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ボケとツッコミ、雑談とラジオ。

私の母親は、昔からすごくひょうきんな人で、
私が外へ出かけようと支度する最中にちょっかいをかけたり、玄関でタコ踊りをしながら「とおせんぼ」をしたりするような可笑しな人だった。

なんでこんなひょうきんな親からこんな根暗な自分が産まれるんだ、と思うくらい。

そんなとおせんぼがウザったくなり、無理やりどけて逃げるように玄関を出るようになった中学から高校にかけて、私はよく母親に叱られる事がある。

ちゃんと今のボケ、ツッコミなさいよ!

なんだか気恥ずかしくて、私がその場を無理やり片手間でやり過ごしてしまってた分、少しだけ寂しかったのか、そういう風に怒られるような事がしょっちゅうあった。

なぜだか母親は、根っからの東京生まれ、東京育ちの人なのに、ボケとツッコミをかなり大切にしている人だった。

確かに家族みんなテレビっ子だし、バラエティ番組をよく見る。
因みに、うちの家族は3個下の弟と、9個下の妹がいて、三人兄弟で、私が長男。

そんな三兄弟に向かって、母親は「今のツッコミ、面白い!IPPON〜!」と言う。(IPPONグランプリみたく。)

母親のボケに対して、弟や妹が角度をつけたキレッキレのツッコミを繰り出した時に発生する謎のアナウンス。
母親が繰り出すボケは、大概しょうもないダジャレか、変な言い間違いである事が多いのだが、弟と妹はそんな母親の揚げ足をとるのが非常に上手い。

ツッコミを受けるのがすごく嬉しかったのか、そんな時に必ず「それ、IPPON〜!」が発生する。
そして全力で笑って、褒めてくれる。

思えば私は、弟と妹ほど母親からのIPPONをあまりもらえた事がなかった。
逆に「ツッコミなさいよ〜。」「え?今の無視?無視?」とかダル絡みをされる事が多くて、
大学に入って真っ先に実家を出るまで、そこに対する煩しさと気恥ずかしさは最後までなんだか拭えないままだった。


時が経ち、大学を卒業して
いざ社会に出てみると、ハウスメーカーの営業というものは簡単ではなくて、
モデルハウスにやってくるお客さんのお家づくりを全力でお手伝いしなくてはいけない。

セールスをするというのは、シンプルにお客さんと仲良くなることが必要。
ましてや、住宅営業というものはウン千万というローンを組んでもらい、
大金が動く契約のサインをもらいに行く仕事だ。


最初に、モデルハウスにお客さんが訪れ、お話をする。
お家づくりの計画から家族構成はもちろん、
お客さんとのコミュニケーションの中から、普通だとまず聞くことはない年収だって、聞きにくいことを何とか聞き出さないといけない。

三年間この仕事をしていて、沢山の人の接客をしていると、
お家づくりに対する、人それぞれの沢山の考え方があり、生き方があることを思い知らされる。
お客さんが頭の中に想像しているマイホームのイメージ。理想の生活。
それらの情報は何気ない雑談からポロっと出てくることが多い。

病院のカルテを読み合わせるようにアンケートを上から下まで形式的に質問をするだけでは到底引き出せないであろうお客さんが考えている"本音"の事情。

「いや実はね、実家の近くのお家が解体されたのを見て、チャンスだ!と思って、勢いでそこの土地、買っちゃったんだよね。
だから、建物どうするか早く決めなくちゃいけなくて。」

少しばかりシャイなお客さんから「いや、実はね?」を引き出せた時は、非常にテンションが上がる。
ある程度モデルハウスの中で雑談を繰り返して波長が合わないと、このシャイなお客さんから今の情報は引き出すことが出来なかったであろうと感じる。


接客をするうえで、色んな人と顔を合わせ、経験を積んでいくと、つくづく雑談の大切さに気付かされる。
今になって、なんでもっと小ボケばかりを連発する母親とコミュニケーションをとることが出来なかったのだろうと後悔の念が湧き上がってくる。

ボケとツッコミというのは、人との関わりを深めるうえで実は大事な、基本中の基本のコミュニケーション術だ。
しょうもないダジャレに一言、シンプルに「しょうもないな!」と反応するだけでも、それは立派な掛け合いになり、優しい心がけになる。

昔から無口で人見知りだった私に対して母親は、結局それを一番伝えたかったんじゃないかな。といま、思う。

大事なのは、

ちょっとした雑談から、お客さんの出身を聞き出す。

そうすると、これから建てようと思っている土地の住所とお客さんの出身地が極端に近い事に気づく。

ここにすかさずツッコめるか、ツッコめないかで、会話の質が大きく変わってくる事を大人になった今、身にしみて感じてる。

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大事なのはボケとツッコミ。円滑な掛け合い。コミュニケーション。

今年の一月、私はpodcastを始めた。
相方との二人ラジオ。

二人きりの配信物という事で、お互い納得のいかない出来のトークは配信する気も毛頭ない。

そのために今、私は人との掛け合いをこの歳になってすごく頑張ってる。

「そんなツッコミじゃお笑い芸人になれないよ!」と母親に言われ、
「ハナからなる気がないわ!」とツッこんであげた時の母親の顔は確かに嬉しそうだった。

本気で私の事をお笑い芸人に仕立て上げようとしてた母さん。
天然な部分をツッコまれ、いつも恥ずかしそうに照れ笑う。

今、私は元気にやってます。
恥ずかしいので、当分ラジオの存在は伝えないでいようと思います。
お笑い芸人にもなる気はありません。

そんな親不孝もののお話でした。

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