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【医療】患者・家族との意見の不一致への対応

病気の治療は、患者さんと医療者との間で合意形成された上で進んでいきます。すべての医療現場でどんな時も合意形成があればよいのですが、そうでないことも経験します。

こんな場面を想像して下さい

例えば、がん患者さんの場合です。
これまでさまざまな抗癌剤を用いて治療しても進行していることが分かった状況を想像してください。この時、医療者は「もう、治療できる手段はない。」「これ以上治療を続けることは無理だろう」と思うでしょう。それに対し、患者さんは「〇〇の方法が良いと聞いているから、その治療をしてほしい」と医療者に要望する場面です。

例えば、ICUで治療している患者さんの場合です。
人工呼吸器管理、血液透析などさまざまな急性期医療を施しても、意識はもどらず、呼吸器がなければ呼吸も保てない状態である場面を想像してください。医療者は、「これ以上治療を続けることは無益である」と思っていても、家族は「まだ治療をしてください」と切望している場面です。

意見が一致しないとイヤな気持ちになる

多くの医療者は、先ほどの場面に直面すると「イヤだな」と思うでしょう。医療者によっては「分かってない患者(家族)だな!」と怒り出すこともあるかもしれません。医療者と患者・家族との意見の不一致は、互いに‘イヤ’な感情に包まれます。

医療者の心の奥では、「自分の専門性や能力、資質を理解してくれなかった」と悲しい気持ちになっていることに当人は気づかず、「それはできない」、「あなたの好きにすればいい」とあたかも匙を投げてしまっているような方法をとってしまいます。このままでは、互いに不快に感じ、意見の不一致、対立した状態が続いてしまいます。

※追記(誤解ないようにしたいので…)
多くの医療者は、できるだけ丁寧な言葉で「難しいよ」と表現している場合もあります。それでも、患者・家族には「匙を投げられた」、「見捨てられた」と感じてしまうことはあります。

医療者vs患者・家族にならないためには?

いつの間にか、医療者vs患者・家族となっていることがあります。
(そんなに頻繁には出会いませんよ。)
そうならないように多くの医療者が気をつけていることはどんなことでしょうか?

それは、できるだけ早く医療者と患者・家族の意見の不一致を認識することです。気づくポイントは2つあります。

1つ目は、医療者が説明しても、患者・家族が同じような質問や話をして、同じ説明をしている状態の時です。この場合、患者・家族に何かしら気になるポイントがあるのです。

2つ目は、医療者が「あの患者さん、説明しても理解しない」、「話をそらそうとして話が進まない」などとイライラし始めたときです。もちろん、認知症があって、短期記憶障害によって、30分前のことを忘れてしまって、何度も同じことを聞かれる場面はあります。何らかの病気により、話が進まない、理解できない、というのは除きます。

気づいたときは、

  • その時に話そうとしたこと、行いたかったことは中止する

  • 心に浮かんだ言葉をそのまま言わない

の2点に気をつけましょう。

当たり前のことですが、人間だれしも瞬間的に嫌な感情が発生します。言葉にすると、たいてい相手の悪口に近いものでしょう。反射的に発生する‘その感情’を抑え込む必要があります。
‘悟り’を開ければ良いのでしょう…。
もちろん、当人の身体的・精神的コンディションも影響します。仕事が忙しすぎて、体力気力ともにすり減っていた状態で、自分の感情を抑え込め、と言われても難しいのは皆さん経験することです。意見が不一致な場面を感じたら、できる限りその場から退避しましょう。

「いつもは理解してくれる人がどうしてこのようなことを言うのかしら?」と患者・家族を非難しない表現で自問自答することが、陰性感情を抑え込むポイントになります。

意見の不一致に対処するには?

1.意見の不一致を認識する

詳細は前述のとおりです。普段のコミュニケーションで歯車がかみ合っていないと感じたときには、意識する方が良いでしょう。

2.話を聞かずして決めつけない

陰性感情を持った時ほど、人は話を聞きません。頭に血が上った状態の人ほど相手の話を聞きません。それを防ぐためにも、「いつもは理解してくれる人がどうしてこのようなことを言うのかしら?」と自問自答します。そして、「私たちとしては、〇〇さんにとってbetterな医療を探したいと思っているのですが、そのことについて話をしてもいいですか?」と伝えて話し合います。

3.俯瞰して相手の話を傾聴する

どんなことを心配し、どんなことを恐れているのか。患者さんや家族から聞きましょう。どんなことに対して相手はどのように解釈し、その時に感じたことはどのようなことなのか、また、それがどういう意味があったのかを意識しながら聞いてみると良いでしょう。一度話を聞いて理解できないところもあります。私は、「〇〇についてもう少し知りたいです。教えてください」と素直な気持ちで伝えています。

4.問題点から共通の利益を確認し、互いにある程度満足する選択肢を探る

「〇〇さんは間違っている」などと、正解or不正解を求める話ではありません。医療現場では、正解のない問題が多く存在します。問題点から共通の利益を探し出し、それに見合う方法を一緒に探していきます。

最初の例に挙げたがん患者さんの例であれば、
きつい
 →治療しているけどがんが治らない
 →周りは「〇〇したらがんが治った」と言う
 →だったら〇〇したらきつさが無くなる
 →そうなれば孫と一緒に遊べる
という考えから、「治療してほしい」と希望しているのかもしれません。

がんが進行しすぎて、倦怠感があると理解している医療者にとって、本人の言う治療をすることでよりきつさが出てしまい、本来したい「孫と遊ぶ」ことができなくなると想像していることを共有しましょう。そうすると、「きつさ」があるなかで、本人がしたいことを実現するためにはどうすべきか?という問題を患者さんと家族と一緒に考えていくことができます。

最後に

あらゆる意見の不一致を解決することはできません。第三者に取り持ってもらっても、最終的にけんか別れのようになってしまうこともあります。その場合、むなしさや悲しさ、怒りなどさまざまな感情が残ってしまうでしょう。しかし、患者さんが医療を受けるなかで必要な過程なのかもしれません。患者さんにとって‘良い’と感じ取ってもらえるような医療を探していきたいものです。

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