半人前の共感力。【大学生編】|エッセイ
布団から起き上がる前の、まどろみの時間。
夢うつつの中にいる一瞬だが、永遠かのように感じることがある。
私はまだ、生きている。
正確には、生かされている。
今日もまた、一日が始まる。
いつ死んでもおかしくないのが人生なのに、奇跡だな。
そんな人生の再確認からスタートする私の一日。
なんでそんなこと思うかって?
夢の中で、沢山の人に出会うから。
私の夢では、自分たちはまだ若く、未来への希望に満ちている。
手を取り合って、一生共に頑張っていこうね!と誓っている。
でもその約束は、時間の流れと共に、少しずつ形を変えていく。
友情や愛情に永遠なんてないよ。
今は一緒に頑張っていても、そのうち生きる場所が変わってくるから。
訳知り顔の大人にはよくそう言われた。
その度に、若い私は反発した。
私たちの絆の深さを舐めるんじゃない!
80歳のヨボヨボのおばあちゃんになるまで、ずっと一緒なんだから。
今考えると、浅はかな突っ張りだったと思う。
変わるまい、と最後まで意地を張り続けていたのは私だけで、皆は少しずつ、大人になっていったのかもしれない。
そんな青い春を、今でも思い出すのが、布団から起き上がる時の、一瞬のまどろみ。
瞼の裏に焼きついているのは、人生に深く関わった人たち。
夢の中では時を超えて、いつだって会うことができる。
けれども、夢から醒めたら、また彼らのいない日常へと戻っていく。
それでも、人生の苦難を共に分かち合った日々は忘れない。
滅多に会う機会がなくても、共に生き、それぞれの与えられた環境で、最善の道を歩んでいると信じて、今日も一歩を進める。
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私の強みの一つは、共感力だと思っている。
自分で言うのもなんだが、一人ひとりの気持ちに寄り添って、その心情を理解しようという思いが強い方だと思う。
ただ、この共感力とは、正しく身につけていなければ、諸刃の剣となる。
すなわち、良い効果もあるが、悪い結果が出ることもあるのだ。
私たちが、本当に苦しい時。
ただ寄り添い、話を聞いてくれる人がいるだけで、心が癒されることもある。
でも、相手の問題は、ただ理解するだけでは、根本的な解決には至らないことも多い。
解決なき共感は、ただの同情となり、時に自分の心を曇らせる「悩み」となる。
悩み相談を「される側」になるには、相手の問題を理解するだけではなく、「どうしていくべきか」の解決案を出せる必要がある。
問題解決能力とは、自分を犠牲にせず、相手も幸せにするために、必須な能力だ。
これができてはじめて、真の「共感力」と言うべきかもしれない。
そこには、依存心や馴れ合いではなく、自立した友情があるべきなのだろう。
今日はそんな私の、半人前の共感力について。
第二弾です。
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Sと出会い、仲良くなったのは、大学生の時。
正確には、共通の友人がいた関係でお互い存在を知ってはいたが、直接話したのは大学入学後、サークルの新歓だった。
当時のSは、イケメンの彼Kに夢中。
私が声をかけても、いつもKの話ばかり。
「Kはどこにいるの?」
それしか聞かれなかったような気もする。笑
サークル内でも、どこへ行くのも、何をするのもKと一緒。
ただ、このKが少しやっかい者だった。
根はいいヤツなんだろうけど、何やら地元の暴走族に足を踏み入れていたのだ。
そのおかげで、Kがよく分からない連中とケンカに出かけたり、逆に他の暴走族と思しき一味に追われている時もあった。笑
一方、彼女であるSの方は、ファッションこそギャル風なものの、マザー・テレサを尊敬して看護師を目指す、という超純な一面を持っていた。
Sと話すと、いつも誰かのために何かをしてあげたい、という思いを持っていたし、そのギャル風ファッションとは裏腹に、とても真面目で優しい子だというのが分かった。
残念だったのは、Kと一緒にいたために、Sも不良だと周りから思われがちだったこと。
人を見た目で判断してはいけないと言うけれど、どうしても皆、不良グループの彼と行動を共にする人は、不良だと思うのだろう。
彼女は違う。
不良グループの抗争の中にいるべき人じゃない。
直感的に思えたことだけは、当時の自分を褒めてやりたい。
SがなんでそんなにKに惹かれるのか?
それはずっと考えたのだけど、ぶっ飛びすぎた共感力と慈愛によるところも大きかったのかもしれない。
困っている人を放っておけない、という彼女の優しすぎる一面が、Kを見捨てなかった。
確かに、Kには正義感が強く、頑張り屋の一面もある。
そして何より、Sが大好き。笑
自分にはもったいないくらいの、天使のような彼女だと心のどこかでは分かっていただろう。
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そんなSとKのカップルだったが、時折問題が起きる。
Kがケンカ越しになると、手が出てしまうのだ。
誤解のないように言っておくと、Kは普段はSが大好きだし、たとえ族の一味といえど、家族は人一倍大事にするヤツだ。
でも、カッと怒った時に、衝動が抑えられないのだ。
鍛えられたKの腕力に、女性が勝てるわけはない。
Sは何度も、Kに怒りをぶつけられ、泣いていた。
しかし、Kが後から我にかえり、「そんなつもりはなかった、ゴメン‼️」と謝るから、別れられないというのだ。
私からしてみれば、どんな理由であれ、女性に暴力を振るう男はアウト。
衝動的に手を出してしまった後に、平謝りする。
これ、よくあるDVの典型的なパターンだと言う。
しかも、謝るだけでなく、ものすごく優しくしてくるらしい。
だから、手を出された方もなかなか関係性を断ち切ることができない。
Sも持ち前の優しさがあって、いつもKのことを庇っていた。
「Kはわざとじゃないんだ」
「家族思いの、良いところもあるんだ」
「複雑な家庭の育ちだから、私がいて支えてあげなきゃ」
「今はちょっと、大変なことがあったから、たまたまなんだ」
そうだろう。
全部その通りなんだ。
でも、そんな事を言っていたら、いつまで経ってもSは自分の人生を生きることができない。
問題を持つ人に対しては、共感して寄り添うだけではなく、解決策を出してあげなければ本人のためにならない。
時には厳しく突き放してあげた方が、本人のためになることもある。
「別れた方がいい。その方がSのためにも、Kのためにもなるよ」
そう言えればよかったのだが、Kが大好きなSを見ていると、言えなかった。
半人前の共感力の、弱い自分がまた存在していた。
Sもまた然り。
助けを求めている人から離れることができない、という問題を抱えていた。
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ある時、SはとうとうKに耐えられくなって逃げてきた。
私が夏合宿で食堂の準備をしていると、泣いているSが転がり込んできたのだ。
ああ、Kがもうヤバいところまで来たな。
聞かなくても状況が分かったので、すぐに救護室へ連れて行き、一旦かくまった。
Kは怒ってSを探していたが、養護の先生にも頼んで、Sはいないことにしてもらった。
結局、その先生から、
「別れた方がいい。Sちゃんの良さがどんどんなくなるよ!」
とピシッと一喝!
ああ、先生、それ私が言うべきでした!
先生からは、DVを受けている女性専用の駆け込みマンションもご紹介いただいた。
Sとしても苦渋の決断だったと思う。
Kに何とか闘争の道から足を洗わせて、真っ当に、日の当たる道を歩かせたいと願っていたのもよく分かった。
でも、S一人の導きでは、限界が迫っていた。
これ以上Kに付き添っていたら、いつか命が危ないのではないか、と私も思った。
SはKと別れ、自分の道を歩き始めた。
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Kと別れた後のSは、みるみるうちに本領発揮した。
ほとんどの労力をKに向けていた分、後輩たちのライトな悩み相談に乗る事など、朝飯前だったろう。
なんといっても、どんな罪を犯した人でも見捨てない、愛情深い一面は、多くの人の心を育ててくれた。
Kと一緒にいた頃のSを知っていた人々の中には、
「本当にあのSちゃんなの?」
と驚く人もいた。
そうだよ。あのSだよ。
というか、今も昔も変わらんよ。
強いて言えば、より本来の良さを発揮したかもね。
昔からSをよく知る私は、心の中でとても誇らしかった。
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現在、Sは聖職者の道を歩んでいる。
マザー・テレサに憧れて、看護師の道を志したが、看護だけでは人の心を救えない、という決断のもと、より崇高な道を選んだ。
人に流されず、我が道を進むSらしい選択だと思う。
巫女やシスターは異性関係のない人が望ましい、という説もあるが、逆もまた然り。
人生のどん底・苦しみを知った人だからこそ、神の道に辿り着く人だっている。
壮絶な経験から得られる悟りはきっと深く、多くの人の心に寄り添える可能性に満ちている。
Sは私の尊敬する親友の一人。
元々、人の心に寄り添うことが得意だった彼女の共感力は、当時とは比べものにならないほど、大きく進化している。
どんな人にも慈愛の心を持ち、間違っている時にはピシッと叱ってくれる、素敵な女性です。
Sの未来が大きく花開かれることを、心から祈っております。
【Sへ🌸】
いつも皆の幸せを祈ってくれてありがとう。
辛い時には、Sが祈ってくれている!と感じるから、私を含め、皆が励まされているよ。
困った時に聖職者の親友がいるって、最高に心強い。
私もいつか、Sの祈願を受ける日を楽しみに、一日を進んでいます。
進む道は違うかもしれないけれど、目指す場所は同じだと信じているよ。
こんなnote書いてたら、コラ!って連絡来そうだけど🥹笑、それも含めて、とっても尊敬してます。
それぞれの持ち場で、今日も一人でも多くの人を、幸せにしていこうね。
【完】
シロクマ文芸部、小牧幸助様、企画参加させていただきます。
よろしくお願いいたします☆
※このエッセイは、小牧幸助さんの主催する企画に参加しています。
「布団」から始まる作品を、エッセイとして書いてみました。
皆様、温かくお見守りいただければ幸いです。
※〔半人前の共感力。〕第一弾はコチラです。
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