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思い出される悪質タックル

日本大学フェニックス出身の同学年の選手と、社会人でチームメイトになりました。彼はクォーターバックで、大学4年次に私から受けたタックルのことを覚えていました。

「あれはレイトタックルだった」

雨のナイターの中、ボールを持つ赤いユニホームの10番を追いかけ、左の足にヘルメットをぶつけにいきました。相手もタックルに構えていたのでしょう。ズッシリとした重い感触が未だに首に残っています。パス失敗のボールが転がっていくのが見え、反則を示す黄色のフラッグを探しました。反則は無く、ギリギリ紙一重のプレーでした。

2021.10.7  日本大学付属病院建設工事をめぐり、日大理事が逮捕されました。私の住む板橋に日本大学病院はあり、私はここで産まれました。10年ほど前から改修工事の話しがありますが、一向に進む気配がありません。

逮捕された理事は、数年前の日大アメフト部の「悪質タックル問題」の時に、選手たちに口封じを命じたそうです。今、あの当時のことが鮮明に思い出されます。

2018年アメフトを引退して数年が経過していました。「悪質タックル問題」が一斉に報じられ、かなり肩身の狭い思いをしました。危険タックルの映像が何度もテレビで流され、アメフトをする人間は野蛮だと言われている気がしました。

あの反則は、レイトタックルといって、クォーターバックがボールを投げ終わった無防備なところにタックルをする危険行為です。ボールを持っていれば反則にはならず、そのギリギリのラインは審判の判断になります。

話題になった危険タックルは、ボールを投げ終えてから、かなりの時間が経過していたため、相手選手は完全に無防備な状態でした。あれほどの反則は見たことがありません。狂気のようなものを感じました。

徐々に私のまわりで、チームの指示であったという噂がたつようになりました。そして、その数日後のワイドショーで、選手の会見が映されていました。仕事中にも関わらず、勇気を持って発言する二十歳の若者を食い入るように見ました。

「監督コーチからの指示に追い詰められて悩み、正常な判断ができなかった」

「やってしまったあと、とんでもないことをしたと涙が出た。」

「相手選手や相手チームに謝罪をしようとしたが監督コーチに止められた。」

日大アメフト部には、私が現役時代にお世話になったコーチが居たため、複雑な気持ちでした。そして、二十歳の自分と、この学生を重ねていました。

私の所属していた専修大学アメフト部は、その当時、他チームから噂されるほど上下関係が厳しい部でした。今でも当時の先輩に会うと、毛穴が開くような緊張が走ります。先輩やコーチに、口答えなどできるわけなどありませんでした。チームに伝わる伝統というものだと思います。

しかし、日本大学の厳しさはそれ以上であると聞いていました。こんな話を聞いたことがあります。

日大フェニックスは、チームの伝統で、不死鳥をイメージさせる「亀」を代々飼い育てていました。下級生が世話をしていましたが、ある日「亀」が死んでいることに気づきました。自分たちの代で、死んではならない「亀」死なせてしまったとあれば、どんな罰がくだされるのか。その学年全員で夜中にも関わらず、ペットショップのというペットショップの扉を叩きました。影武者の「亀」をどうにか手に入れ、何事も無かったようにすり替えておくことに成功しました。

ネタとして面白い話ではありますが、やはり俗世間とはかけ離れた雰囲気があります。

監督コーチからの指示を、二十歳の選手に拒否する判断能力は無かったと、容易に想像することができます。しかし、それ以上に思うのは、私があの立場であったなら、記者会見に臨む勇気は無かったということです。大人たちの支えはありましたが、彼の勇気はたくさんの共感を呼び、相手チームの監督まで動かしました。今、彼は社会人の強豪チームで活躍しています。

その後、日大フェニックスは活動を自粛し、2部リーグに降格しました。しかし、新しい監督コーチの元、昨年の2020年甲子園ボウルまでたどり着き、ライバルの関西学院大学と大学日本一をかけて戦いました。伝統ある強豪チームが、クリーンに復活したことを素直に嬉しいと感じます。

近年、アメリカの手法を取り入れて、日本の大学スポーツが興行化しようとしています。努力を重ねるアスリートにスポットライトが当たることは望ましいことです。アスリートたちに利益が十分に還元される仕組みになることを願っています。

nakaba ueno
上野 央

日大アメフト部を立て直し、昨甲子園ボウルに導いた監督は、その甲子園ボウル翌日に契約満了を告げられました。「契約延長を望んだが、自分の考えは日大式でなかったのだろう。」とコメントしています。
専修大学グリーンマシンも頑張って復活してほしい!

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