見出し画像

歴史思考を読んで【読書の秋2022】

いま話題の「歴史思考」を読みました。

わたしは循環器内科医で心臓の医者をしています。

正直に申し上げまして、これまでの人生において、歴史の勉強はないがしろにしてきてしまいました。

そんな中で、各ポッドキャストで上位を総なめしている「歴史を面白く学ぶコテンラジオ」に出会いました。

「歴史思考」はコテンラジオの深井龍之介さんが書かれた本です。

本書をわたしの視点で少しだけひも解いてみようと思います。

 

当たり前って当たり前?

歴史を学ぶことのおもしろさは、我々が当たり前と思っていることは実はそうではないということに気づかされる点にあります。

日本では特に同調圧力が強く、「当たり前に」「普通」であることが求められるように思います。

そのような「普通」の常識や価値観に合わせることができない人は、そのズレに苦しんでしまうことがあるのではないでしょうか。

しかし、仏教では唯識、ニーチェは背後世界と説いたように、常識や価値観は一定のものではありません。

歴史思考では具体例を示し、我々の固定観念を崩してくれます。

その内容を少し紹介します。

  • 帰る家がないのが当たり前

  • 社会的弱者への配慮がないのが当たり前

  • 略奪や暴力は良いこと

  • 同性愛を否定することは歴史的には特殊なこと

かなり衝撃的ですよね。

常識や価値観は、時間的にも空間的にも一定ではないことがわかります。

歴史思考を読むことで、我々の当たり前は当たり前ではないことを、疑似体験的に理解できます。

本書には、

歴史を知るということは、決して退屈なお勉強ではなく、僕らの「当たり前」が、当たり前ではないことを理解するということなんです。
僕はそれを、「メタ 認知」と呼んでいます。
「メタ」は超えるという意味なので、「メタ認知」は今の自分を取り巻く状況を一歩引いて客観的に見る、といった意味です。 

とあります。

そして、

歴史を知ることによるメタ認知のことを、この本では「歴史思考」と呼びます。

歴史思考を身につけるのは一朝一夕にはいかないでしょう。

しかし、歴史上の事実を知るだけでも「普通からのズレ」による苦しさを感じている方の助けになるのではないかと思います。

 

偉人って何?

みなさんが思い浮かべる偉人って誰ですか?

ガンディー、吉田松陰、ブラウンワルド、、、人それぞれに偉人像があると思います。

そして偉人と比べてしまい、自分が情けなくなってしまうこともあると思います。

果たして自分は本当に情けないのでしょうか。

ここでは後世に多大なる影響を及ぼしている偉人として、イエスや孔子が紹介されています。

 

イエス

イエスは生きている間は、ちょっと話が上手い元大工にすぎなかったと解説されています。

イエスはユダヤ教の新説を唱えたことで、政治犯として十字架にはりつけにされます。

はりつけの刑は政治犯に一般的に適用された罰だったようです。

凡庸にも見えるイエスの人生は、その死後2000年以上、世界の文化や思想を支えるキリスト教につながります。

 

孔子

孔子は日本人の文化や思想にも深く浸透している、儒教の礎を築いた人物です。

しかし孔子も生きている間に、何か特別な功績を上げることはできませんでした。

政治家として名をあげることはかなわず、何なら失脚して逃亡生活をする羽目になっています。

 

ここでイエスや孔子といったとんでもない「偉人」も、生きている間はパッとしない人生だったとも言えることがわかります。

新約聖書も論語も彼らの死後に作られたものです。

そしてそれらはいまの世界を形作っています。

彼らの人生から言えることは、

今、この瞬間だけを切り取って人間を評価するのは危険です。
僕たちは、長くても100年前後しか生きられませ ん。
それなのに、今の自己評価で自分を卑下するのはやめたほうがいいのではないでしょうか。
どうしても 卑下したいなら、少なくとも1000年くらい様子を見てからにしましょう。

この一節すごく救われますよね。

さらに、その自己評価というのは何の価値観に当てはめたものでしょうか?

その価値観は本当に「当たり前」ものなのでしょうか?

そんなことに思いをはせながら、わたしに響いた一節をもう一つ紹介します。 

 ”生きてるだけで丸もうけ” でいきましょう!!

 

非暴力・不服従の人々

ここで、「歴史を面白く学ぶコテンラジオ」についてもちょっとだけ触れさせて頂きます。

コテンラジオ本編では、歴史思考の中では書かれていないことも詳細に紹介されています。

特にガンディーやキング牧師、中村哲先生といった人物を紹介してくださいましたが、彼らの生き方は混沌の時代を生き抜く指標にしたいと思わせるものでした。

彼らの貫いた非暴力・不服従は、単に「頭がお花畑」と言われてしまう代物とは違います。

ガンディーは歴史における革命で暴力を伴わないものはないとの主張を、

今まで起こらなかったことは、これからも起こらないとの確信は「人間の尊厳への不信」を表している。

ガンディーとチャーチル(上): 1857-1929 アーサー・ハーマン著

と退け、非暴力・不服従の思想を詳細に体系化しました。

そしてガンディーは「インド独立の父」として知られることになります。

さらに、キング牧師や中村哲先生はその思想を直接的に、もしくは間接的に取り込みました。 

おそらく彼らは各々、バガヴァット・ギーターやキリスト教思想、論語などの知識から、自分なりの非暴力・不服従という知恵に転換し、自らの活動に活かしたのだと思います。

依然として暴力はなくなってはいませんが、少なくとも彼らが動かした世界は、非暴力での革命が可能であることの証明です。

これは知恵の勝利だと思います。

また、彼らは平和であることの難しさも説いています。

殺すことのできない人間に非暴力を教えることはできない

ガンディーとチャーチル(上): 1857-1929 アーサー・ハーマン著

平和は戦争以上の忍耐と努力が必要

中村 哲

一時の平和を享受できている我々が、彼らのような巨人の肩の上に立ち、率先して平和への知恵を働かせていくことで、幸せに過ごせる人々が増えることを望みます。


さいごに

わたしは医師をしているため、理系の勉強をメインにしてきました。

理系の勉強は答えが決まっているものが多く、またどちらかというと実利的な感じがします。

 

科学技術の進歩がもたらした功績は大きく、医療もその多大なる恩恵を受けています。

しかし、理性万能主義ともいえる科学への信仰は、時に人を残酷にし、悲惨な事態を生じ得ます。

現在では知識を簡単に手に入れることができますが、手に入れた知識を適切に知恵へと昇華させることは簡単ではありません。

昨今の民主主義や資本主義の限界のようなものが見えてきているなかで、手軽ですぐに答えのでることや、すぐに利益につながることばかりに収れんしてしまうのではなく、哲学や人文学的な知識を持ち、知恵を働かせていくことが、これから生きていく我々にとって重要なのではないかと感じています。

そのような知恵の入口として、わたしはコテンラジオに注目しています。

わたしが歴史的人物に感銘を受けたように、歴史を学ぶことで未来の自分像を結ぶ補助線が引かれます。

そして、ある意味で歴史の歯車を逆回転させない姿勢が、ポスト民主主義、ポスト資本主義の課題へのヒントになるのではないかと思います。

 

ちょっと小難しいと思われるようなことも書いてしまいましたが、本書では他にも、

  • 超タフなケンタッキーおじさん「カーネル・サンダース」

  • 奇跡の人ヘレン・ケラーを支えた「アン・サリヴァン」

といった人物の、感動的で示唆に富んだ人生が紹介されています。

「歴史思考」というタイトルからすると、難しい本なのかなと思ってしまうかもしれませんがそうではありません。

気軽に手に取ってほしい一冊です。

歴史上の人物との出会いは、きっとあなたの心を軽くしてくれます。

この記事が参加している募集

読書感想文

最後までお読み頂きありがとうございます! よろしければスキ、フォローお願いします!