシナリオが現実味を帯びてきたことである。トランプ氏はプーチン大統領と親しい関係にあるとされている。トランプ氏はウクライナ侵攻直後から「プーチン大統領は天才だ」といった賞賛の言葉を投げかけたり(その後、すぐに不適切発言をしたことに対し反省の弁を述べたが)、「私ならば即座にロシアとウクライナの戦争を停戦に持ち込める」といった発言を述べていた。

上記のように、EU諸国が一枚岩とは言い難いことと、トランプ大統領の誕生を期待してか、米国人ジャーナリスト(保守層、共和党支持層がよく視聴するFOX テレビ所属)とのインタビューで、プーチン大統領は自信と余裕を見せた発言を繰り返した。

プーチン氏はウクライナを巡る停戦協議に繰り返し意欲を示した。米国に対し「ロシアと交渉した方がいいのではないか」と提起した。実効支配しているウクライナ領を割譲する「協定を(ロシアと)結べばいい」と語った。
米政府とは「様々な機関を通じて接触している」と強調。「本当に戦いをやめたいのなら(ウクライナへの)武器供与をやめる必要がある」と訴えた。
停戦協議を「拒否したことはない。準備ができている」と明言した。ウクライナのゼレンスキー大統領に「あなたは交渉のテーブルにつくよう言うべきだ」とカールソン氏に促した。ウクライナ側が協議を拒んだのは米政府の指示があったとの見方も示した。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN091T70Z00C24A2000000/

もし、トランプ氏が大統領になればウクライナに対する米国のスタンスは一気に変化することが予想され、停戦の仲介役を務める可能性が高い。そしてそれこそが現在、プーチン大統領が望んでいるシナリオだろう。

3.ウクライナ軍の兵士の士気の変化

ゼレンスキー政権の支持も盤石ではなさそうだ。

「2023年中に奪われた領土を奪還する」と宣言したゼレンスキー大統領だがその宣言通りに進まず、硬直した戦局が続いている。約束を果たせなかったことで、でゼレンスキー大統領に対する国民の信頼も揺らぎつつある。

その最中で、国民からの信頼が厚いウクライナ軍のトップ・ザルジニー総司令官をゼレンスキー大統領は解任した。ゼレンスキー大統領が次期大統領選の再選を目論む中、国民から人気を集めるザルジニー総司令官が大統領選にでも出馬したら、ゼレンスキー大統領にとって脅威でしかない。「もしもザルジニー総司令官が大統領に出馬したら」リスクを抹消するため、ここで手を打ったのだろう。

しかしながら、多くの戦績を残したザルジニー総司令官を解任したことは、ウクライナ軍の士気の低下、さらにはゼレンスキー政権の支持率の低下をもたらす可能性がある。この解任の決断が吉と出るか凶と出るかはわからないが、少なくともゼレンスキー政権も国内で盤石な支持を得ているわけではないことは確かなようだ。

以上、欧米諸国からの支援継続が不透明なこと、ゼレンスキー政権の国内における支持が盤石ではないこと、から、戦局は徐々にロシアに有利に傾きつつあるように思える。

嫌なシナリオが現実味を帯びてきたことに対し、目を背けず向き合わなければならない。


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