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「私はなぜ国会議員の道を選んだのか - 市民活動から国政へのチャレンジ」を聞いてみて

はじめに

マレーシアの国会議員の方のオンライン講演会(主催:一般社団法人パリテ・アカデミー、笹川平和財団)を聞きました。
私は多拠点居住の1拠点としてマレーシアを考えているのですが、その際、現地について深く知る必要がある、と感じています。
その一環として、このオンライン講演会を聞きたいと思ったのですが、講演会の内容の概略と、それを聞いて思ったこと、を書こうと思います。
オンライン講演会の詳細は以下のサイトをご覧ください。

講演者のマリア・チン・アブドゥッラさんの略歴は以下の通り。

講演者:マリア・チン・アブドゥッラ氏(マレーシア国会議員)
 女性権利活動家として、30年以上ジェンダー平等に向けたアドボカシー活動に携わる。周縁化されたコミュニティや低所得層の女性など、当事者や現場に根差した活動を牽引してきた。また、マレーシアにおける自由で公平な選挙に向けた選挙制度改革運動「ブルシ」では、リーダー格として活躍。2016年の第5次ブルシ集会直前には、不当に身柄を拘束され、11日間の独房監禁を経験している。
 2018年5月、国会議員に初当選(ペタリン・ジャヤ選挙区)。現在、マレーシアSDGs議員連盟の副代表、および統治改革委員会の委員を務める。
 ペラ州カンパー地区出身。イースト・ロンドン大学で応用経済学を学んだのち、ロンドン大学にて都市計画修士号を取得。

まずはマリアさんのお話の概略を以下、紹介します(日本語同時通訳を元にしています)。

マリアさんのお話の概略

マリア:
私は社会運動をしていました。
女性の社会運動に携わっていました。
その後、マレーシアにおける様々な社会運動に関わったが、英国の社会運動に関わったことがきっかけだった。
マレーシアに戻って最初にやったのは、マレーシアの女性の権利の向上。いくつかの権利獲得につなげることができた。

ブルシ2.0に関わったのは、人々により良い政府のために行動して欲しい、と思ったから。
私は女性と人権、差別と被差別に関することをテーマに活動してきた。
女子差別撤廃条約が求めているのは、形式的平等と実質的平等とがあるが、形式的平等については、男性であれ女性であれ、同じ技能や同じ知識があるのであれば、同じように扱われるべき、ということ。
実質的な平等については、アクセス、平等の機会が与えられているのかどうか、ということ。そして、結果の平等が必要になる。

女性は常に非難されるが、女性には好きなように服装を着る権利がある。どんな時間帯でも外に出て良い。
法律の中には女性の視点が欠けているものがある。
強姦犯にはきちっと刑罰を与えるべきで、立証責任は加害者側にあるべきだ。
お互い同士人間であることを理解してもらうべきで、そういう法案を国会で決めていきたい。
女性はもっと保護を与えられるべきだ、という視点が必要。
一時的、暫定的な制度として、クオータ制が必要。ジェンダーにセンシティブな政策を作れるために。意識の向上のためにも必要だと思う。女性が自信を持てるようにしていく、ということが大事。
今、マレーシアでは、女性のみの議席を作るべきだ、という議論があるが、これには批判もある。最終的には選挙で選ばれる必要があるとは思うが、現在、州レベルで、女性のみの任命される議席、選挙によらない議席が必要ではないか、という議論がある。
永続的な、持続可能な形で人々の生活を変えられるよう活動する。それが政治家としての役割、国家としての義務だと思う。
押しつけられた伝統的な役割ではなく、男女がそれぞれ分担していく。平等に対等に処遇されるべき。
我々の持てる財産についても、永続的な観点から使われるべき。
私としてはまず、学生運動に関わり、地方の選挙に立候補するなど色々な活動をしてきた。
地方活動から尽力すれば議員になれるんだ、ということは自信になる。

2009年、10年に私たちが政党からブルシを引き受けた。
最初のブルシは政党が主導していた。
政党は選挙制度、選挙区割りの改革を求めていたが、そこから引き受けた。我々NGOが引き受けることで、別のレンズから見ていこう、と。
私はこのような運動を率いていくとは思っていなかった。我々はひどい攻撃を受けた。ブルシで10年ほど闘争を繰り広げた。
その中で、街中で訴え、国会に請願するだけではなく、立候補を出すことはどうなのか、と考え始めた。市民社会と緊密に協力してくれる人を選んではどうか、と議席を追求する方向に移っていった。それで、議会に声を届けよう、と。
我々10人候補者を立て、3人が当選した。
女性のフレームワークを持つことが大事。
自分だけで力が発揮できるとは思わないことが大事。
1人で成し遂げることは難しい。同僚たちときちんとコミュニケートすることが大事。
意見が異なる人の声を聞くことも大事。
批判を恐れることはない。ヘイトスピーチにつながるものは良くないが、批判を聞きたい。身近な人たちからのサポートが大事。
私たち10人、いろんな批判にも直面し、デモに出る。自信が出てくる。

私たちは、常に正しいわけではない。
トレーニング、研修が必要。女性たちはどのようにして、家事を解決するか常に頭にあるが、それだけではなくて、女性たちは、それほど教育レベルが高くないかもしれないが、それはエクスポージャーが少ないから。
このような障壁は乗り越えていくべきで、教育、研修がそのために必要。

もう一つ必要なのは構造的変革。
ジェンダーを基準化する。
民主主義、女性の人権を推進するのは長い戦いとなるが、努力していかないといけない。
クオータ制が必要。女性がもっと参加しないといけない。女性のことを訴えていけるクリティカルマスが必要。
女性の議員がちゃんと国会に座り、ちゃんと問題を提起することが大事。

ブルシについて。
ブルシ1.0は非常に大きな存在で、5回のデモをしたが、一番大事なのは若い人たちの参加があったこと。
なぜ投票することが大事か、若者が理解するようになり、高い投票率を得た。
女性はブルシ運動を経たが、(最初の世代は)ママ・ブルシと呼ばれた。
スパイラル効果があった。人々が自分たちの権利を訴えること。私たちは女性運動とともにグリーン行動も訴えているが、公害、ごみ、レアアース、ダンピング……深刻な問題があった。全ての問題に声を上げ、行動するようになった。マレーシアにとって良いことだった。
女性であっても男性であっても全ての人たちが投票権を持つべきだ、と考える人は団結すべきだ。

私たちは逮捕された。
2016年、治安犯罪特別措置法の下で逮捕されたが、裁判も掛けられず、勾留が続き、家族や弁護士に会うこともできない。
そこで2016年11月にまたデモをしようとなり、それを妨害するために様々な罪状でデモを止めた。
だが、リーダーが逮捕された後でも、声を上げる運動に成長していた。
24時間のうちにデモを計画し、私を釈放するように動いた。
その時、女性運動の強さを実感した。

若い人たちが参加。
一晩、道に一緒にいて、2日間続けてデモをした。非常に参加者の数は多かった。警察が来て、デモを分裂させようとした。
デモの反対者の赤シャツ隊は、運動に反対し、イスラム教徒に反対。その人たちは非常に暴力的だった。肉体的に物理的に私たちのサポーターを攻撃し、恐怖を与えようとしていた。このように血まみれになるぞ、と。怖がらせることを公共の場でやるのに、警察は止めなかった。
政治家になる、政治家であること、独立候補ではあるが、もし選出されたならば、どのような変革を求められているか、伝えて欲しい。それが私たちの役割だと思った。
市民社会とのつながりを私たちも使いたいと思うし、理解して欲しい。
女性政治家は、保守的な男性優先的姿勢に遭うが、だからこそ私たちは女性の問題を訴えていることに慣れている。
そして私たちは包摂的ではない、と感じることがない。
マレーシア議会では、女性政治家が声を上げると、ヤジ、意地悪が多い。ジョークとして言っているつもりかもしれないが、ジョークではない。自分たちが小さな存在だと感じさせたいのだろう。
今は議事の規則として、性差別的な発言をしたら謝罪しないといけない、と決まった。
よりジェンダーに配慮してもらう。男女を問わず、適切な法律のために立ち上がってもらう。ヘイトスピーチを国会では許さない。
誰が立候補できるのか、ゲートキーパーが判断する。ほとんどのゲートキーパーは男性なので、女性は働かないと認められない。戦って変えていかないといけない。

地元の選挙区で私は、私がイスラム教徒ということで、いろんな要求があった。スカーフをかぶらないことについて、分かってもらえなかった。
モスクに行き、祈りの場に行くことは欠かさなかったが、最も重要なことは、物理的な面で対応するだけではなく、有権者、あなたたちのことを配慮している、と示すこと。
コロナの危機の下、私は十分な資金援助を得たので、モスクやスーラにお金を配った。きちんと援助することを欠かしてはならない。有権者の福利厚生を考え、行動に示すことが大事。
約束したならば、私は必ず実行をしたい。そうすれば、分かってもらえるようになる。

私の事務所にはたくさんの人が押し寄せる。私に助けて欲しい、という人が押しかけてくる。
どの政党に所属しようと、あなたの主義主張と合致しているのかどうか、常に考えないといけない。
時には私の発言が政党にとって受け入れられないこともあるようだが、それが私の主義主張で、それで有権者に選ばれた。
票を投じてくれた人たちへの責任だと思う。

移民の問題。問題を移民のせいにする傾向がある。
最初に非難されるのは移民労働者。コロナの原因、本国に戻さないと、と言われるが、我々マレーシア自身が移民労働者を連れてきた。
家内労働者、プランテーションでの労働者。
PCR検査は移民労働者にも同じく実施するべき。密な状況に押し込めることはするべきではない。
移民の問題は私にとっても大事。声を上げ、私に賛同しない人もいたが、間違ったら詫びれば良い。謝罪すれば良い。自らの主義主張に基づいて発言すべきだと思う。
私としては以上です。

質疑応答

Q:
MeToo運動のようなことはあるのか。

マリア:
アクティビズムはそこまで大きな運動ではなかった。
1985年、私がマレーシアに帰国した際、同じように海外に留学していた多くの女性たちがマレーシアに戻ったが、最初のワークショップで女性に対する暴力、DV、メディアの女性への扱い、セックスワークについて議論した。例えば、セックスワーカーについても人権がないといけない。
ジョイントアクショングループを作った。だいたい10の女性組織が一緒になり、力を合わせた。もう30年経って、若い人たちに世代交代はしているが、法改正を訴えてきた。
デモもしてきたし、レイプに反対もしてきた。女性運動はポンと生まれてきたわけではなく、20年くらい続けてきて、ブルシ運動と相互補完した。
若い人たちもソーシャルメディアなどを通じて参加している。それは私たちにとってプラスだった。スピーディーな形で活動することができたから。
女性運動をしている時に、我々が唯一行動できるのは、記事を出す、現場に出てチラシを配る、ということがあったが、ソーシャルメディアでは非常にたくさんの人たちが情報が届いていて、多くの人たちの動員をすることができた。
街頭でもで50万人くらいが参加したが、それでモメンタム、弾みがついた。女性運動は続いている。イスラム教徒の女性の問題も続いている。
私が初代のこの運動の会長ではない。アメガさん、非常に勇敢な女性。非難は彼女にも向いていたが、声を上げた。第1代、第2代の会長のおかげ。委員会は我々を裏切らなかった。お互いにコミュニケーションを取ることが大事。
デモにはたくさんの人たちが来てくれることが分かり、自信になった。
警察は我々のデモに対して暴力的だったが、デモによって死亡者が出るかもしれないから、ディスカッションをして、慎重に評価をして、どのようにデモ参加者を守るか、という議論をする必要もあった。
私の息子も、私がブルシの会長をしている際に脅されたりもしたが、そういうリスクも取らないといけない。全員がリスクを取らないといけないわけではないが、前進するためにはサポートが必要だ。

Q:
若者の投票率は。

マリア:
マレーシアは21歳で投票権があり、この度、18歳に引き下げられた。
実際、多くの若者が投票した。若者が投票することは大事。自分たちも参加している、この国の一員なんだ、変革できるんだ。そういうメッセージを若者たちに伝えることが大事。若者にもっと投票してもらわないといけない。若者が未来だから。
若者は参加している。そして我々にとっては女性が重要だと思っている。マレーシアではまだまだ女性の伝統的な役割が尊重されている。
誰に投票するか、夫が決めることがあるが、女性が自分の意思で投票することが大事。
私の選挙区でも、もっと若者に関心を持ってもらいたい、と活動している。
社会運動にはなかなか出てきてくれない。
ブルシ運動後、こういう運動は少なくなっている。若者には刺激を与えないといけない。

Q:
2方面展開が必要。男尊女卑の人たちとどう対峙していくか。一般の人たちにどうアウトリーチしていくのか。
男女平等が既に達成されていると考えている人たちにどうアプローチするのか。そもそも無関心な人たちもいっぱいいる。男性の参加を促す必要がある。一般の人たちに仲間を増やすためにどんなことをしてきたのか。

マリア:
常に伝統的な考え方をする人たちはいる。
社会を見る時に、自分とは違う考え方の人たちもいるが、いろんな人たちが声を上げることが大事。だから、自分が声を上げることが大事。
どのようにして、人々に声を上げさせるか、は難しいこと。
大きな戦いだが、今、ブルシ運動の役割が小さくなってきたように思う。
今の政府はバックドアガバメント。きちんとした選挙をせず、前の政権を引き継いだもので、あまり社会変革に積極的ではないところがある。
今の政権、前の政権を批判することも大事。
将来、こういうことを望んでいる、ということ、一般の人たちはもっと改革を必要としている、ということ、政権はもっと人々の声を聞くこと。
どの社会にもプロセスは存在する。声を上げて、一貫して、みんなで声を上げる。そういうプロセスはあるし、重要だ。

Q:
クオータ制は日本ではまだ広く知られていない。女性のみならず、社会の様々なマイノリティー、移民、若者、障害者など、政治に声を届けにくい社会グループがある中、女性のクオータを推進する理由は。

マリア:
女性が人口の半分を占めている。もちろん、障害者も高齢者も入る。他のグループも女性に含まれている。単に女性だけ、ではなく、先住民も貧困に苦しんでいる人たちもいるし、色々。
私たちの話すクオータ制は受け入れられているわけではない。実績主義、能力主義であるべきだ、と言われる。
候補者として判断、審査が必要。知識、能力があり、自信を持って候補者として振る舞えることが大事だが、政党でもNGOでも女性たちを訓練することができる。自分たちが欲する候補者を育てる。人々のために働いてもらうには、研修、訓練が必要。国民全体に奉仕できることが大事なので、私は研修、訓練が大事だと訴えてきた。
みんな基本的なことしか教えないが、将来の候補者はもっと知見が必要。なぜ腐敗が悪いのか、教える必要がある。
国会議員は国民全体に奉仕しないといけない。女性だけではない。全ての国民のために奉仕できる、包摂できるように、研修が大事。教えるべき。全ての人に耳を傾けるべき。全ての人がより良い、資源、サービスを受けられるべき。その中で長期的な変革が成し遂げられると思う。

Q:
公教育の中での進展は。主権者教育、人権教育が必要だが、今のマレーシアの現状は。

マリア:
全ての人たちが勉強できるわけではない。実質的な変容が必要。学校に来られず、インターネット環境が無い人たちにはリソースが必要。学習をし続けられるようにしないといけない。eラーニングで全てが解決するわけではない。
私の選挙区を見ても、子どもたちの80%は学習ができず、ドロップアウトした。パソコンやタブレットがなく、勉強に関心を失ってしまった子たちもいた。
それでお答えになっていますか?

おわりに

恥ずかしながら、(今回はオンラインではあるが)直接、マレーシアの国会議員の方の話を聞く機会を得ることはなかなかなかった。
今回、マリアさんは市民運動家のスタンス、女性としてのスタンスからの話をされていた。
私もマレーシアについては報道や研究を通じて、もしくは現地に行った際に接することができる人たちを通じて、幾ばくかの物事は学んできたが、マレーシアの全てを知るにはまだまだ知見が足りないため、マリアさんの目から見たマレーシアの今を聞くことは、現在のマレーシアの一側面を学べる良い機会となった。
自分の思い描く社会の実現のために声を上げつつも、国民全体の奉仕者であるべきだというスタンスには共感したし、自分の考えが間違っていた際には素直に謝罪してリスタートする大切さや、教育や研修の重要性について述べていたことも、とても素晴らしいスタンスだと思った。

今回のコロナ禍を経て、社会の、世界の様々な課題がより一層鮮明になってきている印象を受けていて、自分の価値観や世界観も揺さぶられることが度々あり、この間、本当、いろんなことを考えるようになった。
話を聞いたばかりでまだまだ十分に咀嚼できているわけではないけれど、多拠点居住のマインドには、あらゆる国や社会のスタンスを相対化しつつ、自分にとってその時々でより良いものを選択・吸収できるというメリットがあるように感じている。
今回のお話で学んだこともしっかりと糧として、今後の社会や世界を生き抜いていく上でのベースを改めて考えて行きたい。


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