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「ネット興亡記 敗れざる者たち」を読んで起業のヒントを学ぶ

今となっては大手となったIT企業の起業当初の秘話や、日本ではどうやって・誰がインターネット産業を作ってきたのか、が学べる名著「ネット興亡記」を読んだ。

サイバーエージェント、インターネットイニシアティブジャパン、楽天、NTTドコモのi-mode、Yahoo! JAPAN、ソフトバンク、ライブドア、LINE、mixi、アマゾンジャパン、Facebook日本法人、メルカリ、USEN、GMO、そしてこれら企業の中で頻繁に登場する村上ファンド等が、無名だった時にどんな事業を行い、どんな逆境を味わい、どうブレークスルーしてきたのか、を学べる大著である。
自分自身も実際にお会いしてお話をしたことのある方が数名登場してきているが、その方々の尖っていた頃の様子を知ることができて少し嬉しくなった。インターネット勃興期、まだネットビジネスが海のものとも山のものともわからず、参入障壁も低い時代、「やらなければ自分達がやられる」という環境で生き残ってきたその方々は今となってはすっかりカドがとれ、弱者に優しい強者となっている姿しか知らなかったが、やっぱり昔は怖い人だったんだ、という様子を本作品から読み取ることができた。

本作の名場面といえば、サイバーエージェントの上場直後、会社乗っ取りの危機に瀕した際のUSEN宇野社長による「お前の会社なんていらねえよ」発言(とその後の急展開)、楽天市場で成功したよなよなエールが楽天の林亜紀子氏の二人三脚で掴んだ成功、ライブドア事件で逮捕されたホリエモンの出所後、元社員がホリエモンにあてた感謝の手紙、などなど枚挙にいとまがないのだが、今回の記事は題名の通り少し趣旨を変え、特にサイバーエージェントやライブドア、楽天、メルカリの事例から個人的に読み取ることができた起業時のヒントのようなものを以下数点、記載していきたい。

1.最初は受託ビジネスから無理なく始めている(サイバーエージェント、ライブドア、電脳隊、創業初期の三木谷会長)

サイバーエージェントは実は最初は「インターネット業界の大塚商会」を掲げる営業代行業務を行なっており、広告事業に参入したのはしばらく経ってからであった。ライブドアや電脳隊についても、ホームページ制作代行等の外部委託を受注する業務を創業当時の生業としていた。また、楽天の三木谷会長は、楽天市場を開始する前の個人事業主時代はコンサルティング業務を行っていた。いずれもまずは起業または独立し、自分の手で食べられるようになった上で、さらに事業をスケールする次の段階に移行するためのビジネスチャンスを虎視眈々とうかがっていた。そのあたりの様子が端的に記載されている本書の記載を以下、抜粋しておく。

"ホームページなどの受託の事業は、それを作る頭数に比例して事業が大きくなる。基本的にはそれ以上にスケールする、つまり事業規模が広がることはない。堀江は上場を機に取り入れたM&Aという手法で、指数関数的な伸びを期待できる事業のタネを探っていた。それがポータルサイトだったのだ。
これは当時、インターネットで起業したものたちの多くが直面する課題だった。下請け的な受託の仕事ではいつまでたっても大きな成長な望めない。堀江の盟友であるライバルである藤田晋も、他ならぬ堀江とのタッグでクリック保証型広告システムに進出したのを機に念願のメディア事業への業容を拡大させて、営業代行という受託業から脱却した。電脳隊も、シリコンバレーでたまたま出会ったモバイル・インターネットに魅入られて業態を転換したことヤフーでの活躍につながった。"

(ネット興亡記より抜粋)

ここでお伝えしたいのは、「最初は受託代行とか地味なビジネスでもいいんじゃないか」ということだ。現在、巷ではインスタ代行、ウェブライティング、ホームページ制作代行、映像制作代行等の代行業が溢れており、いずれも「個人事業主が手がけるビジネスの範囲内で、スケールしない」と言われがちな代行業であるが、むしろサイバーエージェントやライブドア等も実は創業当初はその地味でスケールしない代行業をやっていたのだ。だから、まずは代行業をやって自分の手で稼ぐという経験を積んだ上で、次の事業に展開していくという考えは大いにあり得るのではないか。今代行業をやっている方の中からも、将来大きなビジネスに成長または事業モデルを転換させていく人たちが出てくることも大いにあるだろう。本作品を読んで、代行業に対する見方が大きく変わった。

2.自分の得意なことから始めている(サイバーエージェント、ライブドア、楽天)

サイバーエージェントの藤田社長はインテリジェンスの新入社員時代、トップの営業実績を残し、また自分自身も営業が好きだということで、自分の得意分野である営業代行ビジネスから事業を着手した。ライブドアの堀江元社長も、学生時代にハマったプログラミングのスキルを活かし、ホームページ受注代行業から事業を開始した。楽天の三木谷会長は創業当初、楽天市場以外にネットビジネス以外の事業構想を持っていたが、「自分は飽きっぽいが、インターネットなら飽きることなく新たなビジネスが出てくるので飽きることなく没頭できる」との理由でインターネット事業を開始した。その他、電脳隊やメルカリ創業前の山田会長も然り、自分の得意分野から事業を開始している。

3.他人のアイデアをパクる・参考にしている/他人の事業を買収している(サイバーエージェント、楽天、電脳隊、ソフトバンク、ライブドア)

サイバーエージェントはクリック保証型広告モデルを他社のビジネスからヒントを得て開始した。楽天はその事業アイデアを、米国のViaWebから着想しして楽天市場を開始した。電脳隊はたまたま原宿の九州じゃんがらで知り合った留学生から紹介された米国シリコンバレーのスタートアップのビジネスモデルから着想を得て、「これからはモバイルの時代だ」と確信した。ソフトバンクは言わずもがな「タイムマシン経営」の下、米国で流行る日自演酢モデルを日本に持ち込んでいた。ライブドアについては、経営破綻したポータルサイト「ライブドア」を買収したことで、受託事業からB2Cのポータルサイト事業に大きく舵を切った。いずれも会社も、法人としての会社の立ち上げはゼロイチを経験しているがその事業アイデア自体は必ずしもゼロイチで創業者が作り出した者ではない。既にある程度立証されているビジネスモデルを少し改良して良くするか、または徹底的にパクって殴り合いをして勝つか、といったスタイルで事業を育ててきた。

4.最初は多額の資金を他人から調達せず、ブートストラップで身の丈にあった成長をしている(登場するほとんどの会社が該当)

自分自身が金融機関に勤務しているという都合上、「インターネット黎明期に金融機関/投資家はどのような支援をして、起業家を支えてきたのか」という観点から読んだ印象としては「重要な役割を担った役回りの人もいれば、金を取り立てるだけの嫌な役回りで終わった人もいる」という感想に終わった。
インターネットイニシアティブジャパンの創業当初の鈴木社長に「あんたの顔は失敗する人の顔じゃないね」といって銀行保証を入れた三井住友銀行の役員とその部下の副支店長、GMOがノンバンク買収後に利息過払金問題の影響を受け、急速に自己資本比率が低下し身売りの危機があった際に支援の手を差し伸べたあおぞら銀行、そしてライブドア事件直後にライブドア解体の道ではなく再生の道を主張し支援したアリックス・パートナーズ等、金融面から企業を支援する事例はもちろん複数あった。だが、それ以外には基本的には起業家の立ち上げ当初から出資を行い、一緒に成長してきたベンチャーキャピタル的な投資家はほとんど登場しなかった(※メルカリは創業当初からVCが資金を入れているが、創業者の山田会長がその前に立ち上げたウノウは山田会長のほぼ個人事業であり、おそらくウノウ立ち上げ時からVCは資金を入れていなかたっと想定される)。

この理由としては、本作で登場した企業のほとんどが、創業当初は受託業といった地味かつスケーラビリティが期待できないビジネスモデルであったこともあり、ベンチャーキャピタル等投資家の間尺に合わなかったであろうことが挙げられる。だがその結果としてか、楽天もサイバーエージェントもライブドアも、急速なスケールを嗜好する外部マネーの意向に左右されることなく自分達の意志で事業を拡大させていくことができたし、また最初から外部投資家による歪な資本構成になることを防げたことも事実だろう。

というわけで、今となっては日本を代表する華々しいインターネット/テクノロジー企業の創業秘話から学べたことは「最初は地味でもいいから自分の得意なことから始める。よいアイデアがあったら徹底的にパクる。無理に他人の資本を入れない」という、意外にも地道な内容であった。

「ネット興亡記」については「敗れざる者たち」以外にも出ているので、今後も引き続き読んでいきたい。


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