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医療現場における家族説明の心得

基本的には病気の説明は患者さんに行います。
患者さんが、どこまで知りたいか?に応じて説明する内容を調整します。
もちろん、家族にも説明を行います。

さて、医療現場における家族説明の時にどんなことを考えているのでしょうか?

記載している内容は、多くの医療者にとって、「当たり前やな(・ω・)ノ」という内容が多いかもしれません。「そんなこと、考えんわ~」と言われる方が居られないことを祈ります(-人-;)

家族説明を行うタイミング

大きく分けて2つの場面があります。
前提として、患者さんの治療方針が左右されるような伝えるべき内容があります。(重大な知らせです。悪いことも良いことも含めます。)

  • 患者さんが家族と一緒に聞きたいと思っているとき

  • 患者さんの状態が悪く、本人に伝えられないとき

  • 患者さんが話し合いに参加できず、家族内で意見が対立しているとき

などが挙げられます。

患者さんの状態とは、例えば、誤嚥性肺炎のため酸素化が悪くリザーバーマスクで酸素投与中である、(何らかの病気で)昏睡状態にある、などです。
患者さんが話し合いに参加できないとは、病状もそうですが、認知症が進行しすぎてコミュニケーションに難渋する、患者さん自身が話を聞きたくない、などです。

来てほしい家族は誰なのか?

「家族」と表現していますが、法律上の家族、というわけではありません。
患者さんとの関係が最も強い方を指しています。医療現場では、キーパーソンと言うことが多いでしょう。

厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」では下のように明記されています。

家族等とは、今後、単身世帯が増えることも想定し、本人が信頼を寄せ、人生の最終段階の本人を支える存在であるという趣旨ですから、法的な意味での親族関係のみを意味せず、より広い範囲の人(親しい友人等)を含みますし、複数人存在することも考えられます。

https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10802000-Iseikyoku-Shidouka/0000197702.pdf

医療者が想定している「家族(キーパーソン)」とは、両親や兄弟姉妹、配偶者、子どもだけでなく、友人、内縁関係、近所の人などが該当します。

家族説明の難易度をあげる5要因

患者さんへの説明と同様に、家族に説明をするときも難しさを感じることがあります。それは、家族各々が抱いている気がかり・心配事があり、家族各々の感情・価値観があるからです。
家族面談を難しく感じる背景には5つあります。

  • 家族内の複雑な関係
    例)疎遠関係、ネグレクト、家庭内別居状態など

  • 家族内の複雑な利害関係 
    例)金銭絡み など

  • 家族内の混沌とした感情
    例)「好き勝手に生きてきてなんで私が面倒を見なきゃならないの!」

  • 家族内で受け取った情報の解釈が異なる

  • 家族内で意見が異なる
    例)〇〇してほしいという内容に対する意見が対立する

家族面談の前に知りたい2つのこと

それは、①患者さんと家族の関係と②物事の決定方法です。

 ①患者さんと家族の関係
順風満帆な家庭もあれば、そうでない家庭もあります。その家族の状況によっては話しにくい内容かもしれません。「大事な話をしていく前に、患者さんとご家族の関係がどうだったかを知りたいと思っています。」と言葉を添えて、

  • 「これまでの生活では、患者さんが物事を決めてこられましたか?

  • 「家族と話し合いながら決めてこられましたか?」

  • 「仲が良かったですか?それとも…?」

スムーズに話してくれる家族もあれば、言葉数が少なくなる家族もあります。話されない家族であれば、全員がそうではありませんが、「あまり良好な関係ではなかったかもしれない…かも」と察します。

②物事の決定方法
家族の中でどのように物事を決めてきたか、を確認します。

  • 「物事を決めていくときに中心となる人は誰ですか?」

  • 「治療方針を決めるときに必ず参加してほしい人はいませんか?」

  • 「物事を決めるときは皆さんと話して決めますか?それとも意見を決める方がいますか?」

家族の関係は、長い時間かけて築かれてきたものであり、その関係性をもとに、重要事項を決めていくことになります。病気のことだけ別の人が決める、ということはあり得ません。

①や②の内容は、医師だけが確認する必要はありません。看護師さんやリハビリの人、ソーシャルワーカーさんなど、いろいろな人が尋ねてよい内容です。

家族説明の2つの心得

心得1「偏らない。平等に」

家族面談時に大事なポイントは、「偏らないこと、平等であること」です。
前述のように、家族内抱いている気がかり・心配事、感情・価値観は異なります。どちらかに肩入れすることはないように、平等に対応し、中立な立場を築くことが重要です。もし、家族内の意見が異なっている場面であれば、意見の不一致を指摘することが望まれます。違う点を明らかにして、話し合うポイントを整理することができます。

心得2「家族のつらさを忘れない」

医療現場では、患者さんが話せない状況であれば、家族に意見を求めます。ただ、代弁する家族は相当つらいのです。時として医療者は忘れています。
医療者が気をつけなければならないpit fallを2つ挙げます。

①家族にどうしたいかと尋ねてしまうこと
延命治療に関する内容を、「(家族に対し)どうしたいですか?」と尋ねてしまいます。これは、たいていの場合は誤りです。
家族にとって、大切な家族の生死にかかわることを決めなければならない重責を感じるものです。現場では、家族の頭の中が、「患者さんだったら」という考えから「自分たちのために」という考えに変わってしまっていることを経験することがあります。
「患者さんが話せるとしたら、どうしたいと言われると思いますか?」と問いかけることで、患者さんはどう思うかと、家族が患者さんの思いを代弁しやすくなります。このような問いかけで、家族の代弁する重責を和らげることが可能になります。

家族は、大事なことほど、家族内で話し合いたいと思っています。医療者は「キーパーソンが決める」という考えのもと、そのキーパーソン1人に意見を尋ねます。1人だけで決めることの方が重責を感じるでしょう。忘れたくないのは、決して意思決定する家族は1人だけである必要はないということです。
キーパーソンは、あくまでも家族の代表者であって、必ずしも治療方針の決定権を持つ人というわけではありません。できるかぎり、「他のご家族とも話し合いながら考えてください」と促したいものです。

前述のとおり、②物事の決定方法にも記載した通り、家族内の物事の決定方法を事前に知っておくと、医療者も声掛けしやすくなりますね。

②介護による家族のストレスを軽視してしまうこと
大切な方が病に伏して、看病する家族は、心身ともに疲弊しています。常に不安と恐怖と隣り合わせである場合もあります。

患者さんが入院したとき、頻回に見舞いに来たり心配で電話をかけたりする家族は、「熱心な家族」と言われることがあります。それに対し、見舞いにそんなに来ない家族は、「熱心な家族」とは言われません。見舞いに来る回数や病院に電話する回数で、熱心か否かを判断することはできません。

医療者にお願いしたいのは、異なる家族と比較しないでください。家族も各々の生活を持っています。その生活の中でできることが違うだけなのですから。

まとめ

1.家族説明を行う3つのタイミング
 ・患者さんが家族と一緒に聞きたいと思っているとき
 ・患者さんの状態が悪く、本人に伝えられないとき
 ・患者さんが話し合いに参加できず、家族内で意見が対立しているとき
2.患者さんが来てほしい「家族」を特定する
3.家族説明の難易度をあげる5要因
 ・家族内の複雑な関係
 ・家族内の複雑な利害関係
 ・家族内の混沌とした感情
 ・家族内で受け取った情報の解釈が異なる
 ・家族内で意見が異なる
4.事前に知っておきたい2つのこと
 ・患者さんと家族の関係
 ・物事の決定方法
5.家族説明時の2つの心得
 心得1「偏らない。平等に。」
 心得2「家族のつらさを忘れない」

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