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マイクロノベル集 198「どちらまで?」

No.1209
小雨が降る日に、駅の改札で時刻表をもらった。発車時刻の代わりに、車両が雨雲とすれ違う時刻が書かれている。「最近の気象庁はこんな仕事をやってるんだね」お父さんはつまんなそう。AIに仕事を取られてヒマなんだって。時間があるならあそぼ。


No.1210
新幹線でゆったりと座っていたら、隣の人の音漏れが気になってきた。お嬢さん、知っているのか? そのポットキャストの小説、途中でバンド演奏シーンがあるんだ。どうする、教えるか? 爆音の下ネタソングですよ、って。


No.1211
AIのおかげで「今の気分にピッタリな歌」を聴けるようになったのは嬉しいんだけどさ。「隣のおじさんが靴を脱いで足を投げ出した歌」とか必要ないんだよ。そんなことで気分は紛れないんだよ。「消臭剤の宣伝ソング集」もいらないよ!


No.1212
目を覚ますと知らない駅にいた。そうか、電車の中で眠っちゃったんだ。ぼくは生まれて初めて海に来た。「この電車に乗れば帰れるよ」ありがとう。優しい駅員さんがくれたオレンジジュースは、少し潮の香りがした。これは、海が消えた国で聞いた話。

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眠れない夜に

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