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カルタをしよう。いっしょいっしょだね【子育てエッセイ】

我が家には現在6歳の娘と4歳の息子がいる。上の娘はしっかり者で、下の息子はちょっとぼんやりしている。たまにケンカもするけれどとても仲良しでいつも一緒だ。

そんな中、先日娘をジジババの住む実家にあずけて、息子一人だけを自宅に連れ帰ることになった。いわゆる娘のお泊り教育でなんだけど、姉・弟が離れて一夜を過ごす、これは息子にとっても珍しいことで、結果として彼にはほんの一日だけ姉の居ない空間を自宅で味わってもらうことになった。

実は今回のお泊りは姉の教育という面よりも息子の教育の面が強かったのだ。

そういうのも、なにせ息子にとっては生まれた時から姉の存在が常にあるわけで、どうしても姉のいる弟としての暮らしを余儀なくされるところがあり、私たち夫婦にとって一抹の心苦しさを感じさせる要因となっていた。具体的にいえば教育ひとつをとってみても、親と子が一対一で向き合う時間、そういったものが生まれた時から取りにくいのだ。単に分散されるのではない。丁寧さが奪われる。賑やかなのはいいが、なんとなく雑になるのである。

例えばカルタ取りをしたとするよね。

娘が一人だけの時はゆっくりと教えることができた。それこそ絵札とひらがなの文字を関連付けて伝えながらゆっくりと楽しんだ。娘も飲み込みが早かったのでこちらも苦労は少なかった様に思う。

それが二人目となると途端にできなくなったのだ。と言うのも教えているその矢先から姉が絵札をポンと取ってしまうのである。教育よりもゲーム優先になる。娘も息子も負けず嫌いである。終いには息子は絵札が取れなくて泣いてしまう。
「弟の為に待ってあげて」と声をかけても娘もまだ我慢できる歳ではないのだ。いや、待ってくれることもあるんだけど、『早く次の札を読んでよ』という視線を浴びる為こちらとしても急かされてしまう。もう一度言うね、教育としてのカルタではなくゲームとしてのカルタで終わってしまっていた。

そんな日が毎日続くため、息子の教育自体が手薄になっていたと思う。丁寧に教えてあげなきゃいけないなと思いながら出来ずに過ごしていた。
もともと言葉の発達が遅いこともあり、ゆっくりのん気に過ごしていたが、そろそろ文字としてのひらがなの存在くらいはしっかり認識させなくちゃいけないよなと心を改めた。息子はひらがなを認識していない。いや認識しているかもしれないが会話の中で『“あ”はどれ?』と訊いても反応してくれないのだ。彼はコミュニケーションが苦手で他人からの問いかけに対して上手く反応できない。会話による意思疎通が不得手なのだ。

カルタ取りが出来るんだからひらがなも分かってるんじゃないかと思われる方もいるかも知れないが、これがそうとも限らないのである。

どうやら息子はひらがなをマスターせずに、耳から聴こえてくる札を読む声と絵札の図柄だけを見てカルタ取りをしているようなのだ。たしかにゲームとしては成立する。でもそれだけじゃあ駄目だよね。もう一歩進まなきゃ。

こうして読み札と絵札、そして絵札に書かれた一文字のひらがなに対して『この一文字のひらがなは言葉を理解する上で意味のある記号なんだよ』と息子に教え込むこと、これが今回の課題となった。
娘がジジババの家にお泊りしている間にこのミッションは速やかに執り行われた。

ミッションの手順を簡単に説明するね。

まず、いつものようにカルタ取りをするんだけど、そこで我々夫婦がとった作戦は『息子が絵札を取るたびに、ホワイトボードに一文字のひらがなを大きく書いて、すぐに見せてあげる』というものだった。

上手くゆくだろうか?

作戦が決まれば後は実行に移すだけである。
私たちはホワイトボードに書いた文字を息子が絵札を取るたびに見せつける。「ほら、この文字を見て!絵札に書かれている文字と一緒でしょ?ひらがなって言うのよ。」
必死に息子に語り掛ける。

反応がなければもう一度ゆっくりと大きくホワイトボードに文字を書く。とにかく息子の視線を文字に集中させる様に努力する。

「ほら、牛の絵の横に文字があるでしょ?『う』っていうのよ、それ!」

「う!分かる?う!う!」

傍から見てると馬鹿みたいに見えるかも知れないが親は必死なのである。
やがて息子はこちらの意図をくんでくれたのかようやく言葉を発してくれた。
「いっしょ、いっしょ、、」
彼はホワイトボードの文字と絵札の文字をたしかに見比べている。

「そう。そうよ。いっしょいっしょよ。」妻も私も泣きそうになった。

やった、成功だ。私たち夫婦は歓喜に沸いた。

こうして息子はようやく文字を文字として認識し始めたのだ。
集中力が続かないので、50音すべてはカバーできなかったが、確実に前よりも進歩した感触があった。成長は遅いけれども丁寧に接すれば応えて理解してくれることが分かった。この日は大切な一日となった。

その後、youtubeでひらがなの読み方や書き順を教えてくれるチャンネルをみつけたので、早速続けて息子に視聴させてみた。
果たしてどうなるのだろう。

彼は、テレビの画面に映った大きな文字に指をなぞらせて動かしはじめた。今までは文字を指でなぞるなんてことはしなかった。彼は文字を認識している。
そうだ。それでいいんだ。息子よ、それがひらがなだ。

ありがとう、カルタ。
ありがとう、ホワイトボード。
ありがとう、youtube。

この夏、彼はひとつ成長したのである。

#エッセイ #子育て #ひらがな #言葉の発達

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ここのコメントを目にしてくれてるってことは最後まで読んでくれたってことですよね、きっと。 とっても嬉しいし ありがたいことだなー

本当に?うれしい
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仲 高宏

色々とあるけれど、ここでは即席の物書きとして過ごしている。普段は会社員として働いていて、それで奈良市在住。妻と娘・息子の四人家族。最近はエッセイを書いていることが多いかな。 twitter︰@naka3ws ◇◇◇ blog:http://naka3ws.jp/
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