星空

姉さんがいた

「お姉さんいますよね?」
 
深い夜の寒空の下で、
 
占い師に言われて一瞬、
戸惑いました。
 
新宿の西口に
夜だけ現れる占い師。
ある日、僕はそこに座ったのです。
 
 
 
でも、僕は長男。
2個下の弟がいるだけ。
 
当然、
 
「いや、長男ですよ?」
 
と返します。
 
 
 
彼は動揺するのではなく
「ウーン」と小さく考えた後、
 
「あなたの前に、
1人”いません”でしたか?」
 
そう言うんです。
 
 
 
過去形です。
 
ドキッとしました。
 
 
・・・そうです。
 
 
実は、僕には

姉がいます。
 
 
しかも、
 
『いたらしい』
 
というのが
正しい答えです。
  
 
・・・
 
  
僕が生まれる前、
 
僕の母は、
流産を経験しています。
 
 
1人目の時に
流産してしまったんです。
苦労してやっとお腹に宿った命で、
相当悔やんで、自分を責めたそうです。
 
そんな挫折を乗り越えての
僕の誕生だったそうです。
 
それは知っていたんです。
 
 
 
でも、まさかそんなところを
見抜かれるとは・・・。
 
 
 
占い師はつづけます。
 
「あなたは、
その”お姉さん”に守られて、今まで生きてきたんです。」
 
僕はそう言われて
怖いとは思わず
むしろ妙に納得していました。
 
 
 
僕は今まで
 
浪人を経て友だちゼロになり、
ひとり暮らしで借金もして、詐欺に遭い
電気が止まることもたまにあって、
 
自分でも
(よく生きてきてるな)
(よく死ななかったな)
と思っていました。
 
でも、いつもギリギリのところで
仕事をもらえたり、
誰かの助けをもらったりして
どうにか生き延びてきました。
 
 
  
そんな死にかけの僕を
見えないところで救ってくれたのが
 
姉さん、お姉さん、姉・・
 
なんと呼ぶか迷う
その人だったらしいんです。
 
 
 
ずっと欲しいと思っていた
姉さん。
 
(ずっといたんだ。)
 
そう思ったら、
 
なんだかとても、
 
心が満たされていく気持ちがしました。
 
 
 
なんとなく、
腑に落ちたような、
 
点と点とが
つながったような
感覚を味わっていました。
 
 
 
 
僕はあふれるほどの
愛情を与えられてきたと
思っています。
 
両親だけでなく、
おばあちゃんもおじいちゃんも、
親戚も、近所の人も
 
みんな可愛がってくれたことは
聞いたことがあるし、
 
なんとなく自分でも
わかっていました。
 
そこに
姉さんもいたってことなんです。
 
 
 
目に見えないことは
なかなか信じられない僕ですが
 
この出来事は
涙が出そうなくらい
嬉しいことでした。
 
なんだか少しだけ
強くなれたような気がしました。
 
 
 
今もそう。
 
きっとどこかで
姉さんは見てるんですよね。
 
「無理しないで。」と言ってるのか、
「たたかえ!」と言ってるのか、
「やっと気づいたんだ。」なんて言ってるのか。
 
たぶん全部言ってるかもしれません。
 
何も言わずに微笑んでいるのかもしれません。
 
 
 
ずっとあとになって、
姉さんと会ったときに
 
「ごめん。」じゃなくて
「ありがとう。」と
 
ハッキリ言えるように、
 
今日もこれからも、
しっかり生きていこうと思います。
 
 
 
だって、今もずっと
見られているでしょうから。
 
 
 
nagatouch

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