【短編小説】破壊したい愛
《約800文字/目安3分》
私はゴミだ。
ポテトチップスが入っていた袋、塩気が残っている袋。
いま私は、アスファルトの上に転がっている。アスファルトの冷たさと小石が体に刺さって、とても痛い。
私は目を閉じた。
そのとき風が吹いた。強い風だ。
ぶわっと吹いた風は、私を宙に浮かせて、一回転させた。
私は驚いて目を開けると、目の前には大きな空があった。
そして、遠くには苦しそうなカラスがいた。
俺はカラスだ。
真っ黒な鳥、嫌われ者の鳥。
いま俺は、空を飛んでいる。君に会うために。
俺は、君に恋をしている。この恋は実るものだと、根拠はないがそう思っている。
俺は一点を見つめた。
そのとき風が吹いた。強い風だ。
俺は吹き飛ばされてひっくり返った。
入道雲をなぎ払うような強風だったが、なんとか体勢を持ち直して、羽を振った。
だけど、どうしても前に進めなかった。羽をちぎれるくらい大きく振っても、君への愛が空ぐらい大きくても。
風は容赦なく、俺を君から遠ざけた。
──もしかしたらこの風は、君が望んでいるものなのかもしれない。
多分君は、俺からの愛を望んでいないのか。
そのことに気づいたとき、とても心が痛かったが、俺は羽を振ることをやめられなかった。
しかし、遠くから何かが近づいてくるのを見つけて、俺は羽を振ることをやめた。
それはだんだんと近づいてきて、それがポテトチップスの袋だとわかったとき、俺は泣いた。
ポテトチップスの袋が俺に向かって飛んでくる。そのたくましい姿は、俺を励ましているようだった。
この風のおかげで俺は前に進めた……そう言える日がくると信じて、俺は泣いた。
ポテトチップスの袋は、俺の横を通って、空の彼方へと飛んでいった。
風に身を任せる、それもありか。
俺は羽を切り落とした。
そして。
俺たちは、空高く飛んだ。
私たちは、空高く飛んだ。
◆長月龍誠の短編小説
◆【短編小説】ありがとうを言えない
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